David MunrowとEarly Music Consort of Londonの名盤LP解説|古楽復興の旗手が紡ぐルネサンス&バロックの至宝
David MunrowとEarly Music Consort of Londonの代表曲について
David Munrow(デヴィッド・マンロー)は、20世紀の英国における古楽復興運動の中心的人物であり、彼が率いたEarly Music Consort of London(ロンドン古楽アンサンブル)は、ルネサンスからバロックにかけての西洋初期音楽を実演し、世に広めた先駆者的グループです。彼らの録音は特にレコードの形態で当時高く評価され、その細密かつ生き生きとした演奏スタイルは多くの古楽ファンを惹きつけました。
David MunrowとEarly Music Consort of Londonの活動背景
David Munrowは1939年生まれ、1950年代から70年代にかけて活躍し、ヴィオール、リコーダー、ヴィオラ・ダ・ガンバ、シャルメル、ラバブラ、シターン、オルガネットなど多様な初期楽器の演奏で知られました。彼は英国BBCのラジオ番組「Early Music」のホストとしても著名であり、古楽の普及に大きく寄与しました。
彼が設立したEarly Music Consort of Londonは、ヴィオールやリコーダー、ロンバルディ・トランペット、ルネサンス・タンバリンなどの珍しい楽器が融合し、オリジナルの楽譜を忠実に再現することにより、古楽音楽のリアリズムを追求。1970年代の古楽ブームの礎を築きました。
代表曲解説:The Art of the Netherlands (The Golden Age of Polyphony)
多くの名盤が残るEarly Music Consortの中でも、代表作として挙げられるのが『The Art of the Netherlands (The Golden Age of Polyphony)』(オランダの芸術:ポリフォニー黄金時代)です。この作品は、15世紀から16世紀にかけてのネーデルラントのポリフォニック音楽を集めたもので、Josquin des Prez、Ockeghem、Busnoisなどを中心に構成されています。
このレコードは1973年に英国のレコードレーベル「Argo Records」よりLPでリリースされました。『Argo ZRG 557』というカタログ番号で、クラシックの古楽盤としては高い評価を受け、リリース当時から良質なヴィニールプレスと丁寧なジャケットデザインで人気を博しました。
- 内容:多声音楽の純度と技巧を駆使し、透明感あふれる響きを創出。ヴィオール属楽器とリコーダーによるアンサンブルが、鮮やかにポリフォニーの絡み合いを浮かび上がらせる。
- 収録曲:
- Josquin des Prez:Missa Pange lingua – Kyrie
- Ockeghem:Missa Prolationum – Gloria
- Busnois:L’Homme armé Chanson
- 音質:当時のアナログ録音技術によるクリアで温かみのあるビニール音。アンサンブルの細やかさがレコード鳴らす際に忠実に再現されやすいのが特徴。
代表曲解説:The Triumphs of Oriana
『The Triumphs of Oriana』は16世紀後半イギリスのアンソニー・トムソンやトーマス・モリスによるアンソロジーに基づく、エリザベス朝のマドリガル集の古楽版再現です。1971年にArgo RecordsよりLP『ZRG 544』としてリリースされ、英国ルネサンス音楽の華やかさを余すことなく表現しています。
この録音では、David Munrow自身がリコーダーやヴィオールを担当し、多様な声部が織りなすハーモニーを細部まで丹念に描き出しました。レコード収集家の中には、「オリジナル楽器によって奏でられたエリザベス朝マドリガルはこの盤なしには語れない」という評価もあります。
- 収録内容:エリザベス1世を讃えるマドリガル、ジョン・ウィルビー、ウィリアム・バード作品を中心とした美しい声楽の絡み合い。
- 演奏特徴:高音リコーダーから低音ヴィオールまで、多彩な古楽器の組合せによる自然で力みのないサウンド。
- 盤質:初期プレスは高品質の厚手ヴィニールで、針飛びの少なさや温かみのあるアナログサウンドが魅力。
その他の代表的なLP録音作品
David MunrowとEarly Music Consort of Londonはその他にも多くのLPレコードをリリースし、古楽音楽の幅広い領域をカバーしています。代表的なものを以下に挙げます。
- “The Art of Courtly Love” (Argo ZRG 550, 1972)
中世の宮廷音楽を集めた名盤。トルヴァドールやミンストレルの作品を古楽器で生き生きと演奏したLP。 - “Instrumental Music from Early Tudor Times” (Argo ZRG 516, 1969)
チューダー朝期の器楽曲集。ヴィオールやリコーダー、シターンを中心に、初期イングランド音楽を展開。 - “Music of the Crusades” (Argo ZRG 545, 1971)
十字軍時代の音楽を収録し、騎士たちの時代の空気感を音楽で再現。エキゾチックかつ叙情的なリコーダーやポルトナックスの響きが見事。
レコード収集家からの評価と現代への影響
David Munrowの早期古楽復興運動は、録音形態がCDやダウンロード主流となった現在もなお、アナログレコード盤での音質や音の温かみを好むコアファンを中心に高い評価を受けています。
特に1970年代のArgoレーベルからのLPは、初期の高精度録音と親密な演奏を楽しめる点で、以下のような特徴があります。
- 高品質ヴィニールプレス:当時としては厚手の良質ヴィニールで再生音のひずみが少ない。
- 丁寧かつ上品なジャケットデザイン:古楽ファンやコレクターの手元に置きたい美術品的要素もある。
- 実演に近い空気感:アナログ機器での再生時に、微細なバランスや倍音の豊かさを感じやすい。
また彼らのアルバムは、後の古楽復興派や現代の演奏家にも大きな影響を与え、現代古楽の名演奏への道筋をつけたと評価されています。特にルネサンス多声音楽とイングランドルネサンス音楽の重要な資料として、古楽専門のレコードショップや収集家の中で注目され続けています。
まとめ
David MunrowとEarly Music Consort of Londonは、その緻密な演奏と豊かな表現力で、20世紀後半の古楽復興の旗手的存在でした。名作LP『The Art of the Netherlands』『The Triumphs of Oriana』をはじめとした名録音は、当時のアナログ技術を駆使して、現代のCDや配信では味わえない温かみや空気感を伝えています。古楽を深く味わい、ヴィニールで聴くことは、David Munrowの音楽遺産を今に生き生きと蘇らせる貴重な手段となっています。
特にレコード収集家や古楽愛好家にとって、Argoレーベルから発売されたこれらのLPは常に探求すべき宝物と言えるでしょう。古楽入門者から玄人まで、David Munrowの名演奏は歴史音楽への扉を開く大切な一冊(盤)となっています。


