キャッシュプロキシとは何か?概要・種類・HTTPキャッシュの基礎と実務運用ポイント

キャッシュプロキシとは — 概要と役割

キャッシュプロキシ(cache proxy)は、クライアントとオリジンサーバ(元のコンテンツ提供サーバ)の間に立ち、通信されるコンテンツを一時保存(キャッシュ)するプロキシサーバの総称です。ユーザーが同じリソースを繰り返し要求する場合に、オリジンへ都度問い合わせる代わりにプロキシ側から応答を返すことで、レスポンス遅延の低減、オリジンサーバの負荷軽減、帯域幅節約、可用性向上などの効果をもたらします。

キャッシュプロキシの種類

  • フォワードプロキシ(Forward Proxy):クライアント側に近接して動作し、クライアントの代理として外部のサーバへアクセスする。企業や学校のネットワークでユーザーのアクセスをキャッシュし、トラフィックを削減する用途が多い。
  • リバースプロキシ(Reverse Proxy):オリジンサーバ側に置かれ、外部からのリクエストを受けて内部の複数サーバへ振り分ける。CDN(コンテンツ配信ネットワーク)やロードバランサーの一部として、キャッシュ機能を用いることが多い。
  • 透過プロキシ(Transparent Proxy):クライアント設定を変更せずネットワーク層で横取りして動作するもの。ユーザーから見えにくいが、キャッシュやコンテンツフィルタリングに用いられる。
  • CDN(Content Delivery Network):地理的に分散したリバースプロキシ(エッジキャッシュ)の集合体で、高速配信と負荷分散を実現する。

どのように動作するか(HTTPキャッシュの基本)

HTTPベースのキャッシュは、レスポンスヘッダやリクエストヘッダに基づいて動作します。典型的な流れは次の通りです:

  • クライアントがリソースを要求する。
  • キャッシュプロキシがローカルにそのリソースの有効なコピー(未期限切れ)を持っていれば、オリジンにアクセスせずにキャッシュから応答する(キャッシュヒット)。
  • コピーが無い、あるいは期限切れなら、プロキシはオリジンにリクエストを送り、レスポンスを受け取ってキャッシュし、クライアントに返す(キャッシュミス)。
  • 再検証(conditional request)を行う場合は、If-None-Match(ETag)やIf-Modified-Since(Last-Modified)を使って、サーバがコンテンツの更新有無のみを返す(304 Not Modified)ことで帯域を節約する。

主要なHTTPヘッダと意味

  • Cache-Control:キャッシュの挙動を詳細に制御する最重要ヘッダ。例:max-age、public/private、no-cache、no-store、must-revalidate、s-maxage(共有キャッシュ向け)。
  • Expires:古い形式だが有効期限を示す(HTTP/1.1ではCache-Controlが優先)。
  • ETag:エンティティタグ。リソースのバージョン識別子として用いて条件付きGETに使う。
  • Last-Modified:最終更新日時。If-Modified-Since と組み合わせて再検証を行う。
  • Vary:レスポンスをキャッシュする際にどのリクエストヘッダをキャッシュキーに含めるかを指定。例:Vary: Accept-Encoding(gzip有無で別キャッシュ)
  • Surrogate-Control / Surrogate-Key:CDNなどの中間キャッシュ向けの拡張指示(プロバイダ固有の機能で利用される)。

再検証とステータスコード

クライアントまたはプロキシはIf-None-Match / If-Modified-Sinceを送ってオリジンに再検証を行います。オリジンは変更がなければ304 Not Modifiedで応答し、ボディを送らずにヘッダのみで更新不要を伝えます。これにより帯域とオリジンサーバの処理が節約されます。

キャッシュの有効期限と無効化(インバリデーション)

キャッシュの寿命はmax-ageやExpiresで決まりますが、頻繁に更新されるコンテンツはキャッシュを短くする、またはno-cacheやno-storeを使う必要があります。インバリデーション手法には以下があります。

