エンベロープジェネレータ完全ガイド:仕組み・種類・音作りテクニック

エンベロープジェネレータとは何か

エンベロープジェネレータ(Envelope Generator、以下EG)は、時間経過に伴うパラメータ変化を生成するモジュール/機能で、シンセシスにおける音の立ち上がり・持続・減衰を制御するために用いられます。最も典型的な用途は音量(VCA)やフィルターのカットオフ(VCF)の制御ですが、ピッチやパン、エフェクト量など任意のパラメータに割り当てて音色の時間的変化を作ることができます。EGは「発音の輪郭」を定義するため、音色設計において極めて重要な要素です。

基本要素:ADSRとその派生

EGの基本的なパラメータは、ADSRとして知られる以下の5要素で表現されることが多いです。

  • Attack(立ち上がり): 音が最大レベルに達するまでの時間。
  • Decay(減衰): 最大レベルからサステインレベルへ落ちるまでの時間。
  • Sustain(サステイン): キーが押され続けている間の維持レベル(時間ではなくレベル値)。
  • Release(リリース): キーを離した後、音がゼロ(または指定レベル)になるまでの時間。

これに加えて「Hold(ホールド)」を含むAHDSRや、Decay/Releaseを2段にした多段のEG、ループするEG(ループモードでLFOのように振る舞う)など、より細かい制御を行える派生形も存在します。シンプルなAR(Attack-Release)やASR(Attack-Sustain-Release)など、用途に応じて構成は変わります。

トリガーとゲート:EGの動作信号

EGは外部からの信号で動作します。代表的な信号には「トリガー(Trigger)」と「ゲート(Gate)」があります。トリガーは短いインパルスでEGのAttackを開始する命令で、ゲートはオンの間EGをサステイン段に保持する信号です。鍵盤でのノートオン/ノートオフは内部的にトリガーとゲートに変換され、ゲートがオフになるとRelease段へ移行します。モノフォニック機やレガート演奏の設定によっては、レガートで再度鍵を押してもEGが再トリガーされない(Attackされない)場合があります。

エンベロープの曲線(カーブ)と音響特性

EGの各セグメントは単純な直線(線形:linear)で作られる場合もありますが、音が自然に聞こえるよう指数関数的(exponential)や対数的(logarithmic)カーブで設計されることが多いです。特に音量の減衰は耳の感度(デシベルスケール)に合わせて指数的にすることで自然な余韻が得られます。多くのソフト/ハードシンセは「カーブ」パラメータを備え、立ち上がりや減衰の直線度合いを調整できます。

アナログ実装とデジタル実装の違い

アナログEGはRC回路やコンデンサ充放電を利用する単純な回路から、トランジスタ/OTA/オペアンプを用いたより複雑なものまで様々です。これらはスムーズなカーブと微妙な不確定性(オフセットや温度ドリフト)を特徴とし、いわゆる「アナログ感」を与えます。一方でデジタルEGはサンプル単位で計算され、任意の多段形状や正確な同期(BPM同期)、ループ、CV/MIDIマッピングが可能です。デジタルは再現性と柔軟性が高く、複雑なモジュレーションマトリクスと相性が良いですが、サンプルレートや内部補間方式による微妙な差が音質に影響することがあります。

EGとエンベロープフォロワーの違い

混同されやすいのが「エンベロープフォロワー(Envelope Follower)」です。EGがトリガー/ゲートに応じて内部的に生成する時間変化であるのに対し、エンベロープフォロワーは入力オーディオの振幅からリアルタイムで包絡線(envelope)を抽出し、その信号を他のパラメータに送るものです。例えば、ドラムトラックの大きさに応じてフィルターを開く、あるいはコンプレッサの検出信号を外部へ送る—といった使い方ができます。用途は似ていますが、働き方(生成 vs 抽出)が異なります。

