機能和声分析とは何か — 実践と理論、応用まで徹底解説

はじめに — 機能和声分析の概観

機能和声分析(機能和声、functional harmony)は、和音を単なる音高の集合としてではなく、調性の中で果たす「機能」(機能的役割)によって分類・解釈する理論体系です。一般に3つの基本機能、トニック(T:安定)、サブドミナント(S:移動・準備)、ドミナント(D:緊張・解決)の関係を軸に和声進行を理解します。19世紀末にヒュゴー・リーマン(Hugo Riemann)らによって体系化され、古典派からロマン派、現代まで幅広く応用されてきました。

機能の基本概念と記号

機能和声分析では、和音に対して次のような機能記号を用います。

  • T(Tonic, トニック):調性の中心。I(イ長調ならI)が代表。安定・終止の感覚を与える。
  • S(Subdominant, サブドミナント):動きの起点。IVやその代理和音が該当し、トニックへ向かう前段階の働きをする。
  • D(Dominant, ドミナント):緊張と解決を生む機能。Vやvii°(導音上の減三和音)が含まれ、トニックへ強い帰結を促す。

これら3機能は単独で存在するよりも、S→D→Tといった流れの中で意味を持ち、和声進行の「物語性」を説明します。

歴史的背景と理論の発展

機能和声理論は18〜19世紀の和声実践を記述するために発展しました。ヒュゴー・リーマンは調的機能を体系化し、同名調の平行・同主等の関係や和音の機能移行を説明しました。20世紀にはリーマン理論を継承・批判しながら、ロマン派以降の色彩和声や非調性的技巧に対応するための拡張が行われました。さらに20世紀後半にはコルジェフスキーやショーンバーグ研究、シェンカー分析などの対比概念も並列して発展しました。

機能和声の実際的ルール

以下は実際の楽曲分析で有用な基本ルールと注意点です。

  • ドミナント機能はV→Iやvii°→Iなどの解決によって最も明確に示される。導音(leading tone)が上行して主音に解決するのが典型。
  • サブドミナント機能はIV→Vやii→Vなどでトニックへ向かう準備を行う。iiはしばしばIVの代理として働く(ii=IVの第3転回形的見方)。
  • 代理関係:和音は同じ機能を持つ別和音に置き換えられることがある(例:Iの代理にviが用いられることがある)。
  • 三和音と七の和音の使い分け:七の和音(V7, vii°7)は機能の強さを増し、解決への引力が強い。

半音階的・クロマティック和声と例外

ロマン派以降、クロマティックな移入(借用和音、二次的属和音、修飾増六和音など)が増え、機能和声の境界は曖昧になりました。代表例:

  • 二次的属和音(secondary dominants):V/V, V/ii など、ある和音を一時的な「新しいトニック」とみなしてその属和音を挿入する手法。調内に一時的な強いドミナント緊張を導入する。
  • 借用和音(modal mixture):同名調の平行調(例:CメジャーでのCマイナーからの借用)から取り入れる和音。bVI, bIII, bVIIなどが現れる。
  • 増三和音・増六和音(augmented sixth chords):主にロマン派で用いられ、Vに導く特別な前位和音として機能する(It+、Fr+、Ger+の区別)。

主要な和声進行と機能解釈

典型的な進行には次のようなものがあります。

  • I→IV→V→I(T→S→D→T):最も基本的な流れ。
  • I→vi→ii→V→I(T→T(代理)→S→D→T):ポップスや生徒教材でよく見る循環進行。
  • ii–V–I(S→D→T):ジャズで最も頻出する進行。二次的属和音やトライトーン置換が組み合わされる。

特殊和音とその機能的扱い

例としてネアポリタン(N6)や増六和音、全減七(fully diminished seventh)等があります。ネアポリタンはbII(通常は第1転回形でN6と表記)としてサブドミナント的な役割を果たし、増六和音は主にドミナントへの強い導入として機能します。これらは単純なT/S/D分類に当てはめにくいが、結果的にはDへの導入またはS的な側面を担うと解釈されます。

ローマ数字分析との違い

ローマ数字分析(ローマン・ナンバー)では和音をスケール上の数で示しますが、機能和声分析はその和音が調性の中でどんな役割を果たすかに注目します。例えばviはローマ数字上は単なる「VI」だが、機能的にはIの代理(Tの延長)として扱われる場合が多いです。両者は相補的に用いるのが一般的で、ローマ数字は和声の正確な表記、機能は進行の意味理解に優れます。

声部進行と機能の関係

機能はしばしば声部間の進行(特に内声の動きや導音の解決)によって担保されます。例えばV→Iの機能的効果は、ベースの完全五度進行だけでなく、導音が主音へ解決することや、和音の分散・転回形がどうなっているかに左右されます。したがって、機能分析は和声の構造だけでなく、対位法的な声部の動きも同時に観察する必要があります。

モダン音楽・ジャズ・ポップスにおける応用

ジャズでは機能概念が拡張され、ii–V–Iの循環やトライトーン代替(tritone substitution)などが標準です。トライトーン代替はVの代理としてbII7が用いられ、ドミナントの機能を保ちながら異なる根進行を生み出します。ポップ/ロックではI–V–vi–IVのように機能が単純化されループ化される例が多いが、借用和音やモーダルな要素を取り入れることで多様性を生み出しています。

分析手順の実例(簡潔な流れ)

  1. 調を確定する(調号、中心音、楽曲冒頭の和声などから判断)。
  2. ローマ数字で各和音を表記する(転回や増減も明示)。
  3. 各和音の機能をT/S/Dで割り当てる。代理や借用の可能性を検討する。
  4. 進行の目的(結論、連結、装飾)を踏まえ、和声的な「役割」を解釈する。
  5. 必要なら和声的還元(ハーモニック・リダクション)を行い、主要な機能線を抽出する。

機能和声分析の限界と批判

機能和声は強力だが万能ではありません。20世紀以降の無調・モーダル音楽、印象派的な和声、あるいは一部のポピュラー音楽では機能的帰結が弱いか存在しないため、分析が不十分になります。さらに機能の割当ては解釈の余地が大きく、分析者によって異なる結論が出やすい点にも注意が必要です。

教育的・実践的価値

機能和声分析は作曲・編曲・即興の基礎力を養う上で有効です。和声の目的(動きの起点・緊張・解決)を意識することで、自然で説得力のある進行を設計できます。さらに、二次的属和音や借用和音の理解は、色彩豊かな和声表現を可能にします。

コンピュータ支援分析とツール

近年はMusic21(MIT発、楽曲の和声解析や二次属和音の検出に利用可能)やHumdrumなどのツールで自動/半自動分析が行えます。これらは大量の楽曲データに対して統計的に機能パターンを抽出するのに有効ですが、装飾音や複雑なクロマティシズムの解釈は依然として人間の判断が必要です。参考:music21(https://web.mit.edu/music21/)

まとめ — 実践的な指針

機能和声分析は、和音進行を調性の文脈で「なぜ」そう機能するのかを説明する道具です。基本的なT/S/Dの観点を身につけた上で、二次的属和音・借用和音・増六和音などのクロマティック要素を学ぶと、古典から現代、ジャズやポップまで幅広く応用できます。ただし、常に複数の解釈が成り立つこと、非機能的要素が存在することを念頭に置いて分析してください。

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参考文献