ブロブ(BLOB)の全体像と実務ガイド:データベース・Web・クラウド・Gitで大容量バイナリデータを適切に扱う設計と運用
ブロブ(BLOB)とは──概要
「ブロブ(BLOB)」は英語の「Binary Large Object」の略で、一般に「大きなバイナリデータ」を指す概念です。画像、音声、動画、PDF、アーカイブファイル、あるいはバイナリ形式で保存された任意のデータを格納・扱うための形式や仕組みを総称して「ブロブ」と呼びます。ただし「ブロブ」は文脈によって具体的な意味が異なり、データベース内のBLOB型や、Webプラットフォーム(JavaScript)のBlobオブジェクト、クラウドのオブジェクトストレージ(例:Azure Blob Storage)、バージョン管理のGitにおけるblobなど、多義的な用語です。本コラムでは主要な文脈ごとに「ブロブ」の意味と実務的な注意点を詳しく解説します。
データベースにおけるBLOB
リレーショナルデータベース(RDBMS)では、バイナリ大容量データを保存するためにBLOB型(またはそれに相当する型)が用意されています。各DBMSでの実装やサイズ制限は異なります。
- MySQL:TINYBLOB、BLOB、MEDIUMBLOB、LONGBLOB といったサイズ別の型がある(それぞれ最大 255B、65KB、16MB、4GB 程度)。
- PostgreSQL:バイナリデータは bytea 型で扱うか、Large Object(LO)機構を使用して大きなデータを管理する。
- SQLite:BLOB 型をサポート。小規模用途に向く。
- Oracle / SQL Server:BLOB(Oracle)、varbinary(max) などでバイナリ格納を提供。
利点としては、トランザクションの一貫性の下でメタデータとバイナリを同時に扱える点があります。一方で欠点も多く、バックアップ・リストアやレプリケーション時の負荷増大、性能低下、テーブルサイズ肥大化、オブジェクト単位での配信やCDN活用の困難さなどが挙げられます。そのため、RDBMSに大きなファイルを直接置くのではなく、オブジェクトストレージに置いてその参照(URLやID)をDBに保存する設計が一般的になっています。
Web / JavaScript における Blob
ブラウザやJavaScript環境では、Blobは「生の(不変な)バイナリデータ」を表すオブジェクトです。FileオブジェクトはBlobを継承し、ファイル名や最終更新日時などの追加メタデータを持ちます。
- 生成方法:new Blob([parts], { type: 'mime/type' })
- 主なプロパティ:size(バイト長)、type(MIMEタイプ)
- 主なメソッド:slice()、stream()(ReadableStreamを返す)、text()、arrayBuffer()
- 利用例:input[type=file]で取得したFileを扱う、CanvasのデータをBlob化してアップロードする、URL.createObjectURL()で一時URLを生成してプレビュー表示するなど
近年はBlob.stream() によるストリーミング処理や、Fetch API と組み合わせたアップロード・ダウンロード処理が強化されています。注意点としては、大きなBlobをメモリに一度に読み込むとブラウザがクラッシュする可能性があるため、ストリーミングやチャンク処理を利用することが推奨されます。また、createObjectURLで生成したオブジェクトURLは使用後に URL.revokeObjectURL() で解放する必要があります。
クラウド(オブジェクトストレージ)における Blob
クラウドプロバイダーは「Blob」や「Object」と呼ばれる単位で大容量データを保存するオブジェクトストレージを提供します。代表例は Microsoft Azure の「Blob Storage」、Amazon の「S3(オブジェクトストレージ)」、Google Cloud Storage です。Azure は特に「Blob」を名称に含めています。
- Azure Blob Storage の種類:Block Blob(一般的なファイル向け)、Append Blob(ログ追加向け)、Page Blob(ランダム書き込み/仮想ディスクVHD向け)
