メインチェーンとは何か?セキュリティ・最終性・アーキテクチャからサイドチェーンとレイヤー2まで徹底解説
メインチェーンとは
メインチェーン(main chain)とは、ブロックチェーンや分散台帳ネットワークにおいて、ネットワーク全体のセキュリティや最終決定(ファイナリティ)を担う代表的なブロックチェーン本体のことを指します。一般に「メインネット」「メインチェーン」「本チェーン」とも呼ばれ、通貨やトークンの最終的な清算・記録、スマートコントラクトの実行(実行系がある場合)を行う基盤です。BitcoinやEthereumの「メインネット」が典型例で、そこに付随するサイドチェーンやレイヤー2はメインチェーンの上位・補助的な存在として位置づけられます。
メインチェーンの役割
セキュリティの提供:メインチェーンは多数のバリデータ(マイナーやステーカー)による合意形成を通じて不正改ざんに対する耐性を提供します。ここにトランザクションを最終的に記録することで「信頼できる」決済やデータ保存が可能になります。
資産の最終清算:トークンやコインの「最終的な所有権」は多くの場合メインチェーン上の状態で確定します。レイヤー2やサイドチェーン上での取引はメインチェーンに担保や決済を依存することが多いです。
相互運用の基点:クロスチェーンの橋渡し(ブリッジ)やロールアップのアンカー先として、メインチェーンは信頼の根拠を提供します。
ガバナンスとアップグレード:ネットワークのプロトコル変更や手数料構造、パラメータの管理がメインチェーンで行われることが多いです。
アーキテクチャとコンセンサスの違い
メインチェーンは用いるコンセンサスアルゴリズムにより性質が大きく変わります。代表的なものはProof of Work(PoW)とProof of Stake(PoS)です。PoW(例:Bitcoin)は計算資源に基づく確率的最終性を持ち、深いブロック確認で安全性が高まる特性があります。一方PoS(例:Ethereum 2022年のマージ以降のPoS)はステーク(預けられた資産)に基づき、最終性ガジェット(例:Casper、GRANDPA、PBFT系手法)を組み合わせることでより短い時間で確定を得られる場合があります。
また、メインチェーンは実行層(Execution Layer)とコンセンサス層(Consensus Layer)に分かれて設計されることもあります。Ethereumでは「マージ」によりビーコンチェーン(コンセンサス層)と実行層が統合され、現在は分離された責務の概念が設計・運用上重要になっています。
UTXOモデルとアカウントモデル
メインチェーンのステート(状態)管理には大きく2つのモデルがあります。Bitcoinが採用するUTXO(Unspent Transaction Output)モデルは出力の集合で状態を表し、並列処理や追跡がしやすい特徴があります。Ethereumが採用するアカウントモデルはアカウントごとの残高とストレージで状態を保持し、スマートコントラクトとの相性が良い一方で状態の成長やプライバシー面での課題もあります。どちらのモデルを採るかはメインチェーンの用途や設計目標に影響します。
サイドチェーン・レイヤー2との関係
スケーラビリティ課題に対処するため、メインチェーンの周辺にサイドチェーンやレイヤー2(L2)が存在します。これらはメインチェーンの負荷を軽減し、低コスト・高速なトランザクションを実現しますが、セキュリティや最終性の保証は設計により異なります。
サイドチェーン:独自のコンセンサスを持つ別チェーン(例:Liquid)で、資産をロック・ミントして転送します。メインチェーンとは信頼モデル(中央集権的ブリッジか最小保証のブリッジか)に差があります。
レイヤー2(例:Lightning、Optimistic Rollups、ZK-Rollups):メインチェーンにデータや検証の一部を委ねることで効率を高めます。ロールアップはメインチェーンにトランザクションデータや証明(特にZK-rollupは数学的証明)を投稿し、メインチェーンのセキュリティを活用します。
シャーディングやパラチェーンとの違い
