トム・ジョビン(ボサノヴァ)レコード徹底ガイド:オリジナル盤の見分け方・価値・保存法
アントニオ・カルロス・ジョビン(Tom Jobim) — レコードを軸にした深掘りコラム
アントニオ・カルロス・ブラジレイロ・デ・アルメイダ・ジョビン(通称トム・ジョビン、Antônio Carlos Jobim、1927年1月25日生 — 1994年12月8日没)は、ボサノヴァの代表的作曲家・ピアニスト・ギタリストであり、その作曲群は世界中で「スタンダード」として演奏され続けています。本稿では特にレコード(アナログLP/シングル)を中心に、彼の音楽的歩み、重要な作品のオリジナル盤やリリースの違い、コレクターズポイント、そしてレコード再生・保存の実務的な注意点まで詳しく解説します。
1. 簡潔な経歴と音楽的立ち位置
ジョビンはリオデジャネイロ出身。1950年代に作曲家・編曲家として活動を始め、ヴィニシウス・ジ・モライス(Vinicius de Moraes)やニュートン・メンドンサ(Newton Mendonça)といった詩人/作曲家と協働し、1958年以降のボサノヴァ隆盛の中心的存在となりました。「Chega de Saudade」「Desafinado」「Garota de Ipanema(The Girl from Ipanema)」「Corcovado」「Wave」「Águas de Março」など、多くが世界標準のレパートリーになりました。
2. レコード時代の重要な記録(概観)
ジョビンの作品が世界的に広まったのは、1959年頃からのブラジル国内盤シングル/LPと、1960年代のアメリカやヨーロッパでのリリースが連動した結果です。特に注目すべきは次の流れです。
- 1950年代末〜1960年代初頭:ブラジル国内のシングルやアルバムで彼の楽曲が発表され、現地の認知を拡大。
- 1962〜1964年:スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトの協演によるアルバム「Getz/Gilberto」(1964年)が国際的大ヒットとなり、彼の楽曲(特に「Garota de Ipanema」)が世界的に普及。
- 1960年代後半〜1970年代:ジョビン自身のソロLP(英語圏や欧米向けリリース含む)、シナトラとの共演盤、CTIやReprise、Verveなどのレーベルからのアルバムがアナログ市場で多数流通。
- 1974年:エリス・レジーナとの共演アルバム「Elis & Tom」(Philips)がブラジル国内外で高く評価され、アナログでの名盤として継承される。
3. レコード(LP/シングル)で押さえるべき代表作(原盤重視)
ここではレコード収集において特に注目される代表盤を挙げます。年やレーベル表記は一般的に知られているものを記しますが、ヴィンテージ盤は国別・盤種(モノ/ステレオ)・プレス違いで状態や価値が大きく変わるため、実物のランナウト(マトリクス刻印)を必ず確認してください。
- Getz/Gilberto(1964 / Verve) — スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルトの共演作。世界的ブレイクの契機となったアルバムで、初期プレス(Verve初版)はコレクターに人気。
- The Composer of "Desafinado", Plays(1963 / Verve) — ジョビンが自作曲を演奏したアルバム(英語圏リリース)。初版LPはジャズ/ボサノヴァ界で重要。
- Francis Albert Sinatra & Antônio Carlos Jobim(1967 / Reprise) — シナトラとの共演盤。オリジナルUSプレスはジャケットの仕様やステレオ/モノの違いで希少性が変わる。
- Wave(1967) — ジョビンの代表曲「Wave」を含むセルフ・アルバム。国によるジャケット差やマスタリング差がある。
- Stone Flower(1970 / CTI) — 1970年代のサウンドを反映した作品。CTI初版のオリジナル盤はアナログファンに人気。
- Elis & Tom(1974 / Philips) — エリス・レジーナとの共演。ブラジル国内初版(Philips)や欧米盤の音質差、帯やインサートの有無が評価ポイント。
4. コレクターズ・ポイント:どの盤を、どう見分けるか
レコード収集の観点で特に注意してほしい点を列挙します。
- プレスとラベル:ブラジル国内盤(Odeon、Philips等)は独自のラベルとマトリクスを持つことが多く、表記がポルトガル語であることが多い。欧米盤(Verve、Reprise、CTIなど)は英語表記。初版のラベル色やロゴの細部違いを確認。
