同軸型スピーカー完全ガイド:仕組み・音響特性・選び方と設置・チューニングの実践ノウハウ
同軸型スピーカーとは何か
同軸型スピーカー(同軸スピーカー、coaxial speaker)は、低域〜中域を再生するドライバー(ウーファー、ミッドレンジ)の軸上に高域用のドライバー(ツイーター)を配置し、音源の中心を一致させる設計コンセプトを指します。物理的にドライバーの軸が同心円または同一線上にあるため「同軸(coaxial)」と呼ばれます。一般には「ポイントソース(点音源)に近い放射を得られる」ことを目標にして設計され、イメージングや位相整合で利点をもたらします。
歴史と代表的な実装例
同軸型のアイデア自体はスピーカー技術の初期から存在しますが、商業的に広く知られるようになったのは中〜後半の20世紀です。代表的な実装には、ツイーターをウーファーのセンターに配置するシンプルな構成や、ウーファーの中心からツイーターを前方に突出させるタイプ、ウーファー背面からツイーターをホーン的に展開するものまで多様です。メーカーではTannoyのDual ConcentricやKEFのUni-Qなどが歴史的・技術的に重要な例として知られ、プロ音響やハイファイ、カーオーディオなど幅広い用途に採用されています。
同軸型スピーカーの設計原理と利点
- 時間整合と位相整合の改善:物理的にドライバーの中心が一致するため、リスナー位置での音源位相差(経路差)が小さくなり、特にオンアクシス方向でのインパルス応答やステレオイメージの位相的整合が良くなります。
- 点音源に近い放射特性:理想的な同軸は一つの点から全域が放射されるように振る舞うため、中高域の定位や音像の安定感が向上します。音像のボーカルやソロ楽器が明瞭に定位する傾向があります。
- 設置やリスニング位置の自由度:マルチウェイで軸の異なるドライバーを用いる場合と比べ、ツイーターとウーファーで音像のズレが少ないため、聴取位置の移動に対して定位の破綻が起こりにくいという利点があります。
技術的な課題とトレードオフ
同軸設計には多数の利点がある一方で、解決すべき課題もあります。
- 相互干渉(機械的・空気力学的):ツイーターがウーファーの中心にあるため、ウーファーの振動や放射がツイーターに影響を与え、相互変調や不要共振が発生する可能性があります。設計はこの干渉を最小化するために複雑になります。
- 指向性の制御:ウーファー径が大きくなると中高域で指向性(ビーミング)が生じ、同軸でもオフアクシスの周波数特性が乱れることがあります。これは特に大口径の同軸で顕著です。
- クロスオーバー設計の難易度:ツイーターとウーファーが極めて近接しているため、パッシブクロスオーバーの位相補正やアコースティックディレイの扱いが難しく、最適化には測定と設計の反復が必要です。電子的なタイムアライメント(DSP)を用いる設計も増えています。
- コストと製造精度:高性能な同軸は機械加工やホーン設計、ツイーターマウントの精度などが要求されるため、一般にコストが高くなる傾向があります。
主要な設計要素(構造と音響処理)
同軸設計の性能は各要素の総合力によります。主な要素を列挙します。
- ツイーターマウント方式:ツイーターをウーファー前に出す、ウーファー中心に埋め込む、ウーファー背面に配置してホーンを介するなど。各方式で位相・指向性に差が出ます。
- フェイズプラグ/ウェーブガイド:ウーファーのセンターに取り付けるフェイズプラグやツイーター前のウェーブガイドは、放射の整合や高域の指向性を制御する役割があります。形状と寸法が周波数特性に大きく影響します。
- クロスオーバー(パッシブ/アクティブ):クロスオーバー特性は位相・振幅の整合に直結します。アクティブ(DSP)でフィルタやディレイを制御すれば、より精密な時間整合が可能です。
- エンクロージャーとバッフル:ウーファーの背後・周囲の構造やフランジ形状、バッフルの処理は低域の挙動だけでなく、中高域の回折やディフラクションにも影響します。
音響測定と評価方法
同軸スピーカーを評価する際は、聴感だけでなく計測が重要です。主に行うべき測定は以下の通りです。
- 周波数特性(オン/オフアクシス):オンアクシスだけでなく、±15°〜±90°のオフアクシス特性を測定して、指向性とトータルサウンドの一貫性を確認します。
- インパルス応答と位相特性:インパルスや群遅延(グループディレイ)を見ることで時間整合の良し悪しが分かります。点音源性を追求する場合、群遅延の急峻な変化は避けたい点です。
- 歪み解析(THD・高調波、IMD):ツイーターとウーファーの相互干渉が歪みを生むため、低域と高域での歪みを確認します。Klippelのような先進的な測定でドライバーの非線形挙動を解析することもあります。
- スイープとインテグレート測定:実用的には1/6〜1/12オクターブのスムーズな測定、およびルーム影響を減らすための近接測定/無響室測定が推奨されます。
