TIFFとは何か?高品質画像保存の完全ガイド|構造・圧縮・派生フォーマットと実務活用
TIFFとは:概要と特徴
TIFF(Tagged Image File Format)は、画像データ保存のための柔軟で拡張性の高いファイルフォーマットです。もともとはスキャナーやデスクトップパブリッシングの用途を念頭に置いて開発され、ビットマップ画像を高品質かつ可搬性を持たせて保存できる点が特徴です。カラー、グレースケール、パレット、CMYK、マルチページ(複数画像を1ファイルに格納)や、各種圧縮方式(可逆/非可逆)をサポートし、メタデータをタグ式に保存する柔軟な構造を持ちます。
歴史的経緯(簡潔に)
TIFFは1980年代中盤にAldus(後にAdobeに統合)によって策定され、1992年にTIFF 6.0として広く普及しました。以後、公式仕様はAdobeやコミュニティにより参照され続け、多くの派生と拡張(GeoTIFF、TIFF/EP、TIFF/IT、BigTIFFなど)が生まれました。LZW圧縮の特許問題(Unisys)やJPEG/JP2との連携、ビッグデータ対応のためのBigTIFF導入など、実務上の要請で進化を続けています。
ファイルの構造(技術的な中核)
TIFFファイルはヘッダーとImage File Directory(IFD)を基本単位として構成されます。ヘッダーの先頭にはエンディアンを示す2バイト("II"=リトルエンディアン、"MM"=ビッグエンディアン)が置かれ、その後にマジックナンバー(42)が続き、最初のIFDへのオフセットが格納されます。IFDは複数の「タグ(Tag)」エントリを持ち、各タグが画像幅や高さ、圧縮方式、サンプルごとのビット数、色空間、オフセット情報などを記述します。
各IFDは「エントリ数(2バイト)」「エントリテーブル(各12バイトのレコード)」「次のIFDへのポインタ(4バイト)」で構成され、複数のIFDを連結することでマルチページやサムネイルなどを表現します。タグの値が大きい場合は値フィールドにオフセットが入り、別領域に実データが格納されます。
圧縮方式(主なものと用途)
- 無圧縮(Raw):画質劣化なしだがファイルサイズは大きい。アーカイブ用途で用いられる。
- LZW(可逆):よく使われる可逆圧縮。かつての特許問題がありましたが現在は解消済みで広く利用可能。
- Deflate/ZIP(可逆):一般的なZIPと同種の圧縮。可逆で汎用性が高い。
- PackBits(可逆):簡易RLE方式。主に古い実装や特定環境で見られる。
- CCITT Group 3/4(FAX向け、二値画像用):モノクロ文書のスキャンやファックス保存で用いられる。
- JPEG(非可逆):写真などで高い圧縮率を得たい場合に用いるが、画質劣化が生じるためアーカイブ用途では注意が必要。
- JPEG 2000(可逆/非可逆):高品質で柔軟だが対応ソフトによる互換性に差がある。
色深度・色空間・サンプル構成
TIFFは1ビットの二値から8/16/32ビット、さらには浮動小数点ピクセル(科学用途)まで幅広いビット深度を扱えます。色空間もRGB、CMYK、グレースケール、パレットカラー(インデックスカラー)、YCbCrやLabなど多様です。ICCプロファイルを埋め込み、正確な色再現を保持することが可能で、DTPや印刷ワークフローで重宝されます。
メタデータとタグ機構
TIFFの最大の強みの一つは「タグ」によるメタデータ拡張です。タグは標準タグとベンダー独自の私的タグに分かれ、画像寸法や圧縮方式のほか、サムネイル、解像度情報、撮影機器情報(Exif)、IPTC、XMPなどを格納できます。多くのデジタルカメラではExifデータがTIFF準拠の構造で保存され、後続の処理やカタログ管理で利用されます。
マルチページ・タイル化・ストリップ
