キャピトル・レコード:ハリウッドから世界へ—歴史・建築・音楽産業への影響を読み解く
はじめに:キャピトル・レコードとは何か
キャピトル・レコード(Capitol Records)は、1942年にアメリカ・ロサンゼルスで創業されたレコード会社で、米国西海岸を代表するメジャーレーベルの一つです。創業以来、ポピュラー音楽の発展とともに歩み、独自のA&R(アーティスト発掘)やプロモーション手法、そして象徴的な本社ビル「キャピトル・レコード・ビルディング(通称キャピトル・タワー)」を通じて音楽文化に大きな影響を与えてきました。本コラムでは創業の背景、主要アーティスト、建築とスタジオ、業界での役割や買収の歴史、現代における意義までを詳しく掘り下げます。
創業の経緯と初期の歩み(1942〜1950年代)
キャピトル・レコードは1942年、作詞家のジョニー・マーサー(Johnny Mercer)、プロデューサーのバディ・デシルヴァ(Buddy DeSylva)、そして楽器販売・流通業を営んでいたグレン・ウォリックス(Glenn E. Wallichs)らによって設立されました。当時、米国の主要レーベルはニューヨークを拠点にしており、西海岸に本拠を置く大手レーベルは少なかったため、キャピトルはロサンゼルスを中心に西海岸のタレントと市場を開拓する役割を担いました。
設立初期から、キャピトルはジャズ、ポップス、ブロードウェイ音楽まで幅広いジャンルの録音を手がけ、ナット・キング・コール(Nat King Cole)などの人気アーティストを擁して成功を収めます。こうしたアーティストのヒットは、ラジオや映画産業とも結びつき、キャピトルの知名度を高めました。
キャピトル・タワーとキャピトル・スタジオ:音作りの聖地
キャピトルのシンボルとなっているのが、ハリウッドのハイランド地区近くに立つキャピトル・レコード・ビルディングです。1956年に完成したこの円筒形の13階建てのビルは、レコードの円盤を重ねたようなデザインで知られ、建築家ウェルトン・ベケットの設計によるランドマークとなっています。外観のユニークさだけでなく、ビル地下に設けられたキャピトル・スタジオは、独自の音響特性やエコーチャンバー(残響室)を活かした録音で多くの名盤を生み出してきました。
キャピトル・スタジオはジャズ、ポップス、映画音楽まで幅広いジャンルの録音に利用され、エンジニアやプロデューサー、アーティストたちが音響設計を評価してきた場所です。スタジオの機材や音響理念は、キャピトルの音作りに一貫性と独自性を与えました。
1960年代の黄金期とビートルズ
1960年代はキャピトルにとって転機の年代でもあります。イギリスのEMI傘下に位置することで、ビートルズのような英国アーティストの米国市場への橋渡し役を担うことになりました。特に1964年のいわゆる「ビートルマニア」時代には、キャピトルが米国盤の発売とマーケティングを行い、テレビ出演やラジオキャンペーンと連動してビートルズの成功を後押ししました。これによりキャピトルは国際的な影響力を強めます。
同時期にはビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)などの米国発のカリフォルニア・サウンドを代表するアーティストもキャピトルを通じて全国的な成功を収め、レーベルとしての多様性と商業力が高まりました。
企業買収と再編:EMI傘下からユニバーサルへ
キャピトルは1955年に英国のEMI(Electric and Musical Industries)の傘下に入ります。それ以降、EMIの米国向け窓口的存在として機能し、世界的な流通と著作権管理のネットワークと結びつくことで幅広いアーティストを扱うことが可能になりました。
その後、音楽産業のグローバル化とデジタル化の波の中でEMI自体が再編を迎え、最終的にユニバーサル・ミュージック・グループ(Universal Music Group:UMG)がEMIの録音部門を買収するプロセスが進みます。2012年を中心としたこの再編により、キャピトルはUMG傘下の主要レーベルの一つとなり、世界規模の配信網やプロモーション体制に組み込まれて現在に至ります。
アーティスト発掘とA&Rの哲学
キャピトルは創業以来、A&R(アーティスト&レパートリー)を通じた人材発掘に強みを持ってきました。ローカルシーンでの発掘、ラジオ局やプロデューサーとのネットワーク、さらには映画やテレビとの連携を駆使して新人を育てる体制を整えてきたことが特徴です。時代ごとの音楽トレンドを捉えつつ、長期的なキャリア形成を支援する姿勢が、数多くのロングセラーや名盤を生み出す土壌となりました。
サウンドの革新とフォーマットへの適応
キャピトルはレコード時代からハイファイ録音、ステレオ録音、そしてLPフォーマットの普及期に積極的に取り組みました。スタジオの音響やエンジニアリングに投資することで、録音品質の高さを売りにし、消費者の“良い音”志向に応えました。デジタル時代に入ってからはCD、ダウンロード配信、ストリーミングへと迅速に対応し、アーティストの発見と楽曲配信の両面で変化に追随しています。
日本における受容と影響
日本でもキャピトルのアーティストや作品は長年にわたり紹介され、特に洋楽入門者やポップスファンにとって重要なレーベルの一つでした。国内流通やライセンスを通じて、日本のマーケット向けに編集された輸入盤や国内盤が流通し、ビートルズやナット・キング・コール、近年ではケイティ・ペリーなどのアーティストの楽曲が広く受容されてきました。
現代のキャピトル:ブランドの継承と新たな挑戦
今日のキャピトルは、UMGの一部として世界規模の支援体制を持ちつつ、独立系の柔軟性も併せ持った運営を続けています。ストリーミング時代におけるプレイリスト戦略、SNSを活用したアーティストのブランディング、グローバル・ツアーの連携など、現代の音楽ビジネスに求められる多面的な施策を展開しています。また、キャピトル・タワーやキャピトル・スタジオという物理的資産は、文化的資本としての価値を保ちつつ、アーティストにとっての“聖地”としての役割も続いています。
まとめ:キャピトルが示すもの
キャピトル・レコードは、単なるレーベル以上に「音楽を発信するための拠点」としての役割を果たしてきました。創業時のロサンゼルスという地理的優位性、象徴的な建築、A&Rの哲学、そして大手グローバル企業との連携を通じて、キャピトルは20世紀中盤から21世紀にかけてのポピュラー音楽史に深く刻まれています。今後もレーベルとしての歴史的遺産を活かしつつ、新たな音楽表現とビジネスモデルを取り入れていくことが期待されます。
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参考文献
- Capitol Records - 公式サイト
- Capitol Records - Wikipedia (英語)
- Capitol Records - Britannica
- Capitol Records Building - Los Angeles Conservancy
- Capitol Studios - 公式サイト
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