斜材とは?構造的役割・種類・設計のポイントを解説|建築・土木におけるブレースの基礎知識


斜材とは

**斜材(しゃざい)**とは、建築物や橋梁、鉄塔などの構造物において、鉛直材(柱)や水平材(梁)と対角方向に配置される部材のことです。
英語では「Diagonal Member」または「Brace(ブレース)」と呼ばれます。

斜材は、構造体に働く地震・風・荷重などの水平力に抵抗し、変形を抑える役割を持ちます。
特に鉄骨造やトラス構造では、建物の剛性(ねじれ・ゆがみへの強さ)を高める重要な要素です。


斜材の役割

建築・土木構造における斜材の主な役割は、以下の3つです。

1. 水平力への抵抗

地震や風圧によって建物に加わる水平力(横方向の力)を負担します。
斜材があることで、柱や梁だけでは支えきれない力を分散し、構造全体の安定性を確保します。

2. 剛性の向上

斜材を加えることで構造体が「三角形(トラス形)」を形成し、変形やねじれを防止します。
これにより、建物の振動や揺れが小さくなり、耐震性や耐風性が大幅に向上します。

3. 荷重の伝達・分散

上部構造にかかる荷重を、効率的に基礎や支点へ伝える働きも持ちます。
特に橋梁や鉄塔では、引張と圧縮の組み合わせにより荷重を安定的に分散します。


斜材の種類

斜材は、使用目的や形状、配置方法によってさまざまな種類に分類されます。

1. ブレース形式による分類

種類形状・特徴主な用途
シングルブレース(単一斜材)一方向に1本だけ配置。引張専用または圧縮専用として使用。鉄骨造の中小規模建物、補強構造など
クロスブレース(X型ブレース)2本の斜材を交差させる形式。双方向の力に抵抗可能。高層ビル・体育館・橋梁など
K型ブレース柱の中間位置で斜材を接続。開口部を確保しやすい。建物の外周部、壁面など
V型・倒V型ブレース斜材がV字型に梁へ接続。建築意匠を損なわずに剛性を確保。エントランス・大空間建築など

2. 応力状態による分類

種類特徴主な用途
引張ブレース(テンションブレース)地震時に引張力のみを負担。軽量で座屈の心配が少ない。鉄骨造建築物、耐震補強工事
圧縮ブレース圧縮力を負担。断面が大きく、座屈防止が必要。橋梁、鉄塔、トラス構造など
両方向ブレース引張・圧縮の両方を交互に受け持つ。クロスブレースやラチス構造など

斜材に使用される主な材料

材料特徴用途
鋼材(丸鋼・角鋼・H形鋼など)高強度・高剛性。溶接・ボルト接合が容易。鉄骨造建築、橋梁、鉄塔
PC鋼線・ワイヤーロープ引張専用。軽量で柔軟性がある。吊橋、張弦梁構造、テンションブレース
木材・集成材軽量で施工性が高いが、耐力は小さい。木造住宅、木質トラス
鋼管(STK材など)軽量かつ座屈に強い。見た目もスマート。建築意匠ブレース、外装補強

斜材の設計上のポイント

1. 力の流れを意識した配置

斜材は、構造物全体の**荷重経路(力の流れ)**を意識して配置する必要があります。
適切な角度(一般に30〜60°程度)で設けることで、効率よく水平力を分散できます。

2. 接合部の設計

斜材の端部は、ボルト接合または溶接接合で柱・梁に固定します。
力の伝達経路に応じて、接合部の剛性・耐力を十分に確保することが重要です。

3. 座屈対策

圧縮力を受ける斜材は、**座屈防止(変形防止)**が必要です。
補剛材を入れる、断面を大きくする、または中空鋼管を使用するなどの工夫を行います。

4. 意匠性と開口確保

建築物では、斜材が窓や出入口を妨げることがあるため、K型やV型配置などで開放性と強度を両立させます。


斜材が使われる代表的な構造

  • 鉄骨造建築物:耐震ブレースとして採用
  • 橋梁(トラス橋):主桁と斜材で荷重を分散
  • 鉄塔・送電塔:格子構造で風荷重や地震力に対応
  • 屋根トラス構造:軽量かつ高強度な骨組みに利用

まとめ

斜材とは、建築や土木構造物の安定性と耐震性を支える重要な構造部材です。
柱と梁をつなぐことで力を三角形構造に分散し、建物や橋梁の揺れ・変形を防止します。

構造形式・材料・配置方法によって性能が大きく変わるため、
設計段階では剛性・美観・施工性のバランスを考慮することが求められます。