ジョーン・サザーランド(La Stupenda)徹底解説:ベル・カントの名盤・代表役と聴きどころ
序文 — 「ラ・ストゥペンダ(La Stupenda)」とは
ジョーン・サザーランド(Joan Sutherland、1926年11月7日–2010年10月10日)は、20世紀を代表するオペラ歌手の一人であり、「ラ・ストゥペンダ(驚異の歌姫)」の異名で知られます。特にベル・カント(Bell canto)作品の復興に大きく貢献し、卓越した技術、豊かな音色、華麗な高音で聴衆を魅了しました。本稿では彼女の略歴、声の特徴、代表的なレパートリーと名盤、そして音楽史に残した影響を深掘りして解説します。
略歴(概観)
サザーランドはオーストラリア出身で、国内外での研鑽を経て国際舞台へと進出しました。1950年代以降、ヨーロッパの主要歌劇場や録音シーンで頭角を現し、1950〜1970年代にかけて世界的なスターとなりました。夫であり一生の共演者でもある指揮者リチャード・ボニュンジ(Richard Bonynge)との共同作業は、彼女のレパートリー拡大とレア作品の復活に大きな影響を与えました。
声の特徴と歌唱技術
- 広い音域と明るい高音:高音域の安定感と輝かしいトップ・ノートはサザーランドの代名詞です。上の音域での放射感と、音の伸びやかさが特徴的です。
- 驚異的な呼吸と支え:長いフレーズを連続して歌い切るための確かな呼吸管理と腹部支え(呼気支配)が備わっており、これが流麗なレガートや長いパッセージを可能にしました。
- 精緻なヴォーカル・アジリタ(色彩的技巧):複雑なパッセージワークやトリル、フォルティッシモ/ピアニッシモの対比を自在に操り、ベル・カントの装飾的な要求を高い次元で実現しました。
- 温かく豊かな中音域:中音域における響きの厚さが、ただの技巧披露ではない音楽表現を支えます。これにより「音色の美しさ」と「技巧の鮮やかさ」が共存しました。
主要レパートリーと代表作
サザーランドは特に19世紀のベル・カント作品、ロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティの作品で名声を築きました。代表的な役とその魅力は次の通りです。
- ルチア(ドニゼッティ『ルチア』):狂乱のアリアや高音の跳躍など、ドラマと技巧を両立する代表作。サザーランドのルチアは、正確な色彩技巧と切れ味のよいコロラトゥーラで知られます。
- アディーナ/アミーナ(ベッリーニ『ノルマ』『ラ・ソンナンブッラ』など):長いレガートと繊細なダイナミクスが重要な役。サザーランドの歌唱はベル・カントならではの流麗さを体現します。
- エロイザ(ロッシーニ『セミラーミデ』など):テクニック的に難易度が高い作品で、彼女のアジリタと音域の広さが生かされます。
- 『アイ・プリタニ(I Puritani)』などのロマン派作品:ロマン派の煌びやかさと技巧を見事に融合させた演奏が多数の録音で残されています。
名盤・おすすめ録音
サザーランドの録音は多数ありますが、入門や聴き比べに向くものを挙げます。多くはリチャード・ボニュンジの指揮による録音で、サザーランドの声質にあわせたアプローチが取られています。
- ドニゼッティ『ルチア(Lucia di Lammermoor)』 — サザーランド主演の代表録音の一つ。色彩技巧とドラマ性を両立した名演。
- ベッリーニ『ラ・ソンナンブッラ(La Sonnambula)』 — 美しいレガートと繊細な表現を楽しめる定番。
- ベッリーニ『ノルマ(Norma)』 — ベル・カントにおける技術と表現の高さを示す録音。
- 総合的な入門盤としての「The Essential Joan Sutherland」や「Complete Recordings」的な編集盤 — 代表アリアや抜粋を効率よく聴けます。
聴くときの注目ポイント(Listening Guide)
- 高音での「芯」と「輝き」:単に高く出すだけでなく、音に芯があり輪郭がある点を確認してください。
- レガートと句読点の作り方:フレーズごとの呼吸とつなぎ方が極めて滑らかで、歌詞の語尾や旋律の折り返しでの処理に注目すると技術の妙がわかります。
- 装飾音(アジリタ)の正確さ:高速のパッセージやトリル、装飾句の音程とアーティキュレーションを聴き比べてください。
- ダイナミクスのレンジ:ピアニッシモからフォルティッシモまでの変化を如何に精密にコントロールしているかに耳を傾けると、表現力の奥行きが見えてきます。
影響と評価
サザーランドは単に“うまい”歌手ではなく、ベル・カント作品を再評価・復興させた立役者の一人です。古く忘れられていた作品や技巧的に難しいアリアを現代の舞台と録音に復活させ、次世代の歌手や聴衆に新たな関心を喚起しました。
同時に批評家の中には、ドラマ性や演技面での評価に差があるとする声もありました。つまり、声の美しさと技巧は突出している一方で、役柄の内面的変化や演劇的な表現に関しては賛否があった、というのが一般的な評価です。しかし多くの聴衆や音楽家は、その声そのものとベル・カント復興への貢献を高く評価しています。
サザーランドとボニュンジのパートナーシップ
夫であるリチャード・ボニュンジは、サザーランドのキャリアにおいて重要な役割を果たしました。彼は指揮だけでなく、編曲や忘れられたオペラの復元にも尽力し、サザーランドの声に合った選曲・解釈を提供しました。この二人三脚の仕事が、多くの名盤と舞台復活を生み出しました。
まとめ — 彼女が残したもの
ジョーン・サザーランドは、技巧と音色の美しさを極限まで磨き上げた希有な歌手でした。ベル・カントのレパートリーを現代に復活させ、世界中の聴衆に「技巧的でありながら音楽的」な歌唱の魅力を示した点が彼女の最大の功績です。初めて聴く人は、まず代表的アリアや録音で高音の鮮やかさ、滑らかなレガート、そして繊細な装飾を体験してみてください。
参考文献
- Joan Sutherland — Wikipedia
- Joan Sutherland — Encyclopaedia Britannica
- Joan Sutherland Obituary — The New York Times
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