実践的な音作りテクニック

  • パーカッシブ(短いプラック系)音:Attackは最速(0〜10ms)、Decayは短め(50〜400ms)、Sustainは低めまたはゼロ、Releaseは短め。短いDecayと低いSustainでピック系の減衰を再現できます。
  • ベースのアタック感(パンチ):VCAは速いAttackで、VCFに短いDecayでフィルターをアタック寄りに動かすとリズムに乗るパンチが出ます。エンベロープ量(env amount)で影響度を調整。
  • パッド・クワッド:Attackを遅め(数百ms〜数秒)にしてゆっくり立ち上がるサウンド、Sustainをある程度高め、Releaseを長めにして余韻を伸ばす。Filterに長めのEGを使うと揺らぎのある暖かいパッドになる。
  • ピッチエンベロープ:リードや特殊効果に有効。短いAttackと短いReleaseでピッチに瞬間的な上昇や下降を与えるとエッジが立つ。反転(負の深さ)させると逆の変化に。
  • 複数EGの併用:AMP用EG(音量)とVCF用EG(フィルター)を分けることで、抑揚と倍音構成を独立してコントロールできます。例えば、速いフィルターEGと遅いAMP EGを併用すると、トランジェントのあるがまろやかなリリースを両立できます。
  • テンポ同期:DAWや一部のシンセではEGの時間をBPMに同期させ、1/4、1/8など音楽的な長さで指定可能。リズミックなモジュレーションに便利です。
  • ベロシティとキートラック:エンベロープのレベルやタイムをベロシティで変化させると、演奏にダイナミクスが出ます。キートラッキングで高音域のEGタイムを短くするなど調整も有効です。

モジュラー/ハードウェアでの扱い

モジュラー環境(Eurorack等)ではEGはCV(Control Voltage)信号としてパッチされ、Gate端子やTrig端子で同期されます。一般にモジュラーのEGはAD、ADSR、AHDタイプなど多様で、アウトプットに正極性/負極性の切替があるものや、トリガーの反応速度、ループモード、サイクルモード(LFO化)など機能が豊富です。ハードのEGは電源や温度に敏感なため、実機ごとの個性(ドリフトやリニアリティの違い)が音作りに影響します。

一般的な数値目安(実用ガイド)

  • Attack:0ms(ほぼ瞬間)〜数秒。パーカッシブは0〜10ms、パッドは500ms〜3000ms。
  • Decay:20ms〜数秒。プラックは50〜400ms。
  • Sustain:0〜1(レベル比)。基準は最大振幅の割合。
  • Release:10ms〜10秒以上。リバーブテイルと馴染ませるなら2秒以上を試す。

これらはあくまで出発点で、音源や楽曲コンテクストにより最適値は大きく変わります。

よくある間違いと注意点

  • Attackを最速にすれば良いという誤解:極端にゼロに近いAttackはエイリアシングやクリッピングの原因になることがあり、実機では“クリック”が出ることがあります。微小なAttackを設定する際はフィルターやポップ防止回路を併用するか、ほんの僅かのAttackを入れると良いです。
  • サステインの誤認:Sustainは時間ではなくレベルです。Decayが終わった後に保持される音量を指します。
  • GateとTriggerの違いを無視:Gateが短いとReleaseに入るため、想定より短い音になることがあります。特に短いノートを素早く鍵盤連打するときは注意が必要です。
  • ルーティングの過負荷:多くのパラメータをEGで動かすと管理が複雑になり、相互作用で思わぬ挙動を招くことがあります。まずは一つのEGで一つの目的に絞り、段階的に増やすのが安全です。

現代的な進化:マルチセグメントとダイナミックEG

近年のソフトウェア/高機能ハードでは、従来のADSRを超えたマルチセグメントEG(MSEG)や曲線編集可能なEGが搭載され、非常に自由度の高いモジュレーションが可能になりました。時間・レベルのポイントを自由に打ち込めるタイプや、ランダム化、アルゴリズミックに変化するEGなど、音響的に複雑な表現が容易になってきています。

実践例:コモン・パッチ(すぐ使える設定)

  • スネア系(アタック強調):VCA:Attack 0-5ms, Decay 100-200ms, Sustain 0, Release 50-150ms。VCFに短いADで倍音を強調。
  • エレピ/プラック:VCA:Attack 1-10ms, Decay 200-800ms, Sustain低位, Release短め。フィルターに短いADを与えると金属的なアタックが出る。
  • シネマティックパッド:VCA:Attack 1s〜6s, Decay任意, Sustain高め, Release数秒〜長め。VCFも穏やかなEGで動かす。

まとめ

エンベロープジェネレータはシンセシスの基礎かつ最重要要素の一つで、音の時間的な輪郭を作り出します。基本的なADSRの理解に始まり、カーブ特性、トリガー/ゲートの挙動、アナログ/デジタルの違い、そして実践的な音作りテクニックを学ぶことで、より表現力豊かなサウンドを設計できるようになります。モジュール的に複数のEGを使い分けたり、エンベロープフォロワーと組み合わせたりすることで、さらに応用範囲は広がります。

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参考文献