Raspberry Piとは?モデル別の特徴・活用事例・導入・運用の注意点を徹底解説

Raspberry Piとは — 概要

Raspberry Pi(ラズベリーパイ)は、イギリスの非営利団体「Raspberry Pi Foundation」が普及・教育目的で開発・提供する小型シングルボードコンピュータ(SBC)のシリーズ名です。クレジットカード大の筐体にCPU、メモリ、入出力を集約した低価格で汎用性の高いコンピュータとして、教育現場だけでなく、趣味の電子工作、IoT、メディアセンター、産業用途のプロトタイピングや組み込み製品に広く使われています。

歴史と主要モデルの流れ

Raspberry Piは2012年に初代モデル(Model B)が登場して以来、性能と機能を順次強化しながら多様なモデルを展開してきました。代表的なマイルストーンを簡単に示します。

  • 初代(Model A/B、2012年):低価格で入手しやすい教育用PCとして登場。
  • Raspberry Pi 2 / 3(中期世代):CPUコア数やクロック、オンボード無線(Wi-Fi/Bluetooth)を搭載して性能向上。
  • Raspberry Pi 4(2019年):RAM容量の選択肢(最大8GB)、HDMIデュアル出力、USB-C電源などを採用し、デスクトップ用途やサーバ用途でも実用的な性能に到達。
  • Zero / Zero W / Zero 2 W:さらに小型で超低価格の派生モデル(無線搭載モデルあり)で、スペースや消費電力が制約される用途に適する。
  • Raspberry Pi 400:キーボード一体型でデスクトップコンピューティングを手軽に提供。
  • Pico / RP2040(マイクロコントローラ):2021年に登場した独自マイコンチップを用いた別ラインで、マイコン用途(低消費電力・リアルタイム制御)に特化。
  • Compute Moduleシリーズ:産業用途や専用ボードへの組み込みを想定したモジュール化製品群。

ハードウェアの特徴

Raspberry Piの各モデルは設計思想として「低価格で入手しやすく、拡張しやすい」を重視しています。主要なハードウェア的特徴は以下の通りです。

  • SoC(System on Chip):多くのモデルでBroadcom製のARMベースSoCを採用し、モデル世代ごとにCPUアーキテクチャ(ARMv6/ARMv7/ARMv8など)やコア数が進化しています。例として、初代はシングルコア、後期はクアッドコアを採用するなど性能が大幅に向上しました。
  • メモリ:モデルにより搭載量が異なります。Raspberry Pi 4以降は2GB/4GB/8GBなどの選択肢があり、用途に応じてメモリ容量を選べます。
  • GPIO(汎用入出力):40ピンのヘッダ(旧来モデルは26ピン)を備え、I2C、SPI、UART、PWMなどのインターフェース経由で外部センサやデバイスと接続可能。HAT(Hardware Attached on Top)という標準規格で拡張ボードを取り付けられます。
  • ストレージ/ブート:多くのモデルはmicroSDカードをOSストレージ/ブートメディアとして使用します。機種やファームウェアによってはUSBブートやネットワークブートをサポートします。
  • 映像・音声出力:HDMI出力(モデルにより1〜2ポート)を備え、メディア再生用にGPUとビデオデコーダ支援があります。
  • ネットワーク/無線:Ethernet、Wi‑Fi、Bluetoothを機種により搭載。Pi 4では有線LANや高速USBなどを強化し、サーバ用途にも耐える構成になりました。
  • 電源:多くは5V給電で、Pi 4はUSB-C給電(推奨電源 5V/3A)。消費電力はモデルと負荷に依存しますが、従来のPCに比べて低めです。

ソフトウェアとエコシステム

Raspberry Piはハードだけでなく、ソフトウェアのエコシステムが充実していることも強みです。

  • Raspberry Pi OS(旧Raspbian):公式に推奨されるDebian派生のOSで、教育用ツールやGPIO操作用のライブラリなどが同梱されています。32bit版・64bit版などが提供されています。
  • その他のOS:Ubuntu、LibreELEC(メディアセンター向け)、Windows系では互換性のある軽量OSなど、多様なOSがサポートまたは移植されています。
  • インストールツール:Raspberry Pi Imagerなどの公式ツールで手軽にイメージを書き込み、初期セットアップを行えます。かつてのNOOBSインストーラに替わる手法が整備されています。
  • 開発環境:Python(特に教育・試作で広く使われる)、C/C++、Node.js、Rustなど多くの言語・ツールチェーンが利用可能。GPIO制御用のライブラリ(例えばRPi.GPIO、pigpioなど)も充実しています。
  • コミュニティ:世界中のユーザーがチュートリアル、HATやソフトウェアを共有しており、問題解決やプロジェクト事例の情報源が豊富です。

