ラズベリーパイ完全ガイド:概要から用途・モデル選択・産業利用まで徹底解説
ラズベリーパイとは — 概要
ラズベリーパイ(Raspberry Pi)は、イギリスの非営利団体「Raspberry Pi Foundation」が教育目的やものづくり(Maker)向けに開発した小型のシングルボードコンピュータ(SBC)です。クレジットカードサイズでありながら、CPU、GPU、メモリ、入出力端子を備え、一般的なデスクトップ用途から組み込み機器、ロボット制御、IoT(モノのインターネット)まで幅広く利用されています。
歴史と目的
ラズベリーパイ構想は2000年代後半に始まり、Raspberry Pi Foundationは教育の場でのコンピュータサイエンス教育の復興を目的として設立されました。初代モデル(Model B)は2012年に発売され、以降、低価格で入手しやすく、拡張性の高いプラットフォームとして世界中の教育機関やホビイスト、産業用途に広がりました。
ハードウェアの基本要素
- CPU/GPU:ARM系プロセッサを搭載し、モデルによって性能が異なります。GPUはメディア再生や一部の3D処理に対応します。
- メモリ(RAM):モデルによって256MB〜8GB程度まで幅があります。近年のモデルでは最大8GBを搭載可能なものもあります。
- ストレージ:主にmicroSDカードにOSやデータを格納します。モデルやファームウェアによりUSBブートやネットワークブートも可能です。
- GPIO(General Purpose Input/Output):汎用入出力ピンを持ち、センサーやモータ、LEDなどハードウェアの制御が可能です。拡張ボード(HAT)で機能を追加できます。
- 映像・音声出力:HDMI(またはmicro-HDMI)を備え、ディスプレイ接続に対応。CSI(カメラインターフェース)やDSI(ディスプレイインターフェース)を持つモデルもあります。
- ネットワーク/USB:イーサネットやWi‑Fi、Bluetoothを内蔵するモデルがあり、USBポートはキーボードやカメラ、ストレージの接続に使えます。
主なモデルと特徴(概略)
ラズベリーパイは複数のラインが存在し、用途に応じて選択できます。
- Model A / A+:低コスト・低消費電力のシンプルモデル(USB数やEthernetの省略など)。
- Model B / B+:汎用的で拡張性が高い標準モデル。Ethernetや複数のUSBポートを備えます。
- Raspberry Pi 2 / 3 / 4 / 5など:世代ごとにCPU性能、メモリ容量、インターフェースが向上。Pi 4ではUSB-C給電、ギガビットイーサネット(実効速度向上)、複数の高解像度ディスプレイ出力などを導入しました。最新世代はさらに性能・I/Oが改善されています。
- Raspberry Pi Zero / Zero W / Zero 2 W:非常に小型で低価格。Zero Wは無線(Wi‑Fi/Bluetooth)を内蔵、Zero 2 Wはより高性能なプロセッサ搭載。
- Raspberry Pi 400:キーボード一体型のコンピュータで、教育やデスクトップ用途に向きます。
- Compute Module(CM)シリーズ:製品の組み込み用途を想定したモジュール形状。自社基板へ組み込むことで量産機器に適用しやすくなっています。
ソフトウェアとOS
ラズベリーパイ向けの公式OSはRaspberry Pi OS(旧Raspbian)で、Debianをベースに最適化されたディストリビューションです。教育向けツールやGPIO制御ライブラリ、Python環境などがあらかじめ用意されています。その他、UbuntuやLibreELEC、RetroPie、Windows向けの軽量版(特定用途向け)など、多くのOSイメージがコミュニティやベンダーから提供されています。
代表的な用途と活用事例
- 教育・学習:プログラミング(Python、Scratch等)や電子工作の学習用として広く使われています。
- メディアプレーヤー:HD動画再生やホームシアター向けの軽量PCとして利用。
- IoTゲートウェイ・センサー集約:センサーからのデータ収集やクラウド連携を行うゲートウェイとして。
- ホームオートメーション/サーバー:DNS、Pi-hole、家庭用NAS、小規模なWebサーバーなど。
- ロボティクス・制御:モータ制御、カメラを使った画像認識、機械の動作制御など。
- 産業組み込み:Compute Moduleを用いた専用機器やプロトタイプの製作。
ラズベリーパイを選ぶ際のポイント
- 用途に合わせたモデル選定:単純なセンサー監視ならZero系、デスクトップ用途や複数ディスプレイが必要ならPi 4/5系、組み込み量産はCompute Moduleが適する。
- 電源と熱設計:安定した電源(公式の電源アダプタ推奨)を使うこと、負荷が高い場合はヒートシンクやファンで熱対策を行うこと。
- ストレージの選択:microSDは手軽だが寿命や速度に注意。重要データや高頻度書き込みがある場合はUSB SSDやeMMC(Compute Module)を検討する。
- ソフトウェア・サポート:公式イメージやコミュニティの豊富さを活かして、使いたいソフトが動作するか事前に確認する。
利点と制約
利点は「低価格で入手しやすい」「豊富な周辺機器と大きなコミュニティ」「学習からプロダクションまでスケールできる点」です。一方、制約としては「フルサイズのデスクトップPCに比べると処理性能は劣る」「microSDの書き込み耐性や速度の問題」「熱によるサーマルスロットリング(高負荷時の性能低下)」「特定のハードウェアアクセラレーションや拡張命令セットが限定的」などが挙げられます。
導入の基本手順(簡易)
- 公式サイトからOSイメージをダウンロードし、microSDカードに書き込む(公式のImagerツール推奨)。
- 必要な周辺機器(電源、HDMIケーブル、キーボード/マウス、ネットワーク)を準備。
- 初回起動後、初期設定(ロケール、パスワード、Wi‑Fi設定、アップデート)を実施。
- GPIOやカメラを使う場合は該当の設定(インターフェースの有効化)を行う。
産業利用とライフサイクル
教育やプロトタイプ用途だけでなく、ラズベリーパイは産業用途でも採用が進んでいます。産業利用では長期供給・安定した電源・信頼性の確保が重要であり、そのためにCompute Moduleや公式の産業向けサポートを利用するケースがあります。導入前には製品のライフサイクル(モデルのサポート期間や入手可否)を確認することが重要です。
コミュニティとエコシステム
ラズベリーパイの大きな強みは活発なコミュニティです。フォーラム、ブログ、オープンソースのライブラリ、教育用教材、サードパーティ製のHAT(拡張ボード)やケースなどエコシステムが充実しており、問題解決や学習の際に大きな助けになります。
まとめ
ラズベリーパイは「手頃な価格で学習から実用まで幅広く使える」シングルボードコンピュータです。ハードウェアの選択肢が豊富で、教育・趣味・プロトタイプ・産業機器と用途が広く、GPIOや周辺機器によるハードウェア制御が容易なのが魅力です。一方で、用途によっては性能や信頼性面での配慮が必要となるため、目的に合わせたモデル選定や電源・冷却・ストレージ設計を行うことが成功の鍵になります。
参考文献
- Raspberry Pi Foundation(公式サイト)
- Raspberry Pi Documentation(公式ドキュメント)
- Raspberry Pi - Wikipedia(日本語)
- Raspberry Pi News(製品発表・公式ニュース)


