エレクトロポップ入門:起源・音作り・代表アーティストから現代の潮流まで徹底解説
エレクトロポップとは何か
エレクトロポップは、電子楽器を中心に据えたポピュラー音楽の一ジャンルであり、シンセサイザーやドラムマシン、シーケンサーなどの電子機材によって作られるポップ・ソングを指します。しばしば「シンセポップ」とほぼ同義で扱われますが、エレクトロポップはポップ性(メロディやフックの重視)により焦点を当てる用語として使われることが多く、クラブ寄りのエレクトロニカや実験音楽とは明確に区別されます。
歴史と起源:1970年代〜1980年代の確立
エレクトロポップの起源を語る際には、数多くの前例と影響を挙げる必要があります。1970年代における電子音楽の発展(クラフトワークやモーグ等)と、ディスコにおける電子的な実験が直接的な土壌となりました。特にドナ・サマーの「I Feel Love」(1977、プロデューサー:ジョルジオ・モロダー)は、打ち込みベースの連続的なシンセラインと電子的ビートがポップ・チャートに受け入れられた例としてしばしば転換点に挙げられます。
1970年代後半から1980年代初頭にかけて、イギリスやヨーロッパ、日本でシンセサイザーを中心としたポップが台頭しました。ドイツのクラフトワーク(Kraftwerk)はその機械的で洗練されたサウンドで電子音楽の言語を確立し、イギリスではヒューマン・リーグやゲイリー・ニューマン、アメリカ/イギリスの境界を越えてデペッシュ・モードやペット・ショップ・ボーイズが商業的成功を収めました。また、日本ではイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)が独自のテクノポップを展開し、後の日本のエレクトロシーンに大きな影響を与えました。
主要な技術的要素と機材
エレクトロポップは技術革新と密接に結びついています。代表的な機材とその役割は以下の通りです。
- アナログ・シンセサイザー(Moog、ARPなど):暖かく有機的なベースやリードを生成。
- デジタル・シンセサイザー(Yamaha DX7など):FM合成により独特の金属的な音色やエレピ的な音を提供。1980年代にポップ・サウンドの標準となった。
- ドラムマシン(Roland TR-808、TR-909など):打ち込みによるビート構築の基礎。808の低域や909のスネア/ハイハットは数多くの楽曲でアイコン化。
- シーケンサー&MIDI(MIDI標準は1983年に確立):複数の機材を同期させ、複雑なパターンを正確に演奏可能にした。
- ボコーダー/ボーカル・プロセッサー:人声の電子加工。機械的なヴォーカル表現を得意とする。
- サンプラー(AKAIなど):実音の切り貼りやループにより、音色の幅を拡張。
音作りの特徴:和音・メロディ・リズムの観点から
エレクトロポップの音作りは、以下の要素が特徴的です。
- 明確なメロディとフック:ポップ・ソングとしての聴きやすさが重視される。
- シンセ層の重ね合わせ:パッド、ベース、リードが明確に分担され、テクスチャーを構築。
- リズムの機械性と人間性のバランス:ドラムマシンの正確さに対し、微妙なスウィングや音量差で人間味を加える制作手法が用いられることが多い。
- 音像のクリアさ:EQやコンプレッサーを駆使して各パートのスペースを作り、シンセの倍音や低域をコントロールすることが重要。
主要なアーティストと代表作
エレクトロポップの発展を語る上で欠かせないアーティストと代表作をいくつか挙げます。
- Kraftwerk — 『Autobahn』『The Man-Machine』:リズムと機械性を音楽的に表現した先駆的な存在。
- Yellow Magic Orchestra — 『Yellow Magic Orchestra』:テクノポップの原型を日本で提示し、国際的にも影響力を持った。
- Giorgio Moroder(とDonna Summer) — 『I Feel Love』:電子的なダンス・ポップの先駆。
- Gary Numan — 『Cars』:シンセを主軸にしたポップな歌作りで商業的成功を収めた。
- Human League、Depeche Mode、Pet Shop Boys:1980年代の英国シーンを代表するグループ群。各々がポップと電子音楽の橋渡しを行った。
