デクスター・ゴードン入門:名盤・おすすめレコード5選と聴き方ガイド

序文 — デクスター・ゴードンとは

デクスター・ゴードン(Dexter Gordon、1923–1990)は、テナーサックスの巨人であり、ビバップ以降のモダン・ジャズを代表する存在です。長身とゆったりしたフレージングから「Long Tall Dex(ロング・トール・デックス)」という愛称でも親しまれ、ブルーノートをはじめとする名盤群と、1960年代にヨーロッパへ長期渡航した“エクスパトリエイト期”や、1970年代の復帰期を通じて常に新しい聴きどころを提示しました。本コラムでは「初めてデクスターを深く聴きたい」人から「コレクションを広げたい」人までを想定して、代表作を中心に解説します。

おすすめレコード(名盤・代表作を深掘り)

  • Go!(Blue Note, 1962)

    なぜ聴くべきか:青盤期ブルーノートの黄金ラインナップで録音された一枚。デクスターのスイング感とビバップ的語法が、余裕のあるテンポと明快なソロで存分に味わえます。

    聴きどころ:冒頭の「Cheese Cake(Cheesecake)」は、メロディの魅力とソロの流麗さが両立した代表曲。ボーナス的なミディアム〜バラードの解釈も含め、デクスターの歌うようなフレージング、呼吸の取り方、長い連符の組み立て方が分かりやすく現れます。

    音楽的特徴:ゆったりとしたグルーヴ感、バップの語彙を落ち着いたテンションで聴かせる「大人のビバップ」。マイナーコードでの旋律処理や長いフレーズの終端処理に注目してください。

  • Our Man in Paris(Blue Note, 1963)

    なぜ聴くべきか:パリ録音。当地で活動する名手たち(ピアノ、リズム隊)と息の合ったプレイを披露した作品で、デクスターのヨーロッパ時代の魅力がよく現れています。吹き込まれた演奏はリラックスしつつ刺激的、即興の語りも冴えます。

    聴きどころ:スタンダードやチャーリー・パーカー曲などが取り上げられ、アドリブでのテーマの引用や小気味良いユーモアが随所に現れます。都会的で柔らかいサウンドが好きな人に特におすすめです。

    音楽的特徴:卓越したテーマ変奏、モチーフの明示と展開、ヨーロッパのリズム感との融合。演奏の“余白”を活かした呼吸感を味わってください。

  • One Flight Up(Blue Note, 1964)

    なぜ聴くべきか:1960年代中盤の前衛的な潮流を受けつつも、デクスター独自のスイング感とメロディメーカーとしての才覚が共存するアルバム。長尺のトラックを用いて、テーマの展開や即興の深掘りが行われます。

    聴きどころ:演奏時間が長めの曲でじっくりとアドリブが展開されるため、主題をどう膨らませていくか、モチーフをどう発展させるかという点を追うと面白いです。

    音楽的特徴:曲によってはモーダルなアプローチやモチーフ・ワークが前面に出て、デクスターの“語り”がよりドラマティックになります。

  • Homecoming: Live at the Village Vanguard(1976)

    なぜ聴くべきか:アメリカ復帰(帰国)を象徴するライヴ録音。長年の欧州滞在後、ニューヨークの名門ヴィレッジ・ヴァンガードでの演奏は、復活した熱気と老練さが同居した傑作ライヴです。

    聴きどころ:観客との一体感、伸びやかなソロの連続、インタープレイのスリリングさが魅力。スタジオ録音とは異なる、生の応答性とテンションを楽しめます。

    音楽的特徴:歌心を失わない長尺ソロ、呼吸と間の使い方、古き良きジャズ・クラブの熱気がそのまま伝わってきます。

  • Sophisticated Giant(1977)

    なぜ聴くべきか:復帰後の成熟期に作られた作品で、ホーン・アンサンブルやアレンジを取り入れたスケールの大きい試みが光ります。デクスターの音楽的な包容力と歌心がビッグな編成でもしっかり活かされます。

    聴きどころ:編曲による色彩感、テナーのリードとアンサンブルとの対比、若手との共演(世代間の化学反応)が魅力。大編成であってもソロの存在感が失われない点に注目してください。

    音楽的特徴:ビッグバンド的なダイナミクスとモダン・ジャズのアドリブ自由度が融合した作品。アレンジ全体を眺めつつ、テナーの旋律的選択を追うと新たな発見があります。

曲ごとの聴きどころ(代表曲ピックアップ)

  • Cheesecake(Go!) — 明快なテーマとスイング感。メロディの反復と展開のさせ方、フレーズの“歌わせ方”を学べます。

  • Scrapple from the Apple(Our Man in Parisの演奏中の扱い) — ビバップの名曲をデクスター流に料理。テーマ引用やパッセージの解体・再構築に注目。

  • 長尺のモーダル・トラック(One Flight Upなど) — モチーフを時間をかけて育てていく過程、リズム隊との対話、テンションの積み上げ方を体感できます。

聴き方のヒント(深堀りガイド)

  • フレージングを“文法”として聴く:デクスターは“歌わせる”ことを重視します。ひとつのフレーズがどう始まり、どこで句切られ、どのように解決するかを追ってください。

  • モチーフ追跡:即興の中で登場する短いモチーフがどのように発展するかを追うと、ソロの構造が見えてきます。

  • 編成ごとの比較:トリオ〜クァルテットの小編成と、大編成(Sophisticated Giant等)での語りの違いに注目すると、デクスターの柔軟性がわかります。

  • ライブ盤での即興応答:ライブ録音はバンドとの“対話”がそのまま記録されています。リズム隊の反応や観客の空気感も含めて聴くと、演奏の熱量が伝わります。

コレクションのすすめ方(どの順で聴くか)

  • 入門〜基本:まずは「Go!」と「Our Man in Paris」。演奏の基礎(メロディ、フレージング、バップ語法)が手堅く学べます。

  • 中級〜深化:「One Flight Up」で長尺の即興構築を経験。ここでモーダルや構造的ソロの面白さが見えてきます。

  • 応用〜多面性:「Homecoming」などのライヴ、「Sophisticated Giant」などの大編成でデクスターの表現の幅と成熟度を確認。

Q&A よくある疑問

  • Q:どのレーベル(オリジナル盤)を狙うべき?
    A:音質・ジャケットの価値を重視するなら、オリジナルのブルーノート(60年代録音)や当時の初出盤が人気です。ただしリイシューの音作りやリマスターも優れたものが多いので、予算と目的(音質重視かコレクティブル重視か)で選びましょう。

  • Q:デクスターの“ピーク”はいつ?
    A:時期で断定するのは難しいですが、1960年代初〜中盤のブルーノート期と、1970年代復帰期のどちらも非常に魅力的です。前者は発想の新鮮さとバップ的切れ味、後者は成熟と表現の深さが光ります。

まとめ

デクスター・ゴードンは「歌うようなテナー」の典型であり、アルバムごとに異なる魅力を持っています。まずは「Go!」「Our Man in Paris」を定点観測として押さえ、その後に長尺トラックやライヴ、大編成ものへ広げると、彼のプレイの全貌が立体的に見えてきます。ジャズを聴く楽しさ──テーマの提示、即興の展開、バンドとの対話──が凝縮されたアーティストですので、レコードで聴く価値は非常に高いと言えます。

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参考文献