S端子(S-Video)徹底解説:Y/C分離の仕組みと画質の長所・短所、レトロ機器との接続ガイド
S端子とは — 概要
S端子(エス端子、英語では S-Video、別名 Y/C)は、映像信号を「輝度(Y:Luminance)」と「色差(C:Chrominance)」の2系統に分離して伝送するアナログ映像インターフェースの総称です。1980年代後半から1990年代にかけて家庭用ビデオ機器(VCR、カムコーダ、DVDプレーