野球の「セーブ」とは?定義・起源・戦術・評価を徹底解説

はじめに

野球の試合を締めくくる場面で登場する「セーブ」は、クローザーの功績を数値化するための代表的なスタッツです。しかし、単純に「試合を締めた回数」というだけではなく、ルール上の定義や運用上の背景、統計的な評価の問題点などを理解すると、見方が大きく変わります。本稿ではセーブの公式定義、歴史、実務上の使われ方、関連指標(ブロウンセーブ、ホールド、レバレッジ等)、近年の潮流とファンが押さえておきたいチェックポイントまで、深掘りして解説します。

セーブの公式定義(ルール)

セーブ(Save)はメジャーリーグベースボール(MLB)をはじめ多くのプロリーグで採用されている公式記録です。MLBの定義に基づく主な要件は次の通りです。

  • 試合を勝利で終えたチームの最後の投手であること(フィニッシャー)。
  • その投手が勝利投手でないこと(勝ち投手の条件を満たしていないこと)。
  • さらに以下のいずれかの条件を満たすこと:
    • リードが3点以内で、かつ少なくとも1イニングを投げて試合を終了した場合。
    • リードが3点を超えていても、登板時点で同点・本塁打で逆転可能な場面(=追い付けるランナーが塁上、打者、もしくは“on deck”(次打者)にいる)で登板した場合。
    • 3イニング以上投げて試合を終えた場合(スコアにかかわらず)。

この定義は1969年に新聞記者ジェローム・ホルツマン(Jerome Holtzman)が考案し、同年にMLBの公式記録として採用されたものが現在の形の元になっています。ルールの細かな解釈はリーグごとに運用が若干異なる場合がありますが、基本的な枠組みは上記に準じます。

セーブの起源と歴史的背景

セーブの考案は、救援投手の貢献を明確に評価する必要性から生まれました。かつては救援投手が勝利に与える影響を適切に評価する指標が乏しく、特に短いイニングで試合を締める投手の価値が数値に表れにくかったためです。ジェローム・ホルツマンはこのギャップを埋めるためにセーブという概念を提案し、1969年に公式化されました。

以降、クローザーという役割が確立され、9回1イニング拒否型の「ワンイニング・クローザー」が一般化しました。1970〜2000年代にかけては、多くのチームが第9回専任のクローザーを育成・起用する運用を採用し、セーブ数が投手の評価に直結する時代が続きました。

セーブ機会と「ブロウドセーブ」(Blown Save)

「セーブ機会(Save Opportunity)」とは、投手がセーブを記録できる可能性がある場面のことを指します。セーブ機会に登板して実際にセーブを記録すればセーブとなり、逆にリードを失ってしまうと「ブロウドセーブ(BS)」が記録されます。ブロウドセーブはリリーフ投手の評価におけるマイナス点であり、クローザーの安定性を測る重要な指標です。

ただし、ブロウドセーブの記録も単純な失点の数だけで評価できないことが多く、登板時の状況(満塁での一失点と満塁策の三振からの失点など)や防御率・被安打率、継投の状況など複合的に見ることが重要です。また、セーブ機会の数自体はチームの得点力や試合展開に大きく依存するため、投手個人の実力をそのまま示すものではありません。

ホールドやその他の関連指標

「ホールド(Hold)」は、セーブ以外のリリーフ投手の貢献を示す非公式の指標で、一般的にはリードを保ったまま次の投手に繋いだ場合に付与されます。ホールドは公式記録ではありませんが、チーム内での中継ぎの評価や配置を考える上で広く使われています。

その他、救援投手を評価する際に注目される指標には次のものがあります。

  • 被安打率、奪三振率(K/9)、与四球率(BB/9)、被本塁打率(HR/9)
  • FIP(Fielding Independent Pitching)やSIERAなど守備の影響を排した予測指標
  • Inherited Runners Scored(IRS)とその割合:継承した走者を何%帰したか
  • Leverage Index(LI):登板時の状況の重要度(得点差・回数・ランナー状況など)を数値化したもの
  • Win Probability Added(WPA)やRE24など、試合への勝利確率寄与を測る指標

とくにレバレッジ(Leverage)は、セーブが必ずしも最も重要な場面で生まれるとは限らないことを示すために有効です。最終回の3点リードは数字上はセーブ機会でも、実際の勝利確率の変動(=場面の重要度)は満塁での同点の危機などに比べれば小さい場合があります。

セーブ重視の運用とブルペン構成

伝統的なブルペン運用では「8回はセットアップ(セットアッパー)、9回はクローザー」が一般的でした。セットアップは8回や7回の高いレバレッジ場面を受け持ち、9回に負担をかけないようにする役割です。しかしこの固定化された役割分担が最良かどうかは近年の議論の対象です。

セーブを重視する運用の利点は明確で、クローザーという明確な役割があることで投手の精神的安定やチームの戦略的計算がしやすくなります。一方で、最も重要な局面(最も勝敗を左右する場面)に必ずしもクローザーが投入されないケースがあり、ここが批判の対象になります。

セーブ統計への批判と代替アプローチ

セーブは救援投手の貢献を可視化する簡便な指標として有用ですが、サベレジ(sabermetric)コミュニティからは次のような批判があります。

  • 場面の重要度(レバレッジ)を必ずしも反映しない。9回3点リードはセーブになるが必ずしも難易度が高いとは限らない。
  • チームの勝ちパターンや打線の強さに影響されるため、個人の実力を単純に比較できない。
  • 1イニング専任のクローザーを生み出し、より重要な高レバレッジ場面にベストの投手を回さない戦術が正当化され得る。

そのため、近年はLeverage Index(登板の重要度)やWPA、RE24、FIPやSIERAなど、より場面や投球内容を反映する指標を併用するのが主流です。例えば、チームの最重要場面(高いLI)に誰を投入したかを分析することで、より合理的なブルペン運用の評価が可能になります。

近年の潮流:クローザーの再定義と運用の多様化

近年は「クローザー制」に依存しない運用をするチームも増えています。最も勝敗に影響を与える場面にベストの投手を投入する「レバレッジ優先」の考え方や、状況に応じて複数の投手を適材適所で使う『クローザー不在』の運用が実践されることがあります。また、開幕から封じ込め役を固定せず、シーズンを通じて調子の良い投手を押し出す『クローザー・バイ・コミッティ』(closer-by-committee)も一つの選択肢です。

こうした変化は、データ分析の普及、投手の投球数管理(肩の負担管理)への配慮、相手打線への対策など複合的要因によるものです。ファンとしては単純なセーブ数だけでなく、どの場面でどれだけ効果を発揮したかを確認することが重要になっています。

ファンがセーブを観るときのチェックポイント

  • セーブ数だけでなく、セーブ機会数(save opportunities)とブロウドセーブ数を確認する。成功率を見ることで安定感が分かる。
  • Leverage Indexや登板時のランナー状況(無走者か満塁か)を確認し、実際の難易度を評価する。
  • IRS(継承走者生還率)を見て、走者を抑える能力をチェックする。
  • FIPやK/BBなど投球内容の指標を併用して、単なる運にも左右されていないか確認する。

まとめ

セーブは救援投手、特にクローザーの仕事を可視化する重要な指標ですが、それだけで投手の総合力を判断するのは危険です。起源を知り、公式定義の細部を理解し、ブロウドセーブやホールド、レバレッジといった関連指標と併せて見ることで、より正確に投手の価値を評価できます。現代の分析手法を取り入れつつ、実戦での起用や状況判断と合わせてセーブを読み解くことが、野球観戦をより深く楽しむコツです。

参考文献