カーター・ファミリーの名曲とオリジナルレコード解説|アメリカン・フォークの源流と歴史的価値
カーター・ファミリーの名曲に迫る:アメリカン・フォークの源流を辿る
アメリカン・フォーク・ミュージックの歴史を語るうえで、「カーター・ファミリー(The Carter Family)」の存在は欠かせません。1920年代のアパラチア地方を起点に活動し、後のアメリカン・カントリーやフォークミュージックへ多大な影響を与えた彼らの名曲群は、今日でもその素朴で心に染み入るメロディーと歌詞の世界で愛されています。今回は、そんなカーター・ファミリーの代表的な楽曲を中心に、その背景とともにレコードにまつわる情報とともに解説していきます。
カーター・ファミリーとは?
カーター・ファミリーは、アパラチア地方のバージニア州出身のオリジナル・メンバー、メイ・カーター(Maybelle Carter)、アリー・カーター(A.P. Carter)、セリーン・カーター(Sara Carter)によって結成されました。1927年にバージニア州ブランズウィックでのベル・レコードのオーディションに合格し、初のレコードが発売されるやいなや人気を博し、以降数多くの録音を残しました。
彼らのサウンドは、当時のアメリカ南東部で口承された伝統的なフォークソングを継承しつつも、メイ・カーターのギター奏法「カーター・ストラミング(Carter Scratch)」を特徴としており、層の厚いサウンドを実現しています。
名曲の数々とその背景
1. 「Wildwood Flower」
- 発売レコード情報:1928年、Okeh Records 形式番号 ('Okeh 45009')
- 曲の概要:伝統的な18世紀のバラード「I'll Twine 'Mid the Ringlets」に起源を持つ曲で、カーター・ファミリー版ではメイ・カーターのギターとセリーンのボーカルによって美しく再構築されました。
- 特色:カーター・ストラミングの手本とも言えるギター演奏と、切ない歌詞、間奏の旋律はフォークソングの中でも特に影響力が強く、カントリーミュージックのスタンダード曲として位置づけられています。
「Wildwood Flower」はカーター・ファミリーの象徴的な楽曲として、彼らのオリジナル・レコード盤は珍重されています。特に1920年代後半のオリジナル・シングル盤は、コレクターの間で高値で取引されており、アメリカの音楽史的にも貴重な印刷物とされています。
2. 「Keep on the Sunny Side」
- 発売レコード情報:1928年、Victor Records ('Victor 21704')
- 曲の概要:元はキリスト教の讃美歌ですが、カーター・ファミリー版によって明るく親しみやすいフォークソングとなりました。
- 特色:楽観的な歌詞と軽快で明るいアレンジにより、彼らの代表曲として広く知られ、後世のミュージシャンにも影響を与えました。
この曲のレコードは、当時のVictor Recordsのカタログに掲載されており、当時のフォークや宗教的音楽がアメリカの大衆文化に溶け込んでいく過程の一端を垣間見ることができます。特に78回転盤のオリジナルは、盤の状態が良ければ博物館や専門の音楽収集家から高く評価されています。
3. 「Will the Circle Be Unbroken?」
- 発売レコード情報:1935年、ARCグループのレーベルで録音
- 曲の概要:宗教的な愛唱歌をモチーフにした曲で、家族の絆や再会の願いというテーマが込められています。
- 特色:カーター・ファミリーのレパートリーの中でも精神的な深みを感じさせ、後のカントリーやブルーグラス音楽に大きな影響を与えました。
この曲は、後のフォークリバイバルやカントリー音楽シーンで幾度もカバーされていますが、オリジナルの78回転盤は音質の良さと歴史的価値からコレクター垂涎の品となっています。
カーター・ファミリーのレコード制作環境と当時の技術
カーター・ファミリーの活動期は、まさにレコード産業が急速に成長し、第一次世界大戦後のアメリカ音楽シーンが多様化を始めた時代でした。当時のレコードは78回転のシェラック製が主流で、録音はアナログ方式。そのため、セッションは一発録音が基本であり、ミュージシャンにとっては高い緊張感が伴いました。
そのような環境の中、カーター・ファミリーはスタジオ録音での制約を見事に活かし、彼らの素朴かつ同時に深みのあるサウンドを確立しました。特に「カーター・ストラミング」はギターの伴奏で旋律も奏でる独自の奏法としてはっきりと録音に表れており、後のギタリストたちの模範となっています。
レコードの現在の価値と収集のポイント
カーター・ファミリーのオリジナル・レコードは、特に1927年から1935年頃にリリースされた78回転盤シングルが主要コレクション対象です。以下のポイントで価値評価が分かれます。
- 盤の状態(コンディション):キズやノイズの少ない良盤は希少価値が高いです。
- レーベルのバリエーション:当時はOKeh、Victor、ARCといった複数のレーベルから発売されており、特定のレーベルやプレスは珍重されています。
- プレスの由来:ファーストプレスや限定プレスは特に高価です。
米国のヴィンテージレコード市場では、カーター・ファミリーの78回転盤レコードは20世紀初頭のアメリカン・フォークミュージックの歴史的証言として非常に貴重視されています。特に彼らの代表曲「Wildwood Flower」のオリジナル盤は、オークションや専門店で数百ドルから千ドルを超える値が付くこともあります。
まとめ
カーター・ファミリーは、20世紀初頭のアメリカ南部で生まれた伝統的なフォークソングを元に、新たなカントリー音楽の基礎を築いたパイオニアです。その名曲群は時代を越え、今日の私たちにも強いメッセージと美しいメロディーを届け続けています。オリジナルの78回転レコード盤として残された音源は、歴史的資料としての価値も高く、音楽収集家にとっては宝物の一つです。
その素朴な音色に耳を傾けることで、現代の音楽にはない“生のアメリカの息吹”が感じられることでしょう。カーター・ファミリーの名曲とそのレコードという媒体を通じて、フォークミュージックの源流を深く体験することができるのです。