TIFFは1ファイルで複数ページ(複数IFD)を持てるため、ドキュメントスキャニングで便利です。データ配置にはストリップ(連続ラインブロック)方式とタイル(矩形ブロック)方式があり、タイル化は大きな画像の部分読み出しやGPU処理、地理画像の扱いに適しています。どちらを選ぶかでI/O特性や互換性が変わります。
派生・拡張フォーマット
- BigTIFF:従来の32ビットオフセット(4GB制限)を超える大容量ファイルのために64ビットオフセットを採用した拡張仕様。大型の衛星画像や高解像度合成ファイルで用いられます。
- GeoTIFF:座標参照情報(地理参照)をTIFFのタグに格納する仕様で、地理空間データ(リモートセンシングやGIS)で広く使われます。
- TIFF/EP(ISO 12234-2):デジタルカメラのRAWなどに関連した標準。カメラメーカーやソフトウェアの互換性に配慮されています。
- TIFF/IT:印刷業界向けのワークフロー標準。
利用ケースと利点・欠点
主な用途は次の通りです:高品質スキャンとアーカイブ、印刷・DTPワークフロー、医用・科学画像(高ビット深度)、ドキュメントのマルチページ保存、地理空間データの格納。利点は可逆圧縮や高ビット深度、豊富なメタデータ、拡張性にあります。一方で欠点はファイルサイズが大きくなりやすいこと、Webブラウザや一部アプリでの表示互換性が弱いこと、仕様の多様性により生成側と表示側でサポート差が出る点です。
実務上のベストプラクティス
- アーカイブ目的なら可逆圧縮(LZWやDeflate)か無圧縮で保存し、ICCプロファイルと適切なメタデータを埋め込む。
- スキャン文書はマルチページTIFF+CCITT G4で効率的に保存、OCR処理との連携を考慮する。
- ウェブ公開用はTIFFではなくJPEG/PNG/WebP等に変換して配信する(多くのブラウザはTIFFをネイティブ表示しない)。
- 大容量・高解像度データはBigTIFFやタイル化を検討するが、受け手のアプリケーション互換性を確認すること。
- 非可逆圧縮(JPEG等)を使う場合は、画質劣化が問題ないか慎重に判断する。
互換性と実装(ソフトウェア)
TIFFはImageMagick、GraphicsMagick、libtiff、Adobe Photoshop、GIMPなど多くのツール/ライブラリで扱えます。libtiffはTIFFの事実上の標準ライブラリであり、BigTIFF対応や様々な圧縮の実装例が存在します。ただし、すべてのアプリがTIFFの全機能(タイル、特殊圧縮、私的タグ)をサポートしているわけではないため、用途に応じた互換性確認が必要です。
他フォーマットとの比較(簡潔)
JPEG:写真向けで高圧縮だが非可逆。TIFFにJPEGを埋め込めるが、アーカイブには向かない。PNG:可逆でWeb向けに最適、しかし高ビット深度やマルチページは不得手。JPEG 2000/HEIF:高機能で圧縮効率良好だが互換性が限定されがち。PDF:ドキュメント配布に優れ、画像とテキストを混在できるが、画像単体の詳細なピクセル制御はTIFFが有利。
まとめ
TIFFは「高品質な画像保存」と「柔軟な拡張性」を両立する長寿のフォーマットです。アーカイブ、印刷、科学用途、地理データなど、画質やメタデータの完全性が重要な場面で今も重要な役割を果たしています。一方でWeb公開には不向きな点や実装差異による互換性問題があるため、使用目的に応じた圧縮方式や派生仕様の選択、受け手との互換性確認が不可欠です。
参考文献
- TIFF Revision 6.0(Adobe公式仕様書)
- LibTIFF(TIFFライブラリ/仕様資料)
- BigTIFF(libtiffによる拡張説明)
- GeoTIFF(地理参照TIFFの公式情報)
- TIFF — Wikipedia(概要・歴史)
- ExifTool(TIFF/Exif/IPTC/XMPの実用的参照)
- ImageMagick(TIFF処理ツール)
- Group 3 / Group 4 Fax(CCITT圧縮の背景)


