Ferry Corstenのトランス名盤完全ガイド:代表曲・制作テクニック・聴きどころを徹底解説
はじめに — Ferry Corstenという存在
オランダ出身のFerry Corstenは、1990年代後半からトランス/エレクトロニック・ミュージックの最前線で活躍してきたプロデューサー/DJです。System FやGouryellaといったプロジェクト名義でリリースしたトラックはシーンの金字塔となり、ソロ名義でもアルバムやリミックス、ラジオショー(Corsten's Countdown)を通じて多数の名曲を世に送り出してきました。本コラムでは「名盤」と呼べる主要作品を深掘りし、楽曲的・制作的な特徴、当時のコンテクスト、聴きどころを解説します。
System F — 「Out of the Blue」:ユーフォリック・トランスの象徴
代表曲:「Out of the Blue」(1999)
概要:System FはFerry Corstenの代表的なプロジェクトの一つで、1999年のシングル「Out of the Blue」はメロディックで高揚感のあるトランス・アンセムとして世界的に大ヒットしました。シンプルなアルペジオ、切なく伸びるリード・メロディ、力強いビルドアップ──トランスの“美学”が凝縮された一曲です。
- サウンド面の特徴:透明感のあるシンセリード、ピュアなパッド、ドライブ感のある4つ打ちキック。メロディの反復によって高揚を作る構成。
- 制作の工夫:リードの音作りは倍音を意識したレイヤー構成で輪郭を出しつつ、低域はサブベースで支える設計。イントロからクライマックスまでの“緩急”の作り方が非常に洗練されています。
- 聴きどころ:00:00〜のイントロで提示されるアルペジオ、ビルドでのパーカッション追加、ドロップ後にくるメロディの“開放感”。クラブ/フェスでの破壊力は随一。
Gouryella(初期) — トランスの純化と神話性
代表曲:「Gouryella」(1999)
概要:GouryellaはFerry CorstenとTiëstoによるコラボレーション(当初)としてスタートし、初期の楽曲は純度の高いメロディック・トランスを志向していました。神秘的で荘厳なムードを作ることに長け、エモーショナルな旋律が特徴です。
- サウンド面の特徴:広がりのあるパッド、リフレインするフレーズ、儚さを帯びたメロディライン。クラシカルな要素(ストリング感やアンビエンス)をトランスの文法に落とし込んでいます。
- 制作の工夫:ボイスや環境音的なレイヤーで“宗教的”とも言える広がりを演出。ミックスでは中高域のクリアさを保ちながら、ローエンドはダンスフロアに集中させるバランス感覚が重要。
- 聴きどころ:イントロの静寂から一気に広がるコーラス感、ミドル8でのテンションの変化、ラストに向けての余韻の残し方。
Gouryella(復活) — 「Anahera」以降の再評価
代表曲:「Anahera」(2015)
概要:Gouryella名義は一度フェードアウトしましたが、2015年にFerry自身がプロジェクトを復活させ、リリースされた「Anahera」は過去のGouryellaサウンドを現代的なプロダクションで再解釈した秀逸作として高く評価されました。旧来のメロディックさを保ちつつ、現代的なミックス、モダンなサウンドデザインが加わっています。
- サウンド面の特徴:古典的なトランスメロディを残しながらも、サブベースやトランジェント処理、モダンなリバーブ感を採用。クラシックと現代サウンドの融合。
- 制作の工夫:過去作の“核”を分析し、余計な要素をそぎ落としつつも、現代のスピーカーで映えるようにEQとステレオワイドニングを再構築している点が巧みです。
- 聴きどころ:旧来のファンには“原点回帰”と感じられるメロディの強さ、新規のリスナーには洗練された音像が刺さる仕上がり。
Ferry Corsten(ソロ) — 「Right of Way」(2003)と「L.E.F.」(2006)
Right of Way(概要):Ferryのソロ名義での代表的なフルアルバム。トランス中心の楽曲群と、ポップ/エレクトロの要素を取り入れた楽曲が混在しており、ソロ・プロデューサーとしての幅と野心が感じられる作品集です。アルバム全体を通じてメロディメイキングの巧さ、ボーカル曲とインストのバランス感が魅力。
- サウンド面の特徴:トランスの典型的なリード音に加え、ポップ寄りのアレンジ(歌モノ構成)をトライ。制作技術としては、ボーカルの乗せ方やキック/ベースの組み立てに注意が払われています。