- 2000年代以降の再興:Ladytron、La Roux、Chvrches、Grimesなどがエレクトロポップの伝統を継承しつつ現代的に再解釈している。
地域別の展開
エレクトロポップは地域によって特色を持って発展しました。ドイツは冷徹で工業的な美学を基盤とし、イギリスはポップ志向とニュー・ロマンティック運動が結びつき、アメリカではディスコやR&Bと交差する形で電子的手法が取り入れられました。日本はYMOを起点にテクノポップの独自進化を遂げ、アニメやゲーム音楽との親和性も高めることで独特の流れを形成しました。
制作手法:スタジオでの実際
エレクトロポップ制作の基本的な流れは、アイデア(メロディ/コード)→リズムパターンの作成→シンセサウンドの設計→アレンジ→ミックスという順に進みます。実務的なポイントとしては、シンセのパートごとに音域を明確に決めること、低域(ベース)とキックを位相・周波数で調整して混濁を避けること、ボーカルを中心に据えつつシンセのスペースを確保することが重要です。
現代の潮流とテクノロジー
21世紀に入り、DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)やソフトシンセの進化により、エレクトロポップ制作は格段に敷居が下がりました。一方で、ハードウェア・シンセやヴィンテージ機材へのリバイバルも進み、アナログ的な暖かさを求める制作とデジタルの利便性を組み合わせるハイブリッドな手法が主流となっています。また、インディーやポップの境界が曖昧になり、SNSやストリーミングで生まれる新しいヒットの形態が増加しています。
文化的・社会的影響
エレクトロポップは単なる音楽ジャンルを超え、視覚的表現(ファッションやアート)やテクノロジーに対する感性を広めました。ニュー・ロマンティックやクラブカルチャーと結びつくことで、ジェンダー表現や未来志向の美学を社会に提示し、現代のポップ・カルチャーにおけるビジュアル面の発展にも寄与しました。
エレクトロポップ制作のための入門ガイド
これからエレクトロポップを作りたい人のための実践的なアドバイスです。
- 機材選び:初期はDAW(Ableton Live、Logic Pro、FL Studioなど)と代表的なソフトシンセ(Serum、Sylenth、Native Instruments)で十分。可能なら1台のハードシンセやドラムマシン(あるいはエミュレーション)を加えると音に個性が出る。
- サウンドデザイン:サブトラクティブ合成の基礎(オシレーター、フィルター、エンベロープ)を学び、プリセットを改変して自分の音を作る。
- リズムの作り方:キックとベースの関係を最優先に。ドラムマシンのパターンを基にハイハットやパーカッションでグルーブを作る。
- ミックスのポイント:不要な低域をカットし、ボーカルを明確にするためにサイドチェインやEQでスペースを確保する。
- リファレンスを持つ:好きなエレクトロポップ曲をリファレンスとして、アレンジや音像を比較・分析する。
まとめ
エレクトロポップは機材や技術の進化とともに形を変えつつも、ポップ性と電子音による独特の美学を保持してきたジャンルです。歴史的にはクラフトワークやYMO、ジョルジオ・モロダーらに起点を持ち、1980年代に商業的に確立され、21世紀には新たなテクノロジーと表現方法で再興しています。制作の敷居は下がった一方で、音作りの深さやサウンドデザインの重要性は増しており、学べば学ぶほど奥行きが見えるジャンルでもあります。
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参考文献
- Britannica — Synth-pop
- Britannica — Kraftwerk
- Britannica — Giorgio Moroder
- Rolling Stone — How 'I Feel Love' Changed Music
- MIDI Association — MIDI History
- Roland — TR-808
- AllMusic — Synthpop Overview
- Yellow Magic Orchestra — Wikipedia (参考情報)