スケールアウトのために採られる設計としてシャーディングやパラチェーン(Polkadotの概念)があります。シャーディングは単一のメインチェーンを複数の「シャード」に分割し、それぞれが並列に処理を行います。パラチェーンはリレーチェーン(メインのセキュリティ提供チェーン)に複数の並列チェーンが接続され、リレーチェーンがセキュリティとクロスチェーンの調整を行います。これらは「メインチェーンが単独で処理する」という従来の概念を拡張する手法で、設計次第でメインチェーンの役割は“セキュリティの司令塔”に集約されることがあります(例:PolkadotのRelay Chain、CosmosのHub)。
セキュリティと最終性、リオーグ(再編)
メインチェーン上での取引は「どの程度の深さで確定と見なすか(confirmation数)」が重要です。PoW系ではブロックが追加されるたびに逆転の難しさが増す“確率的最終性”があり、一般に6ブロック(Bitcoin)などの慣習が使われます。PoS系やBFT系ではファイナリティが明示的にアサートされることがあり、短時間で確定を得られます。
リオーグ(チェーンの再編)は、競合するブロックが発生した結果、短期的にブロックが置き換わる現象です。重大なリオーグや51%攻撃、長期的なフォークはメインチェーンの信頼性を損ない得るため、経済的・技術的対策(十分な分散ハッシュパワー・ステーク、監視システム、チェーンスプリット回避のプロセス)が求められます。
メインチェーンの実務的注意点(開発者・事業者向け)
確定待ち(confirmations)の扱い:取引所や決済システムはどの程度の確定を要求するかポリシーを定める必要があります。高額取引ほど多くの確認を要求するのが一般的です。
手数料(ガス)設計:メインチェーンの手数料はネットワーク混雑に依存します。高い手数料時のUXや代替ルート(L2、バッチング)の導入を検討します。
ブリッジの安全性:異なるチェーンと資産を移動させるブリッジは弱点になりやすく、監査や多層の検証(例:fraud proofs、zk-proofs)を用いることが重要です。
アップグレード・ハードフォーク対応:メインチェーンのアップデートは互換性問題やネットワーク分裂(ハードフォーク)を引き起こす可能性があるため、事前コミュニケーションと計画が必要です。
代表的なメインチェーンの例
Bitcoin(ビットコイン):最も古いメインチェーンで、UTXOモデルとPoWを採用。高い分散性と決済の最終性(確率的)を特徴とします。
Ethereum(イーサリアム):スマートコントラクトの普及を牽引した実行基盤。2022年のマージ以降はPoSベースで運用されています。ロールアップなどL2戦略と組み合わせてスケールさせる設計が進んでいます。
Polkadot(リレーチェーン):Relay Chainがセキュリティを担保し、複数のパラチェーンが並列処理を行う設計。
Cosmos(Hub):TendermintベースのHubとZoneによる相互接続、IBCによるチェーン間通信を重視。
まとめ:メインチェーンの今後と選び方
メインチェーンは分散システムの「安全な土台」としての役割を担いますが、用途や要件により最適な設計は異なります。高いセキュリティと分散性を重視するならBitcoinタイプ、スマートコントラクトや高速確定を求めるならPoS系や専用のHub/Relay設計が適します。スケーラビリティはメインチェーン単独で解決するのではなく、シャーディング、パラチェーン、レイヤー2、ロールアップなどのコンビネーションで達成されることが多く、各レイヤー間の信頼モデルとコスト・ユーザー体験のトレードオフを理解することが重要です。
参考文献
- Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System — Satoshi Nakamoto(Bitcoin白書)
- Ethereum公式サイト(マージやPoSに関する情報)
- Polkadot公式サイト(Relay ChainとParachainの説明)
- Cosmos公式サイト(Tendermint・IBCの仕様)
- Blockstream Liquid(サイドチェーンの事例)
- Vitalik Buterin — The Merge: 説明(英語)
- Ethereum: Scaling Solutions(ロールアップ等の解説)
- Lightning Network(レイヤー2の代表例)