活用事例 — 教育から産業まで

Raspberry Piはその汎用性から幅広い用途で使われます。代表的な活用例を挙げます。

  • 教育目的:プログラミングやコンピュータサイエンス入門、電子工作の教材として最適。
  • ホームサーバ・NAS:低消費電力を活かしたファイルサーバ、ホームオートメーションのハブ。
  • メディアセンター:Kodiなどでメディア再生端末として利用。
  • IoTゲートウェイ・センサノード:センサデータを収集してクラウドへ送信するゲートウェイや制御ノード。
  • 産業・組み込み機器のプロトタイプ:Compute Moduleを使った専用ハードウェアへの組み込みや、監視カメラやデジタルサイネージの制御など。
  • ロボット・自動化:モータ制御や各種センサを組み合わせたロボット制御基板として。

導入時の実務的な注意点

実際にRaspberry Piを利用する際は、以下の点に注意してください。

  • 電源管理:適切な容量の電源アダプタを使うこと。特にPi 4ではUSB-Cで5V/3Aが推奨されます。不安定な電源は動作不良やSDカード破損の原因になります。
  • SDカードの品質:OSやデータを格納するmicroSDカードは性能差が影響します。耐久性の高い製品や必要に応じて外部SSD/USBブートを検討してください。
  • GPIOの電圧:GPIOは3.3Vロジックが基本で、5V耐性はありません。外部回路接続時はレベル変換や保護回路を設けてください。
  • 冷却と発熱:高負荷時は発熱が増えるため、ヒートシンクやファン、筐体設計による放熱対策が必要です(特に連続稼働や高負荷のアプリケーションで重要)。
  • 長期運用と信頼性:産業用途ではCompute Moduleや産業グレードのボード、eMMC搭載モデルなどを選ぶと信頼性が高まります。

セキュリティと運用管理

学習用途だけでなく実運用する場合、次のセキュリティ対策は必須です。

  • 初期ユーザーとパスワード:かつてはデフォルトユーザー名「pi」/パスワード「raspberry」が多用されましたが、近年はデフォルトユーザーが廃止されるなどの対策が講じられています。必ず初期アカウントの設定を見直し、強力なパスワードを設定してください。
  • OSとソフトウェアの更新:脆弱性対策のため定期的なアップデートを行うこと。自動更新のポリシーやバックアップ体制も検討してください。
  • ネットワーク対策:公開サービスを運用する場合はファイアウォールやSSHの公開鍵認証、不要サービスの停止、ログ監視を実施してください。
  • バックアップと冗長化:SDカードの破損やシステム障害に備え、イメージバックアップや冗長構成を検討しましょう。

Raspberry Piと他デバイス(マイコン・PC)の使い分け

Raspberry PiはフルLinuxを動かす能力を持つ一方、Arduinoなどのマイコンや小型マイコンボード(Raspberry Pi Picoなど)とは用途が異なります。リアルタイム制御や極めて低消費電力が要求される場面ではマイコンが適し、複雑なOSやネットワーク、ユーザーインターフェース、複数プロセスの実行を必要とする場面ではRaspberry Piが適しています。両者を組み合わせるハイブリッド構成も一般的です。

まとめ

Raspberry Piは「安価で手軽に使える汎用コンピュータ」として、教育・趣味・プロトタイプ・実稼働システムまで幅広い用途で活用されています。ハードウェアの世代更新や派生製品の登場により、性能・拡張性・使い勝手は着実に向上しています。ただし電源・ストレージ・GPIOの扱い、セキュリティ運用など実務的な注意は必要です。導入前に用途・運用要件を整理し、コミュニティや公式ドキュメントを参照しながら計画的に使うことが成功のポイントです。

参考文献