NSレコードとは?DNSの委譲とグルーの仕組み、設定・運用・トラブル対処まとめ
概要:NSレコードとは何か
NSレコード(Name Server レコード)は、DNS(Domain Name System)における「このゾーン(ドメイン)の権威(authoritative)となるネームサーバ」を指定するリソースレコードです。ドメイン名自体を指し示すもので、IPアドレスではなく「ネームサーバのホスト名(FQDN)」を格納します。DNSルックアップの委譲(delegation)や問合せの経路決定において中心的な役割を果たします。
DNS階層とNSレコードの位置づけ
DNSは階層構造を持ち、ルート(.)→TLD(例: .com, .jp)→セカンドレベル(example.com)という順に問合せが進みます。各レベルのゾーンは自身の委譲先を指し示すためにNSレコードを持ちます。たとえば、TLDサーバは example.com のためのNSレコードを返し、そこから権威ネームサーバに問い合わせが渡されます。
NSレコードの形式とゾーンファイルでの記述
DNSのゾーンファイル内でのNSレコードは一般に次のように記述されます(BIND形式の例):
- example.com. 3600 IN NS ns1.example.net.
ポイント:
- 値はホスト名(末尾にドットを付けることが推奨)。
- TTLはキャッシュ保持時間。親ゾーンに置かれるNSレコードは「委譲」を意味する。
- NSレコードはあくまでホスト名であり、IPは含まれない(必要に応じて A/AAAA レコードを別途用意)。
委譲と「親ゾーン/子ゾーン」間の関係、Glue レコード
重要な概念として「委譲(delegation)」と「グルー(glue)レコード」があります。ネームサーバのホスト名が委譲対象ドメイン内(例:ns1.example.com が example.com のネームサーバ)にある場合、親ゾーン(TLDなど)にそのホスト名のIP(A/AAAA)を付加しておく必要があります。これをグルーと呼び、循環参照を防いで権威ネームサーバへ到達できるようにします。
権威ネームサーバ vs 再帰的リゾルバ
NSレコードが指すのは権威ネームサーバ(ゾーンに対して正しい情報を持っているサーバ)です。これに対してエンドユーザーの端末が問い合わせを行うのは通常「再帰的リゾルバ(ISPやパブリックDNS)」で、リゾルバはルートや各階層のNSを辿って最終的に権威サーバから回答を得ます。
運用上のポイントとベストプラクティス
- 複数のNSを用意する:冗長性のために少なくとも2つ以上、できれば異なるネットワーク・地理的ロケーションに配置。
- 親ゾーンと子ゾーンのNSの整合性:親の委譲情報と子ゾーン内のNSレコードは基本的に一致させる。差異があると解決不能や不整合を招く。
- Glue情報を正しく設定:nameserver が同ドメイン内にある場合は、レジストラ/TLD側でグルー(A/AAAA)を登録する。
- TTLの設定:頻繁にNSやネームサーバを変更する予定があるなら短めに、安定運用なら長めに設定。ただし極端に短いTTLは負荷増加の原因に。
- ゾーン転送(AXFR)の制限:セキュリティ上、ゾーン転送は信頼できるIPに限定する。
- 監視とアラート:ネームサーバの到達性、応答時間、整合性を監視する。
動作の詳細:問い合わせの流れ
簡略化した問い合わせフロー:
- クライアント→再帰的リゾルバ
- リゾルバ→ルートサーバ(ルートはTLDのNSを返す)
- リゾルバ→TLDサーバ(TLDは対象ドメインのNSを返す)
- リゾルバ→権威ネームサーバ(権威サーバが最終的なレコードを返す)
この中でNSレコードは「どのネームサーバに問い合わせればよいか」を示すナビゲーション情報です。
よくある誤解・注意点
- NSレコードはIPを直接返さない:ネームサーバ名が返り、IPは追加レコードやグルーで提供される。
- NSの数=性能ではない:複数NSを用意しても配置(ネットワークやAS)が近ければ冗長性が低くなる。
- レゾルバの挙動は実装依存:どのNSを最初に使うかはクライアントやリゾルバによる。必ずしもラウンドロビンで均等に使われるわけではない。
- 子ゾーンのNS不一致は致命的:親と子のNSが一致しない場合、解決できないケースが発生する。
トラブルシューティングと確認方法
代表的な確認コマンド:
- dig NS example.com +short — ドメインのNSリスト取得
- dig @a.root-servers.net example.com NS +trace — ルートからの辿り方を確認
- nslookup -type=NS example.com — Windows系での確認
- whois — レジストラでの登録状況(委譲情報やネームサーバ登録)を確認
またオンラインのDNSチェックツール(DNSViz、IntoDNS、Verisign Labsなど)を利用すると、委譲の可視化やグルー問題、DNSSECの設定ミスが把握しやすくなります。
セキュリティ関連
- DNSSEC:NSレコード自体は署名対象になり、正しい権威サーバの応答を検証する手段となる(RRSIG等)。
- ゾーン転送制限(TSIG):AXFRを認証することで不正なゾーン取得を防止。
- 監視とアラート:ネームサーバの改ざんやサービス停止を早期検出すること。
実務でよくある変更手順(ネームサーバを切り替える場合)
- 新しいネームサーバを準備し、子ゾーンに必要なレコード(NS、A/AAAA、SOAなど)を配置してテスト。
- 親ゾーン(レジストラ/TLD)でネームサーバの委譲情報を更新。必要ならグルー登録も併せて行う。
- TTLを踏まえた移行計画:既存のTTLが長い場合、事前にTTLを短くする等の準備を行う。
- 反映・同期確認:digやtraceで親→子へ正しく委譲されているかを確認。
まとめ
NSレコードはDNSの委譲と権威ネームサーバを指定するための基本中の基本です。単に「ネームサーバの名前を列挙する」だけの役割に見えますが、親子の整合性、グルーの有無、冗長化・配置戦略、TTLやDNSSECなどと密接に関連し、ドメインの可用性・信頼性に直結します。運用では親子間の一致、複数ネームサーバの分散、ゾーン転送の制限、監視の整備といった基本を押さえることが重要です。
参考文献
- RFC 1035 - Domain names - implementation and specification
- RFC 1034 - Domain names - concepts and facilities
- ICANN — Domain name system basics
- Verisign — DNS basics
- Cloudflare Developers — What is an NS record?
- DNSViz — DNS visualization and debugging