  • 時間ベース(TTL)で自然失効させる。
  • パージ/インバリデートAPIを使い、特定のURLやキーを即座に削除する(CDNやVarnishが対応)。
  • サロゲートキー(surrogate key)を用いて関連コンテンツをまとめて削除する。
  • キャッシュバスティング(URLにバージョンやハッシュを付与)による確実な更新反映。

利点(メリット)

  • レスポンス高速化:エッジや近接プロキシから配信することでレイテンシを低減。
  • オリジン負荷軽減:同一コンテンツへのリクエストをオリジンに到達させず節約。
  • 帯域節約:重い資産(画像、動画、JS/CSSなど)の転送回数を減らす。
  • 可用性向上:オリジンが一時的にダウンしても、キャッシュ済みコンテンツを返せる場合がある。

注意点とリスク(デメリット)

  • 古い(stale)コンテンツ配布のリスク:適切にインバリデーションやヘッダを管理しないと更新が反映されない。
  • プライバシー/セキュリティ:認証情報や個人情報を共有キャッシュに保存すると情報漏洩の危険がある(Cache-Control: private / no-store を適切に使う)。
  • HTTPSと中間キャッシュ:TLS終端やSNIによる問題、改ざん防止のための注意が必要。CDNやリバースプロキシでのTLS終端をどう設計するかが重要。
  • キャッシュポイズニング:悪意あるレスポンスをキャッシュされると、多数のユーザーに影響する。適切なヘッダ検証や鍵管理、Varyの制御が必要。

実運用での設計ポイントとベストプラクティス

  • 静的資産(画像・CSS・JS)は長めのキャッシュを設定し、更新はファイル名にハッシュを付ける(キャッシュバスティング)。
  • 動的コンテンツは短いTTLまたは再検証方式を使い、必要に応じて部分的にキャッシュする(HTMLの断片キャッシュやEdge Side Includesなど)。
  • Cache-Control と ETag / Last-Modified を組み合わせて、確実な再検証を実装する。
  • Varyヘッダを適切に設定して、圧縮や言語などで誤ったキャッシュ共有が起きないようにする。
  • CDNやエッジキャッシュを使う場合、サロゲートキーやパージAPIを整備して素早いインバリデーションを可能にする。
  • キャッシュヒット率、レイテンシ、バックエンド負荷などの指標を監視して運用改善を行う。

代表的なソフトウェアとサービス

  • Varnish Cache:高性能なHTTPリバースプロキシ(主にウェブアクセラレーション向け)。
  • Squid:フォワード/リバース両対応の成熟したキャッシュプロキシ。
  • Nginx:リバースプロキシ+キャッシュ機能を持ち、ロードバランスやTLS終端と組み合わせて広く使われる。
  • Cloudflare / Akamai / Fastly 等のCDN:世界中に分散したエッジキャッシュを提供。

高度な機能と拡張

近年のプロキシやCDNは、単純な静的キャッシュにとどまらず、次のような拡張機能を備えています。

  • stale-while-revalidate / stale-if-error(RFC 5861)などで「古いレスポンスを返しつつ非同期に更新」「障害時に古いキャッシュを許容」するポリシー。
  • エッジコンピューティング機能(エッジでのスクリプト実行)により、キャッシュ前のリクエスト処理やカスタムレスポンス生成が可能。
  • 部分的なキャッシュ制御(キャッシュキーに基づく分割、ヘッダやCookieのルール)で柔軟な運用。

まとめ(運用上のチェックリスト)

  • どのコンテンツをキャッシュするか明確にする(静的/動的の分類)。
  • 適切なCache-ControlヘッダとVaryヘッダを設定する。
  • インバリデーション手段(パージ、キー、バージョン)を整備する。
  • HTTPS設計(TLS終端)とセキュリティ方針を定める。
  • 監視指標(ヒット率、レイテンシ、バックエンド負荷)を導入して改善を図る。

参考文献