- 聴きどころ:アルバムとして聴くことで見える“曲順によるドラマ性”。クラブ向けのトラックとリスニング向けのトラックが交互に配置され、聴き疲れしない構成になっています。
L.E.F.(概要):2006年リリースのアルバムで、タイトルは「Loud, Electronic, Ferocious」の頭文字とも言われています。L.E.F.ではFerryがより実験的・エレクトロニックな要素に踏み込み、従来のトランスの枠を超えたサウンドが展開されます。
- サウンド面の特徴:エレクトロニックなベースライン、グリッチ的な加工、攻撃的なリードサウンドなどが混在。ダンスフロア寄りのエネルギーが強調されている一方で、メロディ性も失われていません。
- 制作の工夫:リズム構造や音響加工に実験性が見られ、トランス的な“美メロ”とモダン・エレクトロの融合に挑戦しています。
- 聴きどころ:アルバム全体のダイナミクス、各トラックでの音作りのユニークさ。ヘッドフォンで細部のエフェクトやステレオワイドニングを確認するのがおすすめです。
名盤をより深く楽しむための聴き方・ポイント
- 構造を追う:イントロ → ビルド → ドロップ(クライマックス) → ブレイク → 再ビルド、というトランスの定型を意識して聴くと、各パートでの制作意図が見えやすくなります。
- サウンドレイヤーを分解して聴く:メロディ、コードパッド、ベース、パーカッション、エフェクトというレイヤーごとに注目してみてください。特にFerryはメロディと雰囲気の作り方が巧みです。
- リリース時の文脈を考える:1999年〜2006年はトランスが商業的にも盛り上がった時期です。リリース当時のクラブ/フェス事情やDJセットでの受け取り方を想像しながら聴くと、より深い理解につながります。
- リミックスやライブ版と比較する:Ferry自身や他アーティストによるリミックス、ライブエディットを聴き比べると、アレンジの違いや楽曲の“コア”が浮かび上がります。
制作面で学べること(プロデューサー志向への示唆)
- メロディの“シンプルさ”を恐れない:Ferryの代表曲は複雑さよりも「反復による高揚」を重視しており、シンプルなフレーズの磨き込みが重要であることを示しています。
- レイヤーの役割分担:一つの音に複数の役割(トランジェント、ボディ、倍音)を持たせることで、ミックス全体の厚みを確保しています。
- ダイナミクス管理:ミックスダウンでのコンプレッションやサイドチェイン処理により、キックとベースの関係、ボーカルの前後関係を明確にしている点は学びが多いです。
- テーマ性とアルバム構成:アルバム制作時の曲順やテーマ設定は、単曲リリースとは異なる“物語性”を与える有効な手段です。
代表曲/名盤まとめ(聴き始めにおすすめ)
- System F — "Out of the Blue"(1999) — トランス史に残るアンセム。まずはここから入るのが定石です。
- Gouryella — "Gouryella"(1999) — メロディック・トランスの純度を体感できる一曲。
- Gouryella — "Anahera"(2015) — 古典的メロディを現代のプロダクションで再構築した復活作。
- Ferry Corsten — アルバム「Right of Way」(2003) — ソロ作としての幅を感じられる一枚。(アルバム全体で楽しむのがおすすめ)
- Ferry Corsten — アルバム「L.E.F.」(2006) — よりエレクトロニック/実験的な側面が垣間見える作品。
おわりに
Ferry Corstenの作品群は、トランスの典型的な美学を提示しながらも、時代とともに音作りや表現を更新してきた点が魅力です。クラシックなアンセム群から、アルバム単位の挑戦作、プロジェクト再始動による新解釈まで、幅広く触れることで彼のアーティストとしての成長と多面性が見えてきます。初心者は代表曲で“核”を押さえ、中級者はアルバム単位で構造や音作りの工夫を聴き取り、上級者はリミックス/ライブ版との比較やプロダクションの再現に挑むと、さらに深く楽しめるでしょう。
参考文献
Ferry Corsten - Wikipedia
Ferry Corsten Official Website
Ferry Corsten - Discogs
Ferry Corsten - Resident Advisor
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