データレイクとは|仕組み・データウェアハウスとの違い、レイクハウス導入と運用のベストプラクティス

データレイクとは:概要と定義

データレイク(Data Lake)は、構造化データ・半構造化データ・非構造化データをそのままの形式で大量に格納し、後から様々な分析処理や機械学習、BI等に再利用できるようにするストレージと管理のアーキテクチャを指します。従来のデータウェアハウス(DW)が「スキーマオンライト(schema-on-write)」で整形・正規化されたデータを前提にしているのに対し、データレイクは「スキーマオンリード(schema-on-read)」を採用し、取り込む段階では原データを保存し、利用時に必要な形に加工します。

主要な特徴

  • 原データの保存:ログ、センサーデータ、画像、音声、動画、CSV、JSON、XML、データベースのダンプなど、多様な形式をネイティブのまま保存する。
  • スキーマオンリード:データの読み出し時にスキーマや変換を適用するため、取り込み時の前処理コストを低減できる。
  • 拡張性(スケーラビリティ):オブジェクトストレージ(例:Amazon S3、Azure Data Lake Storage、Google Cloud Storage)や分散ファイルシステム(HDFS)上に構築され、大量データの格納に向く。
  • データカタログとメタデータ管理:メタデータ/カタログがデータ探索とガバナンスの要。例:AWS Glue Data Catalog、Hive Metastoreなど。

アーキテクチャ要素

  • ストレージ層:オブジェクトストレージや分散ファイルシステム。安価に大量データを保持できることが重要。
  • インジェスト層:バッチ(バルクロード)とストリーム(Kafka、Kinesis、Event Hubsなど)両方のデータ取り込み手段。
  • 処理層:ETL/ELT、分散処理エンジン(Apache Spark、Flink、Presto/Trino 等)を用いて変換や集計を行う。
  • メタデータ/カタログ:どのデータがどこにあるか、スキーマ、オーナー、データ品質情報、系譜(lineage)を管理する。
  • セキュリティとガバナンス:アクセス制御、暗号化、監査ログ、データ分類、マスキングといった機能。
  • 消費層:BIツール、機械学習プラットフォーム、アドホック分析のためのクエリエンジンやノートブック。

データレイクとデータウェアハウスの違い

両者は共に分析目的のデータプラットフォームですが、目的と設計思想が異なります。

  • スキーマ設計:データウェアハウスはスキーマオンライトで整形済みデータを保存。データレイクはスキーマオンリードで原データを保持。
  • データ形式:DWは構造化データ中心、レイクは構造化〜非構造化まで幅広く扱う。
  • ユーザー層:DWは主にビジネスユーザー向けの集約された指標提供。レイクはデータサイエンティストやエンジニアの探索、機械学習向けに適する。
  • コスト:大容量保存コストはレイクの方が低コストにできるが、クエリ性能や管理コストを高めない工夫が必要。

代表的な技術とフォーマット

  • ストレージ:Amazon S3、Azure Data Lake Storage(ADLS)、Google Cloud Storage、HDFS。
  • ファイルフォーマット:列指向のParquet/ORC、行指向のAvro、JSON/CSV、画像/音声/動画ファイル等。分析用途ではParquetやORCが圧縮・クエリ性能で有利。
  • テーブルレイヤー(テーブル形式管理):Delta Lake、Apache Iceberg、Apache Hudi など、トランザクション性、スナップショット、ACIDサポート、コンパクションを提供するレイクハウス技術。
  • カタログ/メタデータ:Apache Hive Metastore、AWS Glue Data Catalog、Azure Purviewなど。

運用上の課題(陥りやすい問題)

  • データスワンプ化:メタデータやガバナンスが不十分だと、格納されたデータの意味や品質が不明になり利活用が進まない。
  • スモールファイル問題:多数の小さなファイルは読み書き性能を悪化させ、処理コストを増大させる。
  • アクセス制御の複雑化:多様なフォーマットと消費経路があるため、細かなアクセス権管理と監査が必要。
  • データ品質と系譜(lineage)の管理:下流分析結果の信頼性を担保するためには、質の高いデータ検査と由来追跡が必須。

ベストプラクティス

  • ゾーン設計:Raw(生データ)→ Cleansed/Trusted(整形・検査済)→ Curated(分析用)というゾーン分けで段階的に整備する。
  • メタデータとカタログの整備:必ずカタログを導入し、スキーマ・オーナー・更新履歴・品質指標を登録する。
  • 適切なファイルフォーマットとパーティショニング:分析用途には列指向フォーマット(Parquet等)を使い、パーティション設計でスキャン範囲を狭める。
  • ライフサイクル管理:保存ポリシーやアーカイブ、不要データの削除ルールを設定し、コストと法令順守を両立する。
  • セキュリティとガバナンス:暗号化、IAM、アクセスポリシー、データマスキング、監査ログを実装する。
  • モニタリングとテスト:データ取り込みの成功率、遅延、品質指標を監視し、アラートを出す。

データレイクのユースケース

  • 機械学習:大規模な訓練データセットの保存・前処理・特徴量管理。
  • ログ解析・クリックストリーム解析:高頻度イベントの保存とリアルタイム/バッチ処理。
  • データ保管の単一プラットフォーム化:組織横断でデータを集約して再利用性を高める。
  • 長期アーカイブと探索的分析:過去データの探索や未知の分析に対応。

レイクハウス/次世代アプローチ

近年「レイクハウス(Lakehouse)」という概念が注目されています。データレイクの柔軟性とデータウェアハウスの管理性・高速クエリ性能を組み合わせるアプローチで、Delta Lake、Apache Iceberg、Apache Hudi といったプロジェクトがACIDトランザクション、スナップショット、インデックス、ファイルコンパクションなどを提供し、データレイクの運用上の課題を解決しつつ分析性能を向上させます。

導入時のチェックポイント

  • 目的の明確化:単なるデータ貯め込みではなく、誰が何のために使うかを定義する。
  • ガバナンス設計:データ所有者、アクセスルール、コンプライアンス要件を先に決める。
  • 運用体制:データエンジニア、データカタログ管理者、セキュリティ担当の役割分担。
  • コスト管理:ストレージだけでなく処理コスト(クエリ、ETL)の見積もりと最適化。

まとめ

データレイクは多様で大量なデータを保存し、機械学習や探索的分析を可能にする強力な基盤ですが、放置すれば「データスワンプ」になりやすいという側面もあります。成功させるには、メタデータ管理、ガバナンス、適切なファイルフォーマットとパーティショニング、運用プロセスの整備が必須です。最新の「レイクハウス」技術を組み合わせることで、従来の課題を克服しつつ、データの価値を最大化できます。

参考文献