ダンスバンドとは|歴史・音楽的特徴・代表者・現代への影響を徹底解説
ダンスバンドとは — 概要と定義
ダンスバンド(dance band)は、主に社交ダンスの伴奏を目的として組織された大編成(あるいは中編成)のポピュラー楽団を指す用語で、1920年代から1940年代にかけてアメリカやイギリスを中心に大きく発展しました。ジャズやスウィングと密接に関係しつつも、即興的ソロよりもダンスに適した明確なリズム、アレンジされた楽曲、踊りやすいテンポや曲調を重視する点が特徴です。
起源と歴史的変遷
ダンスバンドのルーツは19世紀末から20世紀初頭のダンスホールやサーカス楽団、ホテルのハウスバンドにまで遡れますが、用語としての花開きは第一次世界大戦後の1920年代です。アメリカではポピュラー音楽としてのジャズが発展し、録音技術とラジオ放送の普及がダンスバンドの全国的な流行を支えました。1920年代から1930年代にかけて、多くの大編成バンドが全国ツアー、レコーディング、ラジオ出演で名声を得ます。
1930年代半ば以降、スウィング時代(Swing Era)が到来し、ビッグバンドの編成・アレンジ技法が洗練されました。第二次世界大戦中は戦時下の制約や徴兵などで楽団運営が難しくなった一方、軍隊や国内での娯楽需要によりダンスバンドの存在は戦時の士気高揚にも寄与しました。戦後になると、ビバップやR&B、ロックンロールなど新しい音楽潮流の台頭、経済的要因やライフスタイルの変化により大編成バンドの主流性は徐々に後退していきます。
音楽的特徴と編成
- 目的志向のアレンジ:ダンスバンドは「踊れる音楽」を最優先とするため、ビートの安定性、明快なフレーズ、耳に残るメロディを重視します。ソロは存在しても、即興の長いソロを前面に押し出すことは少なく、アンサンブルやリフ、ショウトコーラス(shout chorus)を効果的に使います。
- 典型的な編成:トランペット3〜5、トロンボーン2〜4、サックス(または木管)3〜5、リズムセクション(ピアノ、ギター、ベース、ドラム)。初期にはベースの代わりにチューバが使われることもあり、弦楽器やハーモニカ、さらにはヴォーカルを加える編成もあります。
- テンポとダンス形式:ワルツ、フォックストロット、タンゴ、スウィングの4ビートなど、社交ダンスの種類に合わせた多様なテンポ設定が行われます。テンポはダンスフロアの需要に合わせて細かく調整されました。
- アレンジ技法:ヘッドアレンジ(即興的に詰められたリフ中心の編曲)、書かれた楽譜による精緻なスコア、カウンターメロディやホーンのハーモニー、リズムの緩急操作などが行われます。ドン・レッドマン(Don Redman)らはビッグバンドの編成とアレンジ技法を確立した重要人物です。
代表的なバンドリーダーとその意義
- ポール・ホワイトマン(Paul Whiteman, 1890–1967):1920年代の「キング・オブ・ジャズ」と称された存在で、オーケストラ的なサウンドでジャズのポピュラー化を推進しました。クラシック的な編成志向と商業的手腕で大衆の支持を得ました。
- フレッチャー・ヘンダーソン(Fletcher Henderson, 1897–1952):1920〜30年代にかけての編曲・アンサンブルの革命児。彼のバンドで発展した和声進行やリズムの処理は1930年代のスウィング形成に大きな影響を与えました(ドン・レッドマンも重要なアレンジャーでした)。
- ベニー・グッドマン(Benny Goodman, 1909–1986):スウィングを商業的に成功させたクラリネット奏者兼バンドリーダー。1935年のカーネギーホール公演などでジャズの地位向上に寄与しました。
- ジャック・ハイルトン(Jack Hylton, 1892–1965)/バート・アンブローズ(Bert Ambrose, 1896–1971):イギリスにおけるダンスバンドの代表格。英国内でのラジオ放送やダンスホール文化を牽引し、英国独自の“ダンスバンド”文化を形成しました。
- ガイ・ロンバルド(Guy Lombardo, 1902–1977):トロント出身で北米で人気を博した舞踏音楽の実力者。スムーズで親しみやすいサウンドを前面に出し、年末番組での定番など商業的成功を収めました。
