パーシャ指数とは?仕組み・計算式・利点と欠点をわかりやすく解説
イントロダクション:パーシャ指数(Paasche index)とは
パーシャ指数(Paasche index、パーシャ物価指数・数量指数)は、経済統計や国民経済計算で用いられる代表的なインデックスの一つです。特に物価変動や数量変化を測るために用いられ、計算上は「当期(観測期)の数量を重みとして用いる」点が特徴です。本稿ではパーシャ指数の定義・計算式、経済的意味、長所と短所、ラスピーア(Laspeyres)指数やフィッシャー(Fisher)指数との関係、実務上の扱い(連鎖指数・リベース)まで詳しく解説します。
定義と基本式
パーシャ価格指数(Paasche price index)は、基準期(0)と当期(t)の価格変化を当期数量で重み付けして表す指数です。一般式は次のとおりです。
Paasche price index: P_P(0,t) = (Σ_{i} p_{i,t} q_{i,t}) / (Σ_{i} p_{i,0} q_{i,t}) × 100
ここで p_{i,t} は財 i の当期価格、p_{i,0} は基準期価格、q_{i,t} は当期数量(支出量)です。同様にパーシャ数量指数(Paasche quantity index)は当期価格を重みとした数量の変化を測ります。
計算例(簡単な数値例)
例:財Aと財Bがあり、基準期(0)と当期(t)の価格・数量が以下だとします。
- 財A:p_{A,0}=100、p_{A,t}=120、q_{A,t}=10
- 財B:p_{B,0}=50、 p_{B,t}=45、 q_{B,t}=20
分子(当期支出) = 120×10 + 45×20 = 1,200 + 900 = 2,100
分母(基準期価格での当期数量支出) = 100×10 + 50×20 = 1,000 + 1,000 = 2,000
従って、P_P(0,t) = 2,100 / 2,000 × 100 = 105。つまり、当期の物価水準は基準期比で5%上昇したと評価されます(当期数量で重み付け)。
経済的意味:なぜ当期数量を使うのか
パーシャ指数は「消費者や生産者が実際に当期に購入・生産した数量を反映」するため、当期の行動(代替の結果としての数量変化)を取り込めます。価格が上昇した財の消費が減り、相対的に価格の下がった財へシフトしている場合、その代替効果を指数が部分的に取り込むため、消費者の実際の経験する価格変動(購入したバスケットの価格変化)に近いという性質があります。
ラスピーア指数との比較:置き換えとバイアス
代表的な比較対象はラスピーア指数(Laspeyres index)です。ラスピーアは基準期数量 q_{i,0} を重みとするため、消費者が基準期のバスケットを固定していた場合の物価上昇率を示します。
- Laspeyres: P_L(0,t) = (Σ p_{i,t} q_{i,0}) / (Σ p_{i,0} q_{i,0}) ×100
- Paasche: P_P(0,t) = (Σ p_{i,t} q_{i,t}) / (Σ p_{i,0} q_{i,t}) ×100
一般に、価格上昇に伴う代替を考慮しないラスピーアは上方バイアス(inflation overstatement)を持ちやすく、一方パーシャは代替を反映するため相対的に低い値を取りやすい(下方バイアス)。つまり、ラスピーアは「過大評価」し、パーシャは「過小評価」する傾向があると説明されます。
フィッシャー指数と“理想的”な妥協点
フィッシャー指数(Fisher index)はラスピーアとパーシャの幾何平均で表され、両者の偏りを相殺する性質があります。フィッシャーは理論的にはいくつかのテスト(例えば因子反転性や時間反転性)を満たす「理想的」な指数として扱われることが多く、実務上では“superlative”指数として推奨される場面もあります。
長所(メリット)
- 当期の実際の取引数量を用いるため、消費者・生産者の代替行動を反映しやすい。
- 価格変化が消費構造に与える影響を早めに捕捉できる(特に数量情報が迅速に得られる場合)。
- 経済構造が急速に変化する環境では、基準バスケットを固定する指標より現実に近い評価を与える場合がある。
短所(デメリット)と実務上の制約
- 当期数量 q_{i,t} が同時に必要なため、時点ごとに完全な数量データを収集しないと算出困難。消費者物価指数(CPI)のように頻繁に公表する統計では扱いにくい。
- 当期数量が価格変動の結果であるため、因果関係の逆転や循環的な問題を含むことがあり、基準との比較が複雑になる。
- 下方バイアス(インフレ率を過小評価しがち)という指摘があり、政策評価や購買力比較で単独の指標に依存するのは危険。
連鎖指数(chain index)とリベースの実務
現代の国民経済計算や物価統計では、長期の変化を扱う際に「連鎖方式(chain linking)」を用いることが多く、短期間のパーシャやラスピーア等を連続的につなぎ合わせます。連鎖方式は各期間の支出構造を反映しやすく、技術革新や消費構造の変化を柔軟に取り込めます。ただし、連鎖化によりベース年の変動や累積誤差に注意が必要で、定期的なリベース(基準年更新)や比較可能性の管理が求められます。
実務上の採用例と統計局の運用方針
多くの国のCPIは、データ収集の実務性と歴史的経緯からラスピーア型(または基準年を一定期間固定して更新する)を採用してきました。一方、国民経済計算(GDPデフレーター)では、産業別の数量データが比較的入手可能なため、パーシャ的手法や連鎖的デフレーターが用いられるケースがあります。
実務統計では、パーシャ、ラスピーア、フィッシャー、トーンクヴィスト(Törnqvist)など複数の指数を併用・比較し、偏りや実務上の制約を相互に補う運用が一般的です。
応用上の注意点:代替バイアス、品質調整、アウトレット効果
パーシャ指数は代替を反映する一方で、品質の変化(新商品・改良など)、販売チャネルの変化(ネット販売の普及など)、ヘドニック調整の必要性といった問題は別途考慮する必要があります。統計局はこれらを価格指数に組み込むための複雑な調整(ヘドニックモデル、アウトレット調整、リンク価格等)を行っており、単純な式だけで実務上の正確さが確保されるわけではありません。
まとめ:いつパーシャ指数を使うべきか
パーシャ指数は「当期の実際の取引行動」を重視する場面で有用ですが、数量データの入手困難さや下方バイアスの問題があるため、単独で万能ではありません。政策評価や長期比較ではラスピーアやフィッシャー、トーンクヴィストなどを併用し、連鎖化や定期的なリベース、品質調整を組み合わせて用いるのが現実的なアプローチです。
参考文献
Bureau of Labor Statistics (BLS) – Consumer Price Index: Questions and Answers
Statistics Canada – Index numbers and their uses (解説ページ)
OECD – Consumer Price Index Manual: Theory and Practice (解説・マニュアル)
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