メモリカード完全ガイド:規格・容量・速度・耐久性から選び方・偽造検査まで詳しく解説
メモリカードとは — 概要
メモリカードは、フラッシュメモリを用いた小型のリムーバブル記憶媒体で、デジタルカメラ、スマートフォン、タブレット、ドローン、監視カメラ、組込み機器など幅広い機器で使われています。磁気ディスクや光学メディアと異なり可動部がないため耐衝撃性に優れ、また低消費電力・小型軽量であることから携帯機器での標準的なストレージ手段になっています。
主な規格と種類
- SD(Secure Digital)系:フルサイズのSD、microSD(旧称: TransFlash)が代表。SD系は世代・容量区分が細かく定義されています(後述)。
- MMC(MultiMediaCard):かつて一般的だったが、現在はSDに置換されつつあります。
- CompactFlash(CF)/ CFast / XQD / CFexpress:プロ向けカメラや高性能機器向けのカード。特にCFexpressはPCIe/NVMeベースで非常に高い転送性能を持ちます。
- 特殊用途カード:産業用・監視用に耐久性・書き込み耐性を高めた「Endurance」や高耐久モデルがあります。
容量区分(SD系の例)
- SD:最大2GB(従来のSD仕様)
- SDHC(Secure Digital High Capacity):2GB超〜32GB(FAT32が標準)
- SDXC(Secure Digital eXtended Capacity):32GB超〜2TB(exFATが標準)
- SDUC(Secure Digital Ultra Capacity):2TB超〜128TB(最新規格)
注:カードに表示される「GB」は通常10進(10^9バイト)表記であり、OSやツールで表示されるバイト換算(2の冪)と差が出ることがあります。
速度規格(読み書き性能の目安)
- Class(C):Class2/4/6/10は最低保証の連続書き込み速度(MB/s)を示す(例:Class10 = 10MB/s以上)。
- UHS Speed Class(U1/U3):U1 = 最低10MB/s、U3 = 最低30MB/s。
- Video Speed Class(V):V6/V10/V30/V60/V90 など、動画記録向けに最低持続書込速度を規定(数字 = MB/s)。
- Application Performance Class(A1/A2):ランダムI/O性能を規定。A1は最低ランダム読み出し1500 IOPS/書き込み500 IOPS、A2は読み出し4000 IOPS/書き込み2000 IOPSを標準として要求(ホスト側の対応も必要)。
- UHSバスの世代:UHS-I(最大理論104MB/s)、UHS-II(最大312MB/s)、UHS-III(最大624MB/s)。ただしこれは理論値で、実際はカード・端末・ケーブルの組合せによります。
- SD Express / CFexpress:PCIe/NVMeインターフェースを利用する新仕様で、より高い帯域(PCIe x1 の世代による)を実現します。
物理・電気的特徴と互換性
- サイズ:標準SD(約32×24mm)、miniSD(ほぼ廃止)、microSD(15×11mm)が主流。microSDは付属のアダプタで標準SDスロットに使えますが、速度・互換性はホスト側に依存します。
- ピン構成とバス:従来のSDはSPIやSDバスを、UHS以降は高速化したバスを採用します。高速規格を利用するにはホスト側(カメラ・PCカードリーダー等)の対応が必須です。
- 書き込み保護スイッチ:標準SDカードの側面に機械式のロックがあり、カードリーダーがそれを検出して書込を抑止しますが、カード単体での物理的ロック機構ではありません(ホストが尊重するかどうかに依存)。
- SDIO:SDスロットでメモリ以外のI/O機能を提供できる拡張(例:Wi-Fiアダプタ)も規定されています。
NANDフラッシュと内部動作(耐久性・性能に関する基礎)
メモリカードの記憶素子はNANDフラッシュで、一般にSLC(1ビット/セル)、MLC(2ビット/セル)、TLC(3ビット/セル)、QLC(4ビット/セル)などがあり、セルのビット密度が上がるほど容量は増えますが書き換え耐性(P/Eサイクル)や速度が低下します。カードにはフラッシュコントローラが組み込まれ、ウェアレベリング(均等書込み)、不良ブロック管理、ガベージコレクション、キャッシュ管理などを行い性能・寿命を確保します。高耐久をうたう「Endurance」モデルはこれらの制御や使用するNANDの選別で長時間の連続書き込みに耐えるよう設計されています。
