循環型調達（サーキュラー調達）とは？企業が今すぐ実践できる導入手順と成功の秘訣

2025年12月29日 最終更新日時 : 2025年12月29日 エバープレイ編集部

循環型調達とは何か — 概念と背景

循環型調達（サーキュラー調達）とは、調達段階から製品やサービスのライフサイクル全体を見据え、資源の投入を最小化し廃棄物・環境負荷を削減するとともに、再使用・再製造・リサイクル・長寿命化・サービス化（Product-as-a-Service）など循環経済の原則を取り入れた調達手法を指します。従来の大量生産・大量消費・大量廃棄のリニアモデルに対し、資源の価値を最大化して循環させることを目的とします。

国際的には欧州連合（EU）が公的調達を通じた循環経済促進を推進しており、ISO 20400（サステナブル調達）や各国のグリーン調達指針を通じて企業・自治体の導入が進んでいます。日本でも環境省や経済産業省が循環型社会の形成やグリーン購入の推進を行っており、企業のESG対応やサプライチェーンリスク低減の観点から注目が高まっています。

なぜ今、循環型調達が重要なのか — 経営的意義

循環型調達を導入する企業には、以下のような経営的メリットがあります。

  • 資源コストと供給リスクの低減：二次資源の活用や製品寿命延長により原材料調達リスクを緩和できます。
  • トータルコスト削減（TCOの最適化）：初期費用のみならず保守・廃棄コストを含めたライフサイクルコストを見ることで長期的な費用削減が期待できます。
  • 規制・市場対応力の強化：廃棄物規制やEPR（拡張生産者責任）等に対する事前対応が可能になります。
  • ブランド価値・ESG評価の向上：環境配慮を示すことで投資家・顧客の信頼を得やすくなります。
  • イノベーション創出：サプライヤーとの協働による新たなビジネスモデル（リース、回収・再製造等）が生まれます。

循環型調達の基本原則と評価軸

実務では以下の原則を軸に調達方針を設計します。

  • 優先順位（優先調達順）：削減（Reduce）→ 再使用（Reuse）→ 再製造/修理（Remanufacture/Repair）→ リサイクル（Recycle）
  • ライフサイクル視点：LCAやTCOによる定量評価を採用
  • 機能重視の調達：機能や性能を契約対象とするファンクショナル/パフォーマンス契約
  • 透明性とトレーサビリティ：素材由来やリサイクル率の検証可能性

実践ステップ — 導入ロードマップ

循環型調達を実装する際は、段階的かつ実行可能なロードマップを用意します。代表的なステップは次の通りです。

  • 1. 経営方針と目標設定：上位方針に循環調達目標を組み込み、KPI（例：購入品目のうち循環評価基準に合致する割合）を定める。
  • 2. 支出分析とホットスポット特定：調達品目ごとの環境負荷や廃棄物発生量、コスト構造を分析し優先カテゴリを決定する。
  • 3. 調達基準の設計：再生材料比率、修理可能性、設計寿命、回収義務、サービス提供モデルなどの評価項目を明文化する。
  • 4. マーケットダイアログ：サプライヤーと事前対話を行い市場の実現可能性や価格帯、技術的課題を確認する。
  • 5. 入札・契約設計：機能契約、性能指標、回収・リサイクル義務、インセンティブ・ペナルティを反映する。
  • 6. 実行・検証・改善：納入後のモニタリング、LCA/TCOの見直し、スケールアップ計画を回し続ける。

調達基準（実務例）

カテゴリ別に採用しやすい基準例を示します（数値は個別設計が必要）。

  • 電子機器：モジュール設計、交換可能なバッテリー、修理・回収プログラム、最低リサイクル材含有率
  • 家具：長寿命設計、再生材使用率、修理サービス／再生流通の提供義務
  • 包装材：軽量化、再利用可能設計、リサイクル材比率、回収率目標
  • 建築資材：再生骨材・リサイクル鋼材の使用、分解性設計（将来の解体時の素材回収容易性）

契約モデルとインセンティブ

循環型調達を有効に機能させるには、価格だけでなく性能と回収・管理を組み込んだ契約が重要です。代表的なモデルは次の通りです。

  • プロダクト・アズ・ア・サービス（PaaS）：物品販売ではなく使用時間や性能に対して支払う。メンテナンス・回収をサプライヤーが担うことが多い。
  • 性能契約：エネルギー効率や耐用年数など性能目標を達成することを条件に報酬を設定。
  • リース／レンタル契約と回収条項：終了時の回収・再製造・再販を契約で明示。
  • 成果連動インセンティブ：高い回収率やリサイクル率を達成した場合のボーナスなど。

KPIとモニタリング方法

定量的な追跡が成功の鍵です。代表的KPIは以下。

  • 調達総額に対する循環型調達比率（%）
  • 購入品の平均ライフサイクルCO2排出量（LCAベース）
  • 廃棄物削減量および回収率（重量ベース）
  • 再生素材含有率（%）
  • トータルコストオブオーナーシップ（TCO）の比較（従来比）

モニタリングにはデータ収集のためのITプラットフォームやサプライヤー報告フォーマット、第三者検証（検査・認証）を組み合わせます。

主な障壁とその克服策

導入にあたっては以下の障壁が想定されますが、対策もあります。

  • 市場の供給力不足：サプライヤー育成、共同購買や団体発注で需要を作る。
  • 価格の見えにくさ／初期コストの高さ：TCO評価と長期契約によるコスト平準化。
  • 評価基準の複雑さ：分かりやすいスコアリング表の採用と段階的導入。
  • 法規制・調達ルールとの整合性：法務部門と連携し機能契約や仕様書で対応。
  • サプライチェーン全体の透明性不足：トレーサビリティの要求と第三者認証の活用。

導入事例（概略）

海外では公共調達を通じて循環型調達を推進する例が増えています。欧州の多くの自治体は建設やIT機器でリースや回収義務を導入し、製造業ではリマニュファクチャリングや回収ネットワークで新たな収益源を確保しています。日本でも企業がオフィス家具のリース・回収を実施したり、家電メーカーがリサイクル率向上と回収サービスを連携する取り組みが進んでいます（各事例の詳細は参考文献参照）。

実践チェックリスト（初期導入向け）

  • 経営トップのコミットメントを得る
  • 優先調達カテゴリを2〜3つに絞る
  • TCO・LCAによる基礎データを作成する
  • 調達仕様に循環要件（回収、修理、再生材等）を盛り込む
  • サプライヤーと市場対話を行う
  • Pilotを実行し評価指標を確定する
  • スケールアップ計画と内部体制（契約・監査・IT）を整備する

まとめ — 企業にとっての実行優先事項

循環型調達は単なる環境施策ではなく、資源リスクの低減、コスト最適化、新規事業創出、ブランド価値向上を同時に実現できる経営戦略です。導入は段階的に行い、まずは影響が大きく実行可能なカテゴリから着手することを推奨します。重要なのは短期的な価格だけで判断せず、ライフサイクル視点とサプライヤーとの協働を通じて持続可能な価値を創出することです。

参考文献

European Commission: Public procurement for a circular economy
Ellen MacArthur Foundation: Circular Economy resources
ISO 20400: Sustainable procurement — Guidance
環境省（日本）: 循環型社会関連情報
環境省: リサイクル・資源循環に関する施策

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