アルノルト・シェーンベルク代表曲完全ガイド|十二音技法の魅力と名盤レコード解説
アルノルト・シェーンベルクの代表曲とその魅力に迫る
20世紀音楽を語るうえで絶対に外せない作曲家、アルノルト・シェーンベルク(Arnold Schönberg, 1874-1951)。彼はトーン・ハウス(調性)からの脱却を試み、「十二音技法」を創始したことで知られ、音楽史に革命的な転機をもたらしました。本稿では、シェーンベルクの代表的な作品に焦点を当て、その作品の特徴や歴史的背景、古典的なレコード録音の情報を中心に解説していきます。
1. アルノルト・シェーンベルクとは?
オーストリア・ウィーン生まれのシェーンベルクは、19世紀末から20世紀初頭にかけて活動し、主にロマン派の後期から現代音楽への橋渡し的な役割を担いました。初期はワーグナーやブルックナーの影響を色濃く受けたロマン派音楽を作曲していましたが、やがて調性音楽の限界を感じ、「無調音楽」や「十二音技法」を開発し、現代音楽の新しい地平を切り拓きました。
2. 代表曲の紹介と解説
2-1. 『浄められた夜(Verklärte Nacht), Op.4』(1899年)
シェーンベルクの初期を代表する弦楽六重奏曲『浄められた夜』は、リヒャルト・デーメルの詩を基にしたプログラム音楽であり、ロマン派的な抒情性と高度な和声技法が融合しています。調性の枠組みの中で感情表現の極北を目指した作品です。
レコード情報:1950年代から60年代にかけて、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の室内楽団や名手アンナー・ビルスマ、ヨゼフ・シゲティらによる録音が世界的に評価されています。特に、アナログLP盤でのリリースが多く、ドイツ・グラモフォン(DG)やフィリップスレーベルから入手可能です。
2-2. 弦楽四重奏曲第2番, Op.10(1907-08年)
シェーンベルクの中期作品で、「調性感からの解放」の過渡期に当たる作品です。女性の声パートが途中に加わる特徴的な作品で、その声は詩の朗読ではなく、楽器的な声の扱いをなしています。第2番は、ロマン派的要素を残しつつ、調性の伝統から抜け出す試みの最前線にあります。
レコード情報:1940年代以降に録音されたカザルス弦楽四重奏団やアルバン・ベルク弦楽四重奏団のLP盤が著名です。特に、EMI(プレイバック前の英コロムビア)やデッカの初期アナログ録音は音の温かみがあり、愛好家に人気があります。
2-3. ピアノ組曲第1番, Op.25(1921-23年)
十二音技法を用いた最初期の作品群の一つ。十二音技法とは、12の半音から作られる音列(トーン・ロー)を平等に配列して、調性のない音楽を作る方法論です。ピアノ組曲第1番は、比較的構造が明快で、十二音技法の入門作品として演奏・研究されることが多い曲です。
レコード情報:初の体系的な十二音技法作品として、1950年代から60年代にはヴラド・ペルルミュテールやカノン・ヒューズのピアノ演奏によるLP盤がリリースされ、名盤として知られています。米ヴァンガードやドイツ・グラモフォンのアナログレコードも発掘が可能です。
2-4. 弦楽四重奏曲第4番, Op.37(1936年)
晩年の十二音技法による完成された弦楽四重奏曲で、深い感情と構築美を兼ね備えています。作曲時期は米国に移住してからで、亡命者としての内面も反映されています。シェーンベルクの作品群の中でも、その色彩感覚と精神性が評価される傑作です。
レコード情報:アルバン・ベルク弦楽四重奏団による1950年代から1960年代のLP録音は名盤として名高く、EMI赤ラベル盤やデッカ盤で流通しました。これらのレコードはヴィンテージ市場で高評価を受けています。
2-5. オペラ『ムツェンスク郡のマクベス夫人(Die glückliche Hand), Op.18(1910-13年)
シェーンベルクの最も前衛的なオペラ作品の一つであり、音楽劇的な要素を重視した非常に実験的な作品です。特に調性から飛躍し、音の色彩と心理描写に注力している点が特徴です。
レコード情報:オペラ録音は限られますが、1950年代の初期LP盤にはウィーン国立歌劇場の公演録音が存在し、DeccaやEMIレーベルからリリースされていました。それらのアナログ盤は歴史的空気を伝える貴重な資料です。
3. シェーンベルクの代表曲に対する聴きどころ
- 調性の崩壊と再構築: 初期のロマン派的作品から、無調音楽、十二音技法への進化を感じ取ることができます。
- 技術的革新: 和声や形態における斬新な発想は、現代音楽の基礎となりました。
- 精神性と感情表現: 移民であった晩年、作品に込められた複雑な心理状況や個人的な葛藤を読み取れます。
- 演奏表現の自由度: 使われる音列の制約の中で、演奏者の表現力が魅力になる点も特徴的です。
- 歴史的レコードによる音の魅力: アナログLPの音質や録音技術の歴史も、作品の理解を深める手助けとなります。
4. シェーンベルク作品のレコード収集のすすめ
シェーンベルク作品のレコードは、古典的な西洋音楽の中でもマニアックなジャンルに位置づけられることが多いですが、LPレコードの形で残された演奏は現在でも十分に価値が高いといえます。特に1950~1970年代の西欧主要レーベルからリリースされたアナログレコードは、作曲家の時代背景を反映した音響ですので、デジタル音源とはまた違った「当時の空気感」が感じられます。
収集のポイントとしては、以下を参考にしてください。
- レコードラベル: DG(ドイツ・グラモフォン)、EMI、Decca、フィリップスなど、欧州の主要レーベル。
- 演奏者: アルバン・ベルク弦楽四重奏団、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の室内楽チーム、トビアス・クライナー(ピアノ)、パブロ・カザルス(チェロ、指揮)など。
- 録音時期: 1940年代~1970年代を中心に探すとよいでしょう。アナログ盤の質感と、当時の演奏スタイルが味わえます。
これらのアナログ盤は中古レコード店やオークションサイトで見つかることがあり、音楽愛好家のみならず、音響マニアにも人気があります。また、アナログの持つ自然な倍音成分や音の温かさは、シェーンベルクの複雑な和声構造を耳で楽しむのに最適です。
5. まとめ
アルノルト・シェーンベルクは音楽における革新者であり、その代表的な作品は20世紀音楽の探求の歴史そのものを映し出します。『浄められた夜』から弦楽四重奏曲群、そして十二音技法のピアノ組曲やオペラに至るまで、彼の音楽は多様で奥深い世界を提供してくれます。
特にレコードで聴くことで、演奏者の解釈や当時の録音の温度感も感じ取れるため、音楽の新たな発見があるでしょう。シェーンベルクの作品は難解に思われがちですが、じっくりと情感を味わいながら聴くことで、彼の革新的精神と豊かな感性に触れることができます。
ぜひ、歴史的な名演が刻まれたアナログレコードでシェーンベルクの代表曲を堪能してみてください。そこには、時間を超えた音楽の魅力と、作曲家の真摯な芸術追求の軌跡が生き続けています。