- モノ/ステレオの識別:1960年代前半の重要盤にはモノラル初版が存在することがある。サウンドの味わいが変わるため、好みに応じて選ぶ。
- マトリクス/ランナウト刻印:収集ではマトリクス(A1/B1など)やテキスト刻印が重要。リマスターや再プレスは刻印で判別できるため、必ずチェック。
- ジャケット/インサート:オリジナル帯、内袋、歌詞カード、フォトカードなどの付属品有無で価値が変わる。特に国内初版は帯の有無が重要。
- 国内盤と海外盤の音質差:一概にどちらが良いとは言えないが、ブラジル初版はオリジナル・アナログテープからのカッティングが期待できる場合があり、欧米初版は別マスターや別ミックスが使われることがある。
5. 高価値盤・希少盤の傾向
ジョビン関連で高値になりやすいのは、「初版」「少数プレス」「付属品完備」「コンディション良好」の組合せです。特に以下がチェックポイントとなります:
- ブラジル国内の初版LP(帯・インサート付)
- Getz/Gilbertoの初期Verveプレス(初回プレスのステレオ/モノ、帯やインサートの有無)
- Elis & TomのブラジルPhilips初版(ポルトガル語歌詞カードやインサート付き)
- シナトラ共演盤の米国Reprise初版(ジャケットの構造・初回マトリクス)
6. 再発とリマスター盤についての注意
近年、アナログ復刻(オリジナルマスターからのカッティング再現や新規アナログカッティング)も増えています。再発盤は新品で入手しやすく音も良いものがありますが、オリジナル・プレスの音色や雰囲気、ジャケットの質感は別物です。購入時は次を確認してください。
- リマスタリング元(オリジナルテープかデジタル復刻か)
- カッティングエンジニアとカッティング・ラボの情報
- プレス国(米国、欧州、日本、ブラジルなど)と重量(180gなど)
7. レコード再生と保存の実務的アドバイス
アナログでジョビンの繊細なハーモニーやボサノヴァの微細なニュアンスを楽しむための基本的なポイントです。
- ターンテーブルのセッティング:適切なトラッキングフォース、カートリッジの種類(コンデンサー型やMC/MM)を検討。ジョビン作品は中・高域の表現が重要。
- クリーニング:塵埃は音の鮮度を損なうため、レコード専用のブラシやクリーニング液を使用。深い傷は避ける。
- 保管:直射日光を避け垂直保管。厚手の内袋と外袋を使い湿気や埃から守る。
- イシュー確認:針飛びや歪みがある場合はプレイヤー側(カートリッジ交換やアーム調整)を疑う。
8. ジョビンの音作りとレコードに刻まれた特色
ジョビンの録音は、編曲者やプロデューサーが異なることで雰囲気が大きく変わります。クラウス・オガーマン(Claus Ogerman)やエウミール・デオダート(Eumir Deodato)などの編曲者が手掛けたアレンジは、オーケストレーションの色合いが強く、CTI時代はジャズ・ファンク的な質感が出ます。一方でジョアン・ジルベルトやエリス・レジーナとの共演では生のギターやボーカルの距離感、暖かさが前面に出ます。オリジナル・アナログ盤はこうした「録音当時の空気」をダイレクトに伝えてくれるため、聴き比べの面白さがあります。
9. なぜアナログ盤が特別か
デジタル音源が広まった現在でも、オリジナルLPが愛される理由は以下の通りです:
- アナログ特有の音の余韻(ハーモニックリッチネス)
- アートワークやインサートを含めた「パッケージとしての体験」
- オリジナル・マスターの風合いや当時のミックスがそのまま残ること
10. まとめ:レコードによって継承されるジョビンの世界
アントニオ・カルロス・ジョビンの楽曲は、作曲そのものの完成度に加え、演奏やアレンジ、録音・プレスといった一連のプロセスによって「レコード」という物性に刻まれてきました。コレクターとしては、オリジナル盤の物理的特徴(ラベル、マトリクス、付属物)を確認しつつ、再生環境を整えることで、ジョビンの音楽が持つ繊細な色彩と時間軸をより深く味わえます。特にブラジル国内初版や1960年代の欧米初版は、その当時の文化的背景と録音哲学をよく反映しており、LPとして所有する価値は高いと言えるでしょう。
参考文献
- Britannica: Antônio Carlos Jobim
- AllMusic: Antônio Carlos Jobim
- Discogs: Antônio Carlos Jobim(ディスコグラフィ)
- Wikipedia: Getz/Gilberto(アルバム背景や初版情報の参考)
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