ファイルシステムとフォーマット
- SD標準:SDは規格上の推奨フォーマットがあります。SD/SDHCは主にFAT16/FAT32、SDXC以降はexFATが想定されています。
- 注意点:FAT32は単一ファイルの最大サイズが4GBに制限されるため、4K/高ビットレート動画撮影時はexFATが必要になります。
- 推奨ツール:SD Associationが配布する「SD Formatter」ツールを使うと、推奨設定で最適にフォーマットできます(Windows/Mac対応)。
用途別の選び方(実用指南)
- 写真撮影(静止画中心):高速なシーケンシャル書込が必要な場面が多い。連写ではU3やV30以上を推奨。
- 4K/8K動画撮影:最低でもV30(4K)を基準に、ハイビットレートやRAW動画ではV60/V90を検討。カメラの推奨仕様に従うこと。
- スマートフォン/アプリ実行:アプリ負荷が高い場合はA1/A2を選ぶとアプリ起動や操作が快適になる。ただしA2はホスト(スマホ等)の対応が必要。
- 監視カメラ・ドライブレコーダー:長時間連続録画が要求されるため、耐久設計のEnduranceモデルを選ぶ。
- 高速転送を活かす用途:UHS-II/IIIやSD Express/CFexpress対応のカードと対応機器が必要。カードリーダーやカメラの仕様を確認する。
偽造カードと検査方法
インターネット上には公称容量や速度を偽った粗悪・偽造カードが存在します。特に安価な大容量表示カードは実際の容量が小さく、ファイルを書き込むと上書きされてしまうことがあります。チェック方法としては:
- H2testw(Windows)やF3(Linux/Mac)で実際に全容量へ書き込み・読み出しテストを行う。
- CrystalDiskMarkなどでシーケンシャル/ランダムの転送速度を測定する(理想的な速度との差を確認)。
- 信頼できるメーカー・販売店で購入し、過度に安い商品は警戒する。
メンテナンスと利用上の注意
- 安全な取り外し:書き込み中の抜去はデータ破損やファイルシステム障害を招くため、OSや機器の「取り外し/アンマウント」を利用する。
- 定期バックアップ:物理故障や論理障害に備え、重要データは必ず複数コピーを保管する。
- 極端な温度・湿度・静電気・衝撃に注意。メーカーが定める使用温度範囲を確認する。
- カードの寿命:フラッシュメモリは書き換え回数に限界がある。頻繁に大量書込が発生する用途では耐久モデルを選ぶ。
よくある誤解
- 「容量が大きければ速い」は必ずしも正しくない。速度はカードの内部設計(NAND、コントローラ、キャッシュ)と規格(UHS/Video/Aクラス)による。
- 「microSDをSDアダプタで使うと遅くなる」は一概には言えない。アダプタは単なるパッシブな変換であり、速度は主にカードとリーダー・ホストに依存する。ただし、カードリーダーのスロットがUHS-IIピンを持たない場合、高速UHS-IIカードの性能は出ない。
まとめ
メモリカードは小型で汎用性の高い不揮発性ストレージです。選定のポイントは用途に応じた「容量」「速度クラス(連続書込の保証)」「アプリ性能(A1/A2)」「耐久性(Endurance)」「ホスト機器との互換性」です。購入前に機器メーカーの推奨仕様を確認し、信頼できるブランドから入手、必要に応じて速度と容量の実測検証を行うことをおすすめします。
参考文献
- SD Association(公式サイト) — SD規格や速度クラス、SD Expressなどの仕様情報。
- SD Association — Speed Class Overview
- SD Association — Application Performance Class (A1/A2)
- Wikipedia — Secure Digital
- SD Association — SD Formatter(推奨フォーマットツール)
- F3(Fight Flash Fraud/ファイル検証ツール) — GitHub
- H2testw(偽造カード検査ツール)
- CompactFlash Association(CF / CFexpressに関する情報)


