エルネスト・アンセルメの世界:OSRと聴く20世紀フランス系・ロシア系名盤ガイド

Ernest Ansermet — まずは概観

Ernest Ansermet(エルネスト・アンセルメ、1883–1969)はスイス出身の指揮者で、オーケストラ・ド・ラ・スイス・ロマンド(Orchestre de la Suisse Romande, OSR)を創設し、生涯にわたりフランス語圏の近代音楽(ドビュッシー、ラヴェル)やストラヴィンスキー、ホジェー(Honegger)らの作品を強力に擁護・録音したことで知られます。鋭いリズム感、透明な響き作り、楽曲構造に忠実な解釈が特徴で、20世紀前半のフランス系・ロシア系レパートリーを聴くうえで必聴の指揮者です。

おすすめレコード(深掘りガイド)

  • ドビュッシー:海(La Mer)/牧神の午後への前奏曲(Prélude à l'après-midi d'un faune) 他 — Ansermet / Orchestre de la Suisse Romande

    なぜ聴くか:アンセルメのドビュッシー解釈は「色彩の透明さ」と「呼吸」を重視します。弦楽の扱いは柔らかく、木管の露わな一音一音が際立つため、海の広がりや牧神の夢想的瞬間が非常に生き生きと伝わります。テンポの流れも自然で、過度なロマンティシズムに陥らない点が魅力。

    聴きどころ:La Merの第1曲冒頭の波の描写、第2曲中盤の木管のソロ、Préludeの横たわる金管とフルートの対話。

    盤の選び方:初出は戦後のDecca系録音が出ていることが多く、オリジナルのアナログLPは温かみがあり人気。近年はDecca系のリマスターCDやハイレゾでも聴けます。

  • ラヴェル:ダフニスとクロエ(Daphnis et Chloé/完全版) — Ansermet / OSR

    なぜ聴くか:ダイナミクスの幅、合唱を含む大編成でのバランス調整にアンセルメの手腕が光ります。特に管楽器群の色合い表現と細部に対する執拗な注意が、ラヴェルの音響世界を生々しく再現します。

    聴きどころ:第2組曲・第3組曲と比較しても、全曲版での場面転換やソロの扱いに注目。コーダやクライマックスの構築力が魅力です。

  • ストラヴィンスキー:春の祭典(Le Sacre du printemps) — Ansermet / OSR

    なぜ聴くか:ストラヴィンスキーのリズム的難解さを「自然で説得力あるリズム感」に還元する指揮として定評があります。原典に近い彫琢されたアプローチで、荒々しさよりも構造的な力を強調する演奏が多いのが特徴です。

    聴きどころ:冒頭のリズム群、管打楽の鋭利な切り返し、終結部の重心の置き方。Ansermetの録音は各パートの輪郭が明瞭なので、複雑な層状テクスチャが追いやすいです。

  • ストラヴィンスキー:ペトルーシュカ(Petrushka)/プルチネッラ(Pulcinella)など — Ansermet / OSR

    なぜ聴くか:バレエ音楽の劇性と機知に富んだ色彩感がよく出るアンセルメの解釈群。とくにPetrushkaでは民俗的要素とモダニズムの融合を端正に描き出します。

    聴きどころ:ピアノ的打楽器的なリズム処理、管・金管セクションの掛け合い、場面転換の速さと緊張感。

  • ホジェー(Arthur Honegger)作品集 — Ansermet / OSR

    なぜ聴くか:ホジェーはスイス出身の作曲家で、アンセルメは彼の主要な擁護者の一人。交響詩的作品(たとえば「Pacific 231」など)や合唱を含む大作でも、力強く骨太な表現を聴かせます。

    聴きどころ:機械的なモチーフの造形(Pacific 231の疾走感)、大編成でのクライマックス構築法。

  • ミヨー/ミヨー作品集、ミルハウド(Milhaud)などの近代フランス作品 — Ansermet / OSR

    なぜ聴くか:アンセルメは20世紀前半のフランス系多彩な作曲家を深く理解しており、特色ある小品群の語り口が巧み。多彩なリズム、民俗的色彩、和声の実験性を自然にまとめ上げます。

  • シューベルト/交響曲録音(Ansermetの古典的傾向を知るための1枚) — Ansermet / OSR

    なぜ聴くか:アンセルメは近代音楽の解釈で知られますが、古典派やロマン派作品にも節度あるアプローチを取ります。シューベルトでは骨格の見せ方が参考になります(過度な遅さや劇化を避ける伝統的なフランス語圏のスタイル)。

各盤を聴く際の「注目ポイント」

  • 音色とアンサンブル:アンセルメは「音の輪郭」を重要視します。特に木管のアーティキュレーションや弦のフォルテ・ピアノの差を細かく聞き分けてください。

  • リズム感:ストラヴィンスキーやラヴェルでの切れの良さ、拍節感の明確さに注目すると、なぜ彼の録音が根強く評価されるかがわかります。

  • 形式把握:長大な作品の構築(DaphnisやLa Merなど)における全体運びの「抑制されたドラマ性」を感じ取ると、Ansermet流の説得力が見えてきます。

盤の選び方(LPを中心に)

  • オリジナル・アナログLP:戦後~60年代の初出LP(Decca系など)はアナログならではの温かみがありコレクターに人気。ただし盤質とプレス国で音質は大きく変わるので、盤状態(VG+以上)とプレス元をチェックしてください。

  • リイシュー/リマスター:近年のデジタル・リマスター(Decca/Universal系のCD化やハイレゾ配信)は透明度や分離が向上しており、初めて聴くならこちらでも十分にAnsermetの特質を感じられます。

  • 全集・選集ボックス:Ansermetの録音はまとまったボックス(Decca録音集など)で出ていることがあり、同一マスタリングで比較して聴ける点でおすすめです。

聴き比べの楽しみ方

アンセルメの演奏は「古典的な規範」と「20世紀前半の感覚」の橋渡しをします。同じ曲を他指揮者(カラヤン、ストコフスキー、ムラヴィンスキー、ショルティなど)の演奏と並べて聴くと、テンポ感、色彩表現、アゴーギク(呼吸)の差が明確になります。特にストラヴィンスキーやラヴェルでは、Ansermetの“透明で冷静な筆致”が際立ちます。

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参考文献