スザンヌ・シアニ入門:ブクーラ・モジュラー名盤5選と聴きどころ解説
はじめに — シンセサイザーと「波」を描いたアーティスト
スザンヌ・シアニ(Suzanne Ciani)は、モジュラー・シンセサイザー、特にドン・ブクーラ(Buchla)社の装置を駆使した先駆的な電子音楽家として、1970年代以降の電子/ニューエイジ/アンビエントの流れに大きな影響を与えてきました。CM音楽やサウンド・デザインの仕事で広く知られる一方、アートとしての即興演奏やコンセプチュアルなアルバム制作でも高い評価を得ています。
選定方針:なぜこのレコードを勧めるのか
ここで紹介するレコードは、以下の視点で選びました。
- シアニの「ブクーラ/モジュラー」アプローチが明確に聴ける作品
- 作曲性とサウンド・デザイン(テクスチャー作り)が卓越している作品
- 彼女のキャリア(実験〜商業〜近年の再評価)を理解するのに有益な代表作や名盤
おすすめ盤の深掘り
1) 初期のモジュラー/ライブ作品(ブクーラ演奏を前面に出した一群)
スザンヌ・シアニのキャリアを語る上で欠かせないのが、ブクーラ・シンセサイザーを用いた即興的・実験的な演奏です。これらの録音では、パッチング(モジュラー機器の配線)による独自の音色生成や、リアルタイムの手仕事感が強く出ます。音の立ち上がり・揺らぎ・波形の変化を“演奏”として捉えるアプローチは、後のアンビエント/電子音楽に大きな影響を残しました。
聴きどころ:
- 単純なメロディよりも、持続音の時間変化と複雑さで表現される表情
- モジュレーションやフィルター操作で作られる“生き物のような”音像
- 即興性と構築性のバランス—ライブ録音ならではの緊張感
2) Seven Waves(スザンヌ・シアニの代表的なスタジオ作品)
「Seven Waves」はシアニの作曲センスとサウンドメイキングが洗練されている作品群の代表例です。空間感・音色の有機的変化・メロディ的要素がバランス良く同居しており、モジュラー機器の即興性を“歌もの”や組曲形式に結びつけている点が特徴です。
聴きどころ:
- 音の「層立て」—低域から高域までのテクスチャーが時間軸で有機的に展開するさま
- 音響的な「波」を意識した反復と変奏—タイトルや曲名に現れる海や波のモチーフ
- 商業音楽的な洗練(メロディの親密さ)と実験音楽の残響が共存する点
3) The Velocity of Love(ポップ/ニューエイジ寄りの洗練)
より歌心やリズム感を取り入れた時期の作品で、シアニのサウンドが“親しみやすさ”を備えたことを示すアルバムです。シンセの音色における暖かさや、時にシネマティックな広がりが表れるため、電子音楽未経験のリスナーにも入りやすい内容になっています。
聴きどころ:
- シンセを「楽器」としてだけでなく「声」や「オーケストラ」として扱う発想
- メロディラインの美しさと、サウンド・デザインの緻密さが同時に楽しめる点
- 商業音楽の経験がもたらす編曲術—隙間の作り方やダイナミクス操作が巧み
4) CM/サウンドデザイン集(仕事音源のコンピレーション)
シアニは多くのCMやサウンドロゴを手がけ、そこで培った短いフレーズ作りの技術は彼女のアルバム・ワークにも反映されています。これらの広告音楽集は、音の“フック”を作る力、限られた時間でメッセージを伝える表現の鋭さを学べる良い資料です。
聴きどころ:
- 短時間で印象付けるための極限まで研ぎ澄まされたサウンド設計
- ミニマルでありながら記憶に残るメロディやテクスチャー
5) 近年の再評価・ライブ/再録音作品
近年、シアニは若い世代やエレクトロニカ系リスナーからの再評価を受け、オリジナル作品の再発や新録ライブが注目を集めています。過去のモジュラー演奏を再解釈したものや、より現代的な音響処理を取り入れた作品は、彼女の音楽が時代を超えて響く理由を実感させます。
聴きどころ:
- 過去作の“現在的”リメイクにより見えてくる作曲上の核
- 舞台での演奏で見られるダイナミクスや即興の新たな側面
各作品から読み取れる「スザンヌ・シアニ」の音楽的特徴
- モジュラー・シンセの「実演性」:機材操作を演奏表現に直結させる感覚。
- テクスチャー志向の作曲:メロディより音の動きや密度で情感を作る。
- ポップと実験の橋渡し:短いフレーズや分かりやすいモチーフを用いながら、実験的な音響処理を取り入れる。
- サウンドデザイン的視点:広告や効果音制作から得た「機能的な音作り」のセンス。
コレクター/リスナーへのアドバイス(作品選びの視点)
初めてスザンヌ・シアニに触れるなら、代表作の1枚(本稿で挙げたようなスタジオ作や初期のブクーラ演奏盤)を軸に、CM集や近年のライブ盤で「用途ごとの音づくり」の違いを確認すると理解が深まります。作品の年代順に聴くことで、モジュール操作者としての熟成や、商業仕事が創作に与えた影響を追体験できます。
まとめ
スザンヌ・シアニは、単なる“80年代のニューエイジ作家”に収まらない、音響技術と作曲性を両立させた稀有な存在です。モジュラー・シンセの即興表現、音色設計の巧みさ、短時間で印象を残すサウンドデザイン──これらを横断的に楽しめるのがシアニのレコードの魅力です。じっくり各作品に耳を澄ませることで、電気回路が生み出す有機的な「波」の表情が見えてくるはずです。
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参考文献
- Suzanne Ciani — Wikipedia
- Suzanne Ciani — 公式サイト
- Suzanne Ciani — Bandcamp
- Discogsで見る Suzanne Ciani のディスコグラフィ


