CME(Cisco Unified Communications Manager Express)とは?中小規模拠点向けIP電話基盤を徹底解説
CMEとは(概要)
CME(Cisco Unified Communications Manager Express)は、主に中小規模拠点向けに設計されたCiscoのIP電話プラットフォームです。一般に「CallManager Express」や単に「CME」と呼ばれ、Cisco IOSを実行するルータ上で動作する組み込み型のコールコントローラ(IP PBX)として提供されます。音声通話のセットアップ、電話機の登録・管理、内線番号の割当て、通話転送、保留、会議などの基本的なUC(ユニファイドコミュニケーション)機能を提供し、小規模オフィスやリモートサイトのサバイバルとして多く利用されてきました。
歴史と位置付け
CMEはCiscoの大規模向けソリューションであるCisco Unified Communications Manager(CUCM、旧称CallManager)とは異なり、ルータやISR上で動作する軽量なコール処理機能を提供する点が特徴です。CUCMが集中管理・大規模展開向けであるのに対し、CMEは単一拠点で完結する運用や、拠点ごとの冗長性確保(例:拠点が本社のCUCMから切り離されても通話継続できる)に適しています。歴史的にはSCCP(Skinny)プロトコル中心で発展しましたが、近年はSIP対応が強化されています。
アーキテクチャと主要コンポーネント
CMEの主要構成要素は次の通りです。
- Cisco IOS上のtelephony-service: CMEの設定はルータのグローバルコンフィグレーション内で「telephony-service」セクションを用いて行います。ここで最大電話数やSIP/SCCPの設定を行います。
- ephone / ephone-dn: 電話端末(ephone)と内線番号(ephone-dn)を定義するCLIオブジェクト。ボタン割当や直通番号設定を行います。
- ボイスメール統合: Cisco Unity Express(CUE)や外部SIP/VoIPサービスと統合してボイスメール機能を提供することが一般的です。
- トランク: PSTNや他拠点のPBX/CUCMと接続するためのSIPトランクやPRI(ISDN)・FXOインターフェースなど。
- 管理インターフェース: CLIが中心ですが、CMEにはWebベースのGUI(Cisco Configuration Assistantや一部のIOSイメージで提供されるGUI)で基本設定を行える場合もあります。
対応プロトコルと端末
CMEは以下のようなプロトコルと端末に対応します。
- SCCP(Skinny Call Control Protocol): Cisco独自の軽量プロトコルで、従来のCisco IP Phoneの多くがSCCPで登録されます。
- SIP(Session Initiation Protocol): RFCベースの標準プロトコル。近年の設計ではSIP端末やSIPトランクを積極的にサポートしています。
- 音声コーデック: G.711、G.729などの一般的なコーデックをサポート。コーデックの利用はライセンスやプラットフォームの性能に依存します。
- サードパーティ端末: 標準SIP端末は登録可能ですが、メーカー固有の機能は互換性の影響を受けるため事前検証が必要です。
導入・構築の基本手順(概略)
CMEを導入する際の典型的なフローは以下の通りです。
- 要件定義:電話数、内線プラン、外線接続方式(SIP/PRI/FXO)、ボイスメール要件、冗長性・拡張性の確認。
- ハードウェア選定:CMEを稼働させるISRルータやモジュール、メモリ/CPU要件を確認。電話数と機能に応じたプラットフォームを選択。
- 基本設定:IOSでtelephony-serviceを有効化し、max-ephones/max-dn等を設定。ip source-addressで通話用の送受信IPを割当て。
- 内線・端末設定:ephone-dnで内線番号を設定し、ephoneでMACアドレスを割り当てて電話機を登録。
- 外線接続設定:SIPトランクやFXO/PRIの設定。SIPの場合はSIP UAやSIP profileの細かい調整が必要。
- ボイスメール統合:CUEなどを用いたボイスメール/IVRの設定。
- テスト:通話品質、フェイルオーバー(電源断や回線断時の挙動)を確認。
運用・管理上のポイント
CMEはルータ上で動作するため、音声とデータの共存を考慮したネットワーク設計が重要です。QoS(DiffServ、LLQ/CBWFQなど)を適切に設定し、音声トラフィックの優先度を確保することが基本になります。また、IOSソフトウェアのバージョン管理やバグ修正・セキュリティパッチの適用、定期的な設定バックアップも運用の重要課題です。
セキュリティと制約
CMEを安全に運用するための留意点は次のとおりです。
- ファームウェア/IOSの脆弱性: ルータやCMEのIOSイメージには脆弱性が存在することがあるため、ベンダーのセキュリティアドバイザリを定期確認し、必要な更新を行う。
- SIPセキュリティ: SIPトランクやSIP端末は不正アクセスや盗聴の対象になり得る。ACL、SIP認証、SIP ALGの無効化やSIPトランクのTLS/SRTPなどで保護を検討する。
- スケーラビリティの限界: CMEは軽量である反面、大規模導入には向いていない。大量の同時通話や高度な集中管理が必要な場合はCUCMなど上位製品を検討する。
- 機能的制約: CUCMで提供される高度機能(大規模会議、集中管理、豊富なアプリ統合など)の一部はCMEでは利用できない。
移行・拡張の考慮点
事業成長や要件変化によりCMEからCUCMへ移行するケースは一般的です。移行を計画する際のポイント:
- 拠点ごとに分散したCMEを統合管理する場合や、より高度な通話制御・アプリ連携を求める場合はCUCMへの移行を検討。
- 移行戦略としては、SIPトランクでCMEとCUCMを接続し段階的にユーザを移行する方法や、手動で端末設定を再作成する方法がある。完全移行には電話機の設定やボタンマップの再構築、ライセンス計画が必要。
- ハードウェア負荷・同時通話数を把握し、移行後のCUCMサイジングを検討する。
導入事例・利用シーン
CMEは次のようなシーンで有効です。
- 拠点数は少なく、内部通話が中心の小規模オフィス。
- 支店・支社など、中央のCUCMがダウンした際にもローカルで通話を継続させたいケース(SRSTと同様の役割)。
- 短期間で導入したい場合や、予算を抑えつつ音声基盤を整備したい場合。
ベストプラクティスと運用のコツ
- 導入前に内部通話フロー・番号計画を明確にする(ダイヤルプランの標準化)。
- QoS設計を先行し、音声パケットが優先されるようネットワーク全体を構成する。
- 定期的にIOSのサポート情報やセキュリティアドバイザリを確認する。
- 電話機の登録・設定やボタンマップはドキュメント化し、バックアップを自動化する。
- 可能ならテスト環境で設定変更を検証してから本番適用する。
まとめ
CMEはCiscoが提供するルータベースの軽量コールコントローラで、小〜中規模拠点に適したIP電話基盤です。導入・運用の敷居が比較的低く、SCCPおよびSIPを用いた端末管理や外線接続を実現できます。一方でスケーラビリティや高度機能には限界があるため、将来の拡張性やセキュリティ要件を見据えた設計と運用が重要です。要件に応じてCMEを選ぶか、CUCMやクラウドPBXなど他の選択肢と比較検討することを推奨します。
参考文献
- Cisco: Cisco Unified Communications Manager Express (製品ページ)
- Cisco: Cisco Unified Communications Manager Express Configuration Guides
- Cisco Documentation Library(CME関連ドキュメント)
- IETF RFC 3261: SIP: Session Initiation Protocol (SIP仕様)
- Cisco DevNet: Unified Communications リソース


