SDカード完全ガイド:規格・容量・速度クラスの違いと用途別の選び方
SDカードとは — 概要
SDカード(Secure Digitalカード)は、デジタル機器向けのフラッシュメモリ型リムーバブル記憶媒体の一つです。デジタルカメラ、スマートフォン、タブレット、ビデオカメラ、ドローン、ラズベリーパイなど幅広い機器で使われ、持ち運びと交換が容易なため事実上の業界標準になっています。物理的な小型・薄型のフォームファクタと、容量・速度・耐久性の多様なラインナップにより、用途に応じて選択できます。
簡単な歴史と規格の成立
SDカード規格は2000年にSanDisk、東芝(Toshiba)、松下電器(現パナソニック)らによって共同で策定され、SD Association(SDアソシエーション)が標準の策定と普及を推進しています。以降、容量や転送速度、インターフェース拡張などの要望に合わせて規格は更新され、下記のような世代が生まれました。
SDカードの種類(容量ベース)
- SD(standard-capacity):概ね最大2GB。初期の規格。
- SDHC(High Capacity):2GB超〜32GBまで。
- SDXC(eXtended Capacity):32GB超〜2TBまで。標準でexFATを想定。
- SDUC(Ultra Capacity):2TB超〜最大128TBまで(規格上)。
これらの区分は主に論理容量(アドレス空間)によるもので、機器の対応状況により読み書きできる上限が変わります。
物理サイズと互換性
- 標準SD(約32×24mm)— 主に一眼レフ・ビデオ機器など。
- miniSD(廃れつつある小型)— 一時期の携帯電話で使用。
- microSD(約15×11mm)— スマートフォンやタブレット、ドローン、シングルボードコンピュータで主流。
変換アダプタによりmicroSDを標準SDスロットで使えますが、逆は不可。大事な点として、「物理サイズ」と「規格(SDHC/SDXCなど)」は別軸の仕様で、デバイスが扱える規格を確認する必要があります。
速度とクラス分け(実効性能指標)
SDカードは連続書き込みやランダムアクセスの性能を表すために複数のクラスが定められています。主なものは次の通りです。
- Speed Class(Class 2/4/6/10):最低保証の連続書き込み速度(MB/s)に基づく古い区分。
- UHS Speed Class(U1/U3):UHS(Ultra High Speed)バス上での最低書込速度保証(U1=10MB/s、U3=30MB/s)。
- Video Speed Class(V6/V10/V30/V60/V90):映像記録向けの連続書き込み最低保証(数字はMB/s)。4K/8K動画など用途別に重要。
- Application Performance Class(A1/A2):スマートフォン等でのアプリ動作を想定したランダムIO性能基準(A1:読み1500 IOPS/書500 IOPS等、A2:さらに高いIOPSを保証)。
さらに、カード自体のバスインターフェース(物理的/電気的)により理論上の帯域が異なります:
- 通常SD(非UHS):最大25MB/s(旧仕様の目安)。
- UHS-I:最大104MB/s。
- UHS-II:ピンを増やした二列構成で最大312MB/s。
- UHS-III:最大624MB/s。
- SD Express(PCIe/NVMe採用):PCIe x1(PCIe 3.0相当)+NVMeを使い、理論上数百〜約985MB/s程度まで(規格や世代で変動)。
実際の転送速度はカード内部のNAND性能、コントローラ、ホスト機器の対応、ケーブルやアダプタ等で変わります。製品表記はMB/s(通常10^6バイト)かMiB/s(2^20バイト)を混在していることがあるため、スペック比較時は単位に注意してください。
ファイルシステムと互換性
SDカードの規格は容量帯域に応じて推奨ファイルシステムが異なります。代表的には:
- SD/SDHC(〜32GB):FAT16/FAT32が多い。
- SDXC(32GB〜2TB):exFATが標準(長大ファイル対応)。
- SDUC(2TB以上):exFATが想定される。