社会的・文化的役割
ダンスバンドは単なる音楽団体に留まらず、社交の場を提供する存在でした。1920〜40年代のダンスホールは異世代・社会階層をつなぐ社交空間であり、ダンスバンドは大衆文化の形成に寄与しました。また、ラジオ放送やレコード産業との結びつきにより、都市と地方を横断して音楽スタイルや流行を伝播させる役割も果たしました。映画やミュージカルとも親和性が高く、ハリウッド映画におけるダンスシーンや戦時中のエンターテイメント提供にも深く関与しました。
衰退と変容 — 戦後の展開
第二次世界大戦後、複数の要因でダンスバンドの形態は変化します。大編成を維持する経済的負担、若年層の音楽趣向の変化(ビバップ、ロックンロールの興隆)、レコードやラジオ以外の娯楽の多様化などが重なり、1940年代後半から1950年代には小編成コンボや歌手中心の編成が増えました。しかしダンス音楽そのものは消えたわけではなく、社交ダンスや舞踏会の需要は存続、大学や市民オーケストラ、ホテルバンド、舞踏会専門の楽団などに形を変えて残りました。
現代のダンスバンドとリバイバル
1990年代のスウィング・リバイバル(スウィング復興)や近年のレトロ人気により、ダンスバンド形式のバンドやビッグバンドを復活させる動きが見られます。スウィング・ダンス(リンドィ・ホップなど)の復興、市民バンドやプロのダンスオーケストラ、映画や舞台での再現演奏など、さまざまな形態で現代に継承されています。また、現代のアレンジャーやバンドは過去のレパートリーを演奏するだけでなく、現代曲やポップスをダンスバンド用に編曲して新しい聴衆を開拓しています。
演奏・編曲上の実践的留意点
- リズムの一体感:ダンスバンドではリズムセクション(コンピング、ベースライン、ドラム)がダンサーの歩幅やテンポに直接影響するため、テンポ管理とビートの明瞭性が重要です。
- ダイナミクスの設計:踊りやすさを損なわない範囲でのイントロ、ブレイク、リフの挿入。ショウトコーラスやサビの処理でダンスフロアを盛り上げます。
- アレンジ技術:ホーンのハーモニー、リフの反復、対位法的要素を用いるとともに、ソロは短めにまとめて楽曲の流れを保ちます。
- 選曲:ダンスの種類(ワルツ、フォックストロット、タンゴ、スウィング)に適したレパートリー選定が鍵です。古典的スタンダード曲のテンポ調整やメドレー化も有効です。
聴きどころ・おすすめ録音
- Paul Whiteman — 1920年代のオーケストラ的ジャズ録音
- Fletcher Henderson Orchestra — スウィング形成期の名演
- Benny Goodman Orchestra — 1930年代後半のスウィング代表作
- Jack Hylton / Bert Ambrose — 英国ダンスバンドの代表録音
- Guy Lombardo — 社交ダンス向けの滑らかな演奏
まとめ — ダンスバンドの現在価値
ダンスバンドは、単に昔の音楽様式ではなく「人々が身体を動かし、社交するための音楽」という明確な機能を持った文化的装置でした。20世紀前半に確立された編成とアレンジのノウハウは、現代の大編成演奏やダンス文化にも遺産として残っています。時代の変化により形を変えつつも、ダンス音楽の核となる「踊るための音」は、今日でもライブ会場や舞踏会、リバイバル・シーンで生き続けています。
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参考文献
- Dance band — Wikipedia (英語)
- Big band — Encyclopaedia Britannica
- Paul Whiteman — Encyclopaedia Britannica
- Duke Ellington — Encyclopaedia Britannica (参考: スウィング期の文脈)
- Swing revival — Wikipedia (英語)
- AllMusic — 各アーティスト情報/ディスコグラフィ(総合参照)
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