- オブジェクトストレージの特徴:スケーラビリティ、高可用性、HTTP(S)経由でのアクセス、メタデータ付与、アクセス制御(SAS トークンやバケットポリシー)、ライフサイクル管理、階層化(ホット/コールド/アーカイブ)
- 実務的な利点:大容量ファイルの効率的保存、CDNとの組み合わせによる配信、マルチパートアップロードや並列アップロードによる高速化
運用上の注意点は、データ転送(egress)コスト、アクセス制御の設定ミスによる情報漏洩、リージョン選定、バックアップ方針、データ整合性(アップロードの原子性)です。S3やAzure Blobは強い整合性を提供するよう進化していますが、設計によってはアプリ側でリトライや整合性チェックを組み込む必要があります。
Git における blob(小文字)
バージョン管理システム Git では、"blob" はオブジェクトタイプの一つで、ファイルの内容(バイト列)を表します。Gitの内部では、blobオブジェクトはファイルデータを圧縮して、ハッシュ(歴史的には SHA-1、近年はSHA-256対応の取り組みあり)に基づくオブジェクトIDで管理されます。ツリー(ディレクトリ)オブジェクトはファイル名とblobの参照を結び付け、コミットはツリーのスナップショットを指す構成です。
大きなバイナリファイルを普通にコミットするとリポジトリが肥大化し、クローンやチェックアウトが遅くなるため、Git LFS(Large File Storage)などの拡張が使われます。
設計上・運用上の実践的注意点
- データ配置の判断:トランザクション性や一貫性が必要か、アクセス頻度やサイズ、配信(CDN)要件を考慮し、DB内BLOB vs オブジェクトストレージどちらに置くか決める。
- アップロード手法:大きなファイルはマルチパート/チャンクアップロード、並列アップロード、リジューム機能を用いる。
- 配信最適化:CDN、HTTP Range リクエスト、キャッシュヘッダ(Cache-Control, ETag)を正しく設定。
- バックアップとライフサイクル:コスト削減のためにアクセス頻度に応じたストレージ階層を利用し、不要データは自動削除ルールを設定。
- スケーラビリティ:オブジェクトストレージは横にスケール可能だが、読み書きのパターンやホットスポットに注意。
セキュリティとコンプライアンス
ブロブを扱う際の主要なセキュリティ考慮点:
- 認可・認証:プリサインドURL、SASトークン、バケットポリシーなど適切なアクセス制御を利用する。
- 通信の保護:HTTPS を必須とする。CORS 設定は最小権限で。
- 保存の暗号化:サーバー側暗号化(SSE)やクライアント側暗号化の選択肢を検討。
- ウイルス/マルウェア対策:アップロードファイルの検査(サンドボックスやスキャン)を実装。
- 監査とログ:アクセスログ、変更履歴、監査証跡を保持して不正アクセス検出に備える。
コストに関する注意
クラウドのオブジェクト/Blob ストレージはストレージ容量自体の費用だけでなく、データ取り出し(egress)、APIリクエスト、PUT/GETの回数、リージョン間転送などでコストが発生します。アーカイブ層に移行すると取り出しに時間と費用がかかるため、ライフサイクルポリシーは慎重に設計する必要があります。
まとめ
「ブロブ」は単に「大きなバイナリデータ」を指す一般的用語ですが、文脈ごとに意味と取り扱い方が大きく異なります。データベース内のBLOB、ブラウザのBlob、クラウドのBlob Storage、Gitのblob という具合に用途を押さえた上で、性能・コスト・セキュリティ・運用性を踏まえた設計を行うことが重要です。特に実務では、ストレージの選定(DBかオブジェクトストレージか)、アップロード・配信の方式、アクセス制御と暗号化、ライフサイクル管理を明確にしておくことが成功の鍵になります。
参考文献
- MDN Web Docs - Blob(日本語)
- Microsoft Docs - Azure Blob Storage 入門(日本語)
- Amazon S3 ユーザーガイド(日本語)
- MySQL マニュアル - BLOB 型(日本語)
- PostgreSQL ドキュメント - Binary Types
- Pro Git(日本語翻訳) - Gitの内部構造(blobなど)
- OWASP - Unrestricted File Upload(ファイルアップロードの脆弱性)