用途別の特徴と選び方
同軸スピーカーは用途により適した設計が異なります。
- リスニングルーム/ハイファイ:点音源性と滑らかな指向性が得られるため、ボーカルやアコースティック楽器の再現で魅力を発揮します。高品位な同軸ほどステレオイメージが安定します。
- プロ用モニター/スタジオ:定位の正確さと位相整合が重要なため、同軸モニターが好まれることがあります。モニター用途では周波数レスポンスのフラットさが最優先です。
- カーオーディオ:車内は狭くリスナーの位置が固定されないため、同軸スピーカー(コアキシャル)は利便性が高く、コンポーネント式よりもコストや取り付け性で有利な点があります。ただし、車内の反射やインストールによるチューニングが重要です。
設置・チューニングの実践テクニック
- トーイン角とリスニングポジション:リスニング位置に対してスピーカーの向きを微調整(トーイン)することで、オン/オフアクシスのバランスを最適化します。同軸でもツイーターの指向性によりベストの角度があります。
- バッフル端の処理:バッフルのエッジを丸めたり、吸音材で反射を抑えることで中高域のディフラクションを低減できます。
- DSPによる補正:EQだけでなく、位相補正やFIRフィルタによる時間整合を行うと、同軸の潜在性能を引き出せます。特に複雑な相互干渉がある場合は電子補正が有効です。
- 車両への取り付け:取り付け位置の剛性化、ドア内部のデッドニング、スピーカーバッフルの最適化などは同軸でも重要です。取り付け面の振動は音像を濁らせます。
カスタマイズとアップグレードのアイデア
既存の同軸スピーカーを改良する際の有効な手段:
- ツイーターユニットの交換:一部の同軸はツイーターの交換/アップグレードが可能です。高能率で低歪なリプラシングドライバーに替えると効果的な場合があります。
- 内部吸音と制振:不要共鳴を抑えるためにエンクロージャー内部の吸音材や外装の制振を行います。ただし過度な吸音はエネルギー感を削ぐ場合があるため適量を守ります。
- 外付けウェーブガイド/ディフューザー:一部ケースでは外付けの小型ウェーブガイドやディフューザーで指向性を改善できますが、形状設計が難しく試行錯誤が必要です。
- アクティブ化(DSP):パッシブ機構の限界を超えるには、アクティブクロスオーバー化+FIR/オフセットディレイによる時間整合が最も強力です。
よくある誤解
- 同軸=常に音場が良い:同軸は点音源に近い利点がありますが、設計不良や簡易な実装では位相ずれや歪みが生じ、期待通りにならないことがあります。
- 大口径同軸は万能:口径が大きいほど低域再生は有利ですが、中高域での指向性制御が難しくなるため万能ではありません。
- 同軸はコンポーネントより優れている:用途によります。ライブPAや大音量システム、サブウーファー併用のシステムでは分離したドライバー構成が有利な点も多くあります。
購入時のチェックポイント
製品を選ぶ際に注目すべき仕様・要素:
- 周波数応答(オン/オフアクシス)と指向性プロットの有無
- クロスオーバー周波数とタイプ(パッシブの場合はフィルタ次数)
- 感度(dB/W/m)とインピーダンス特性
- 歪み特性(THD、IMD)や許容入力
- 取り付け環境(車用、天井埋込、スタンド設置)に対する設計の適合性
- メーカーの測定データや第三者レビュー、実測データが公開されているか
メンテナンスと寿命
同軸ユニットは一般的なスピーカーと同様のメンテナンスで問題ありませんが、ツイーターユニットがウーファーに近接しているため、ホコリや汚れがセンター部に溜まりやすい点に注意してください。定期的な清掃(柔らかいブラシやブロワー)と、エッジやダンパーの劣化チェックを推奨します。
まとめ:同軸は“目的に合った”強力な選択肢
同軸型スピーカーは、点音源性や定位の安定、設置の自由度といった明確な利点を持つ一方で、設計・製造・チューニングに高度な配慮を要します。スタジオモニター、ハイファイ、カーオーディオなど、用途に応じて利点を最大化できる場面は多く、特に位相や時間特性を重視するリスニング環境では有力な選択肢となります。ただし「同軸だから必ず良い」という単純な図式にはならないため、製品選びでは計測データと実聴の両方を確認することが重要です。
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参考文献
- KEF - Uni-Q Technologies and Product Information
- Tannoy - Dual Concentric History and Technology
- Audio Engineering Society (AES) - 論文・技術資料
- Vance Dickason, "Loudspeaker Design Cookbook"(参考書籍)
- Coaxial loudspeaker - Wikipedia


