「パスボール」完全解説:定義・判定基準・捕手と投手の対策、練習法まで
はじめに:なぜパスボールを深掘りするのか
野球における「パスボール(PB)」は一見すると単純なミスのように見えますが、試合の流れを大きく左右する重要なプレーです。ランナーの進塁、得点の可否、投手と捕手の評価、そしてチームの戦術にまで影響を与えるため、その判定基準や技術的背景を理解することは指導者や選手、ファンにとって有益です。本稿ではパスボールの定義、ワイルドピッチとの違い、審判やスコアラーの判定、技術的な対策と練習法、試合への影響までを体系的に解説します。
パスボールとは何か(定義)
パスボールは、捕手が通常の守備位置で「普通の努力」で捕球・処理できるはずの投球を捕れず、その結果として走者が進塁した場合に捕手に記録される守備上のミスです。統計上は「PB」と表記され、捕手の記録に影響します。判定においては「普通の努力で捕れたかどうか」が基準となり、必ずしも捕球直後の動作だけでなく、投球の速球性・変化の大きさ、捕球位置、走者の状況などを総合的に判断します。
ワイルドピッチ(WP)との違い
似た概念にワイルドピッチ(WP=Wild Pitch)があります。ワイルドピッチは投手側の責任とされ、捕手が普通の守備では捕球できないほど制御が難しい投球(大きく外れた球や思いがけないバウンドなど)で、これにより走者が進塁した場合に投手に記録されます。簡単に言うと、捕手に責任があると判定されればパスボール、投手に責任があると判定されればワイルドピッチです。
- パスボール(PB):捕手の責任。普通の努力で捕れたとスコアラーが判断。
- ワイルドピッチ(WP):投手の責任。捕球が困難な投球で走者が進む。
この区別は記録面だけでなく、失点の性格(責任の所在)や選手評価にも直結します。
スコアラーの判断基準と得点の処理(Earned/Unearned)
スコアラーはプレーの全体像を見て、どちらに起因するかを判断します。一般的な基準は「捕手が通常の努力で止められたかどうか」です。判定は主観が入る部分もあるため、同じプレーでもスコアラーによってPBと判定されたりWPと判定されたりすることがあります。
得点処理(Earned run/Unearned run)への影響については重要です。原則として、ワイルドピッチによって走者が進塁し、最終的にその走者が得点に絡んだ場合は投手責任として「得点」は有得点(earned)となる傾向があります。一方、パスボールは捕手の守備ミス扱いのため、その進塁によって得点が生まれた場合には失点が無得点(unearned)扱いになり得ます。ただし、これは前後の守備や走者の出塁過程など試合状況により変わるため、最終的な得点の判定は公式スコアラーの裁量で決定されます。
具体的な場面例と判定の考え方
いくつか典型的な場面での考え方を示します。
- 速い外角低めの変化球が大きく外へ逃げ、捕手がブロックすらできず後方へ逸らした場合:WP(投手責任)と判断されやすい。
- 捕手のミットに当たったがはじいた、あるいは前方での捕球を落とした場合:PB(捕手責任)と判断されることが多い。
- 悪天候(強風やぬかるみ)や送球が不規則に跳ねた場合:状況を踏まえスコアラーがどちらかを判断する。
- 三振の末に捕球できず、走者が一塁へ達した場合(ドロップ・スリー・ストライク):状況によってはPBやWPが記録されるが、しばしば捕手の処理の可否で判断される。
捕手の技術と習得ポイント
パスボールを減らすために捕手が磨くべき主な技術は以下の通りです。
- 受けの基本(ミット位置・手首の柔軟性):球種ごとに最適なミット位置を保つこと。
- ブロッキング(体で止める技術):低めやワンバウンドする球を足・膝で確実に止めることで後逸を防ぐ。
- フットワークと体重移動:左右の動きをスムーズにし、変化球や外角球にも追随する。
- 捕球後の素早い送球動作(スローイング・交換):進塁阻止だけでなく、次のプレーへの準備を速める。
- 視野の確保と心理的安定:早めに球を見る習慣と、ミスを引きずらないメンタル管理。
練習メニューとしては、低めのワンバウンド処理、速球と変化球を混ぜた受け練習、ブロッキング専用ドリルなどが有効です。
投手側の視点:パスボールを避ける投球術
投手もパスボール削減に寄与できます。ポイントは次の通りです。
- 捕手の得意ゾーンを意識した配球:捕手が受けやすいコースを増やす。
- 制球の安定:特に低めや外角のコントロールを高めることでブロッキングしやすくする。
- サインの明確化とコミュニケーション:変化球を多用する場面で捕手と共有しておく。
- 捕手の立ち位置への配慮:捕手の構えを確認し、捕りやすい投球を心がける。
スコアや評価への影響(捕手・投手の成績)
記録上、パスボールは捕手の統計に直接カウントされ、ワイルドピッチは投手の統計に記録されます。これらは能力評価や契約交渉、試合における起用判断にも影響するため、選手個人にとって重要な指標です。ただし、単年のPBやWP数だけで評価するのは誤解を招く可能性があり、捕球機会や投手陣の特徴などコンテクストを加味する必要があります。
チーム戦術とパスボールの関係
戦術面では、パスボールやワイルドピッチがランナーの盗塁や送球戦術に直結します。例えばランナー1塁・2塁で投手がワイルドピッチぎみに投げると、走者は次の塁をねらいやすくなります。監督やコーチは捕手と投手の相性を踏まえ、盗塁阻止率やブロッキング能力を考えてバッテリーを組むことがあります。
審判とスコアラーの判断の実務(注意点)
現場では審判の判定ではなく公式スコアラーの裁量でPBかWPかが決まります。したがって、同じプレーでも異なる判定が下ることがあるため、チームは審判の目線だけでなくスコアリングの基準を理解し、客観的な映像分析を行って次に活かす必要があります。
トレーニングドリル(実践的)
捕手向けの具体的なドリル例:
- ワンバウンドブロッキング:低速から高速のワンバウンドを順にブロックし、素早く座る練習。
- ミット位置固定練習:コーチが指定するゾーンでひたすら捕球し、ミットの位置取りを身体に覚え込ませる。
- 不規則変化球処理:ランダムに変化球を投げ、捕球の反応速度を鍛える。
- 投手とのコミュニケーション練習:サイン確認やミット位置の事前共有を実戦形式で確認する。
まとめ:パスボールは個人技術とチームの連携の結晶
パスボールは単なるミスとして片付けられがちですが、その背景には捕手の基本技術、投手の制球力、チーム内の連携、さらにはスコアラーの裁量といった多くの要因が絡み合っています。記録上の分類(PBかWPか)や得点の扱いは試合の勝敗や選手評価に直結するため、選手と指導者は技術向上と情報共有を継続することが重要です。本稿で示した判定基準、技術、練習メニューを参考に、現場での実践につなげてください。
参考文献
MLB Official Baseball Rules (MLB.com)
MLB Glossary: Wild Pitch (MLB.com)
MLB Glossary: Passed Ball (MLB.com)
Society for American Baseball Research (SABR) — 野球統計・歴史の研究
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