業務改善に直結する「流れ図(フローチャート)」の作り方と活用法 — BPMN・RPA連携まで徹底解説
はじめに:流れ図(フローチャート)がビジネスにもたらす価値
流れ図(フローチャート)は、業務プロセスや意思決定の流れを視覚化するためのツールです。単に手順を書き出すだけでなく、業務のムダやボトルネック、責任範囲のあいまいさを明確にし、改善や自動化の第一歩を提供します。経営戦略、業務改善(KAIZEN)、品質管理(ISO 9001のプロセスアプローチ)やRPA導入の前提作業として欠かせない存在です。
流れ図の定義と種類
「流れ図」と呼ばれる図には複数の種類があり、用途に応じて使い分ける必要があります。
- フローチャート(Flowchart):工程を開始・処理・判断・終了などの基本記号で表す伝統的な形式。業務手順の可視化に適しています。
- BPMN(Business Process Model and Notation):OMGが標準化した業務プロセス記法で、業務フローだけでなく、イベント、プール・レーン(担当者や部門)、メッセージフローなどを表現できます。大規模プロセスやシステム連携を扱う際に有利です。
- スイムレーン図:業務の担当者や部門ごとにレーンを分けてフローを描く方法。責任分界点や手渡しの箇所を明確にします。
- 価値流図(Value Stream Map):リーン思想に基づき、プロセス全体のリードタイムや付加価値/非付加価値を評価するために使われます。生産やサービス提供の最適化に有効です。
- 状態遷移図・シーケンス図:システムやイベント中心のフローを扱う際に用いられます。
基本記号と意味(フローチャートの例)
フローチャートでよく使われる基本記号を理解すると、図の読み書きがスムーズになります。
- 開始・終了(楕円): プロセスの始まりと終わり。
- 処理(長方形): 実行される作業や操作。
- 判断(ひし形): 条件分岐。Yes/NoやTrue/Falseの方向に分かれる。
- 入力/出力(平行四辺形): データの入力や結果の出力。
- 矢印(フロー線): 処理の順序を示す。
- サブプロセス(二重線長方形): 詳細が別図にある処理。
流れ図を作るべき場面
流れ図は次のような場面で特に効果を発揮します。
- 業務の標準化・マニュアル化を行うとき
- 業務改善(ムダ取り・リードタイム短縮)を計画するとき
- システム導入やRPAによる自動化を検討するとき
- 部門間の責任範囲や情報の受渡しを明確にするとき
- 品質監査や内部統制のために証跡を残すとき
流れ図の作成手順:実務的なステップ
現場で使える、汎用的な作成手順を示します。
- 目的を明確にする:何を可視化するのか(例:顧客注文から出荷まで、クレーム対応フロー)を定義します。
- スコープを決める:開始と終了の点を明確にし、範囲外のプロセスを切り分けます。
- 関係者を集める:現場担当者、業務管理者、システム担当者など、実際にそのプロセスに関わる人を集めます。
- 現状フローのヒアリングとスケッチ:ホワイトボードや付箋で現行プロセスを洗い出します。現場の“暗黙知”を引き出すことが重要です。
- 図面化:標準記号を用いて図にします。初期はシンプルに、後で詳細を追加します。
- レビューと検証:関係者で図を確認し、抜け・重複・誤解を修正します。
- 改善案の検討と仮説検証:ボトルネックを特定し、改善策を優先順位付けして実行・効果測定を行います(PDCAサイクル)。
実践的なベストプラクティス
実務で流れ図を効果的に使うためのポイントです。
- 「誰が」「何を」「いつ」を明確にする:担当(レーン)、処理内容、タイミングを明示すると運用性が上がります。
- 可視化の粒度を目的に合わせる:改善目的なら詳細に、コミュニケーション用なら高レベルにまとめる。
- 一貫した記号と命名規則を使う:プロジェクト全体で統一することで混乱を防げます。
- データや所要時間を注記する:処理時間、待ち時間、頻度、エラー率などを併記すると改善の優先順位がつけやすくなります。
- バージョン管理と配布方法を決める:WordやPDFだけでなく、図ツールの共有リンクやリポジトリで最新版を管理します。
ツール選定:手書きからBPMツールまで
用途や規模に応じてツールを選びます。
- 手書き・ホワイトボード:ブレインストーミングに最適。
- 汎用ドロー系(draw.io/diagrams.net、Microsoft Visio、Lucidchart):フローチャートやスイムレーン図の作成に便利。
- BPM/BPMNツール(Bizagi、Camunda、Signavioなど):大規模プロセスや実行可能なワークフロー管理に向く。
- プロセスマイニングツール(Celonisなど):実ログからプロセスを自動抽出し、現状と設計との差異を検出する。
- RPAツール(UiPath、Automation Anywhereなど):自動化対象を明確にする際、流れ図が要件定義として役立つ。
事例:流れ図を起点にした改善サイクル(簡潔なケース)
例えば、購買申請から発注までの時間が長いケースを考えます。
- 現状フローを作成し、承認待ちや情報不足による中断が頻発していることを可視化。
- 処理時間や待ち時間を記載してボトルネックを特定(例:承認者の集中)。
- 改善案:承認基準の権限委譲、電子承認ワークフロー導入、必須項目テンプレート化。
- 改善後フローを作成し、KPI(リードタイム短縮率、完了件数)で効果を検証。
流れ図と自動化(RPA)・プロセスマイニングの関係
流れ図は自動化プロジェクトにおける要件定義の基礎です。プロセスマイニングで実際のログからプロセスを可視化し、その結果を流れ図として整理することで、RPAに適したルールベースの作業や例外処理の設計が可能になります。RPAは定型処理の自動化に有効であり、流れ図で例外や判断基準を明示しておくことで誤動作を減らせます。
評価指標(KPI)とフォローアップ
流れ図を改善プロジェクトの中心に据える場合、成果を測るための指標を設定します。
- サイクルタイム(リードタイム、処理時間)
- スループット(単位時間あたりの処理件数)
- エラー率(手戻り、訂正件数)
- コスト(人件費、外注費)
- 顧客満足度や内部満足度(NPSやアンケート)
よくある失敗と回避策
流れ図プロジェクトで陥りやすい問題とその対策です。
- 過度な詳細化:図が複雑になり運用されなくなる。目的別にレベルを分けることで回避。
- 現場を巻き込まない:図が実態と乖離する。関係者ヒアリングを必須工程にする。
- 更新されないドキュメント:現場が古いフローを参照し続ける。運用ルールと責任者を決める。
- 改善のための測定がない:効果が不明瞭。ベースライン計測とKPI設定を行う。
まとめ:流れ図を「作るだけ」で終わらせないために
流れ図は業務改善、品質管理、システム導入、自動化の出発点です。重要なのは図を作ること自体ではなく、図をもとに仮説を立て、実験(改善)し、結果を測定して定着させることです。目的に応じた表現手法(フローチャート、BPMN、価値流図など)を選び、関係者を巻き込み、ツールと運用ルールを整備することで、流れ図は現場の“言語”となり、継続的な改善を支える基盤になります。
参考文献
- フローチャート — Wikipedia(日本語)
- BPMN — Wikipedia(日本語)
- Object Management Group (OMG) — BPMN 2.0 Specification
- ISO 9001 — International Organization for Standardization
- diagrams.net (旧 draw.io)
- Microsoft Visio
- Lucidchart(日本語)
- Celonis(プロセスマイニング)
- UiPath(RPAプラットフォーム)
- ASQ — Six Sigma information
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