exFATはかつてMicrosoftの独自技術でしたが、仕様公開やライセンスの扱いが変わった経緯があり、現在では多くのOSでサポートされています(LinuxはKernel 5.4以降で公式サポート)。ただし、古い機器ではexFATに対応していない場合があるため、カードを差す前に機器の仕様を確認してください。
NANDの種類と耐久性(寿命)
SDカードは内部にNAND型フラッシュを使っていますが、NANDの方式によって寿命や性能が変わります。代表的には下記。
- SLC(Single-Level Cell):最も高耐久・高速だが高価。産業用途向け。
- MLC(Multi-Level Cell, 2-bit):SLCより安価で容量重視。耐久性は中程度。
- TLC(Triple-Level Cell, 3-bit)/QLC(4-bit):さらに高密度で低コスト。ただし書き込み耐久性と速度が劣る。
連続録画や監視カメラ、ドライブレコーダーなど書き込み頻度が高い用途では「エンデュランス(高耐久)」を謳う製品やSLC/MLC寄りのカードを選ぶほうが安全です。フラッシュは書き換え回数に限界があり、コントローラ側のウェアレベリングやバッドブロック管理も寿命に影響します。
偽造カードと検査ツール
オンラインや安価なマーケットプレイスでは、表示容量が実際より大きく見える偽造カードが流通することがあります。買ったカードが偽造かどうかを確かめるための代表的ツール:
- H2testw(Windows)— 容量のチェックや書き込み検証。
- F3(Fight Flash Fraud、Linux/Mac)— H2testwのオープンソース代替。
- CrystalDiskMark 等— シーケンシャル/ランダムのベンチマーク。
怪しいカードは初期段階で検査し、疑わしい場合は販売者に問い合わせるか返金/交換を求めてください。メーカー正規品を信頼できる販売経路で購入するのがベストです。
用途別の選び方(実用ガイド)
- スマートフォン保存/写真:microSDXC、UHS-I、U3/V30、A1/A2(アプリやランダムアクセスを多用する場合)。
- 4K/8K動画撮影:V30以上、U3、可能ならUHS-IIやV60/V90を検討。高ビットレート撮影や連写には高持続書込性能が必要。
- ドローンやアクションカメラ:振動・衝撃・高温に耐える(産業グレード・高エンデュランス)モデルを選ぶ。規程のSpeed/Videoクラスに対応しているか必ず確認。
- Raspberry PiやOSブート用途:A1/A2クラス(ランダムIO性能重視)。ただしシステム安定性を考え、信頼性の高いブランドのカードを選ぶ。
- 監視カメラ/ドライブレコーダー:高耐久(endurance)モデル。常時書き込みに強い製品を推奨。
運用上の注意点
- 書き込み中の抜き差しはデータ破損の原因になる。機器の取り外し/アンマウントを必ず行うこと。
- 長期保存では高温多湿を避け、定期的にデータのバックアップを取る。
- カードを使う機器の対応仕様(SDXC/SDHC、UHS対応など)を確認する。対応外だと認識できないか、速度が出ない。
- フォーマットは機器付属の推奨ツール(カメラならそのカメラで)を使うと互換性が高くなる場合が多い。exFATでフォーマットする際はホストの対応を確認。
まとめ
SDカードは非常に便利で広く普及した記憶媒体ですが、「どの規格(SDHC/SDXC/SDUC)」「どの物理サイズ」「どの速度クラス」「どのNAND特性・耐久性」を選ぶかは用途によって大きく異なります。購入時は機器の対応表とカードのSpeed/Video/Applicationクラス、そして信頼できるブランドから購入することを基本にしてください。高ビットレート動画や常時書き込みが必要な用途では、速度保証と高耐久を重視するのが失敗しないコツです。
参考文献
- SD Association(公式サイト)
- Wikipedia:SDカード(日本語)
- SD Association:Video Speed Class(SDカードのビデオ速度クラス)
- SD Association:Application Performance Class(A1/A2)
- Wikipedia:exFAT(英語)
- 報道:MicrosoftがexFAT仕様を公開 / Linuxカーネル対応(参考記事)
- 検査ツールと偽造カードに関する解説(参考)


