リニア電源とは?基本構成と設計のポイントを徹底解説

リニア電源とは

リニア電源(リニアレギュレータを用いる電源)は、入力電圧を抵抗的/能動素子(主にトランジスタ)によって直線的に(連続的に)降圧して所定の直流電圧を得る方式の電源です。スイッチング電源(SMPS)とは異なり、スイッチング動作を行わないため、電源ノイズや高周波スイッチングノイズが少なく、アナログ回路や高感度な音響・計測機器での採用が根強く残っています。

基本構成と動作原理

一般的なリニア電源のブロックは次の通りです。

  • 変圧器(必要に応じて) — 商用ACを所定の低電圧ACへ変換し、絶縁や電圧レベル調整を行う
  • 整流回路(ブリッジ整流など) — ACを脈流(パルス状のDC)にする
  • 平滑回路(コンデンサなど) — 脈流を平滑化して平均的なDC電圧を作る
  • リニアレギュレータ — 入力(平滑後)のDCを安定した出力DCへ連続的に制御して出力する

リニアレギュレータは一般に「シリーズレギュレータ(直列型)」と「シャントレギュレータ(並列型)」に分かれます。シリーズ型は入力と出力の間に可変抵抗(トランジスタ)を配置し、負荷に応じてドロップ電圧を制御します。シャント型は負荷と並列に電流を流して電圧を一定化します(小電流・簡易用途向け)。

代表的な部品・用語の説明

  • 整流ダイオード(ブリッジ) — 全波整流でリップル周波数を上げ、平滑を容易にする(50Hz→100Hz等)。
  • 平滑コンデンサ — リップル電圧を低減。容量、ESR、耐圧が重要。
  • リニアレギュレータIC(例:78xxシリーズ、LM317、各社のLDO) — 定電圧出力を提供。
  • LDO(Low Dropout Regulator)— 入力と出力の電圧差(ドロップアウト電圧)が小さいタイプ。
  • PSRR(Power Supply Rejection Ratio)— 電源からの変動をどれだけ抑えるかを示す指標(dB)。
  • Quiescent Current(静止電流、Iq)— レギュレータ自身が消費する電流。ポータブル機器では低Iqが重要。

リニア電源の利点

  • 低ノイズ・低リップル:スイッチングノイズがないため、低周波・高感度回路に有利。
  • シンプルな構成:設計と実装が比較的容易。安定化の原理が直感的。
  • 良好な過渡特性(場合による):一部の高性能リニアは瞬間的な負荷変動に対する応答が良い。
  • EMI対策が容易:発振や高速スイッチングがないためEMI問題が小さい。

リニア電源の欠点(考慮すべき点)

  • 効率が低い:シリーズレギュレータでは理想的には効率η≈Vout/Vin。差分電圧と負荷電流に比例して熱損失が発生する。
  • 熱設計が必要:電力損失は熱となる。P_loss = (Vin − Vout) × Iout の計算で放熱器の設計が必要。
  • 大きさ・重量:特にトランスと大容量コンデンサのため物理サイズが大きくなりがち。
  • 高電力時のコスト:高電流を扱う場合、熱対策と大きな部品でコストが増す。

設計で重要なポイントと実計算例

リニア電源を設計・選定する際は、出力電圧・最大出力電流、入力電圧の範囲、リップル許容、動作温度、効率・放熱を考慮します。以下は典型的な計算例と注意点です。

1) 平滑コンデンサの容量計算(概算)

全波整流後のリップル周波数frは商用が50Hzなら100Hz(全波)、60Hzなら120Hzになります。コンデンサが1パルスの間に放電し許容リップルΔVまで降下すると仮定すると、容量Cは概算で次のように求められます。

C ≈ Iload / (fr × ΔV)

例:出力1A、許容リップルΔV = 0.5V、交流50Hz(fr = 100Hz)なら

C ≈ 1 / (100 × 0.5) = 0.02 F = 20,000 μF

この値はあくまで目安。実際はレギュレータの最低入力電圧、容量の実効ESR、温度による容量低下を考慮して余裕を持つ必要があります。

2) 放熱計算

レギュレータでの消費電力P_lossは単純に

P_loss = (Vin − Vout) × Iout

で計算できます。例えばVin=12V、Vout=5V、Iout=1AならP_loss=7W。放熱を怠るとレギュレータの熱によるサーマルシャットダウンや寿命低下を招きます。

安全な設計には、ジャンクション温度Tjと周囲温度Ta、そして熱抵抗RθJA(あるいは放熱器とケースの合計熱抵抗)を用い:

Tj = Ta + P_loss × RθJA

で許容RθJAを逆算して適切な放熱器サイズを選びます。

3) ドロップアウト電圧とLDOの選択

ドロップアウト電圧(Vdrop)は入力電圧が低下したときに出力を維持できる最小の差分電圧です。従来のリニア(例えば78xx系)はVdropが数ボルトあるのに対し、LDOは数百mV〜数十mVまで小さくできます。バッテリ駆動や入力電圧がVoutに近い場合はLDOが適しています。

4) リップル除去とPSRR

リニアレギュレータのPSRR(dB)は低周波で非常に高い値を示すことがありますが、高周波では低下します。平滑コンデンサや入力のデカップリング、グランド配線の工夫がPSRR向上に寄与します。

回路実装上の注意点(安定動作とノイズ対策)

  • 入力側と出力側のコンデンサは、レギュレータのデータシートに記載の種類・容量・ESR範囲に従う。特に一部のLDOは出力側のコンデンサESRに敏感で発振しやすい。
  • 整流・平滑直後のコンデンサは低ESRの電解や固体コンデンサを併用することでリプルと寿命を改善できる。
  • グランドループを避け、アナログ基準のグランドとデジタル高電流グランドを適切に分割する。大電流の経路は短く太くする。
  • 出力のセンス端子(可能であれば)を使って負荷側でリニアの出力電圧を正確にモニタする。
  • 高電流時はワイヤやPCBトレースの抵抗による電圧降下を考慮する。

用途別の選び方

  • 音響機器・オーディオアンプや測定機器:低ノイズ・低リップルを最優先 → リニア電源(適切な平滑と放熱)
  • バッテリ駆動機器:効率が重要 → SMPSや高効率のDC-DCを検討(ただしLDOでの局所的なフィルタリングは有効)
  • 高電力駆動(モータ駆動など):効率重視 → SMPSが標準。リニアは熱やコストが不利。
  • 低電流センサ・IoT:低IqのLDOが有効。

安全対策と規格・注意点

一次側(商用AC側)を扱う場合は絶縁、適切なヒューズやサージ保護、電解コンデンサの耐圧マージン、放熱対策、基板のクリアランス/クリーク電距離が必須です。また、長時間運転や高温環境下でのコンデンサ寿命、溶接の品質、保護回路(過電流・過熱保護)を設計に組み込みます。

実務的なまとめと現代の位置づけ

リニア電源は「ノイズの少ないクリーンな電源」が必要な場面で今なお有用です。特に低周波のアナログ回路や高精度計測、オーディオといった分野ではその価値が高い。一方で、重量・体積・発熱・効率の面で不利なため、電力変換効率が重要な用途ではスイッチング電源が選ばれることが多くなっています。

多くの実際の製品では、スイッチング電源で大まかな降圧を行い、その後に小さなリニアレギュレータ(LDO)を置いて局所のノイズを低減するハイブリッドな設計が採られます。用途とトレードオフ(ノイズ対効率・サイズ・コスト)を理解して選択することが重要です。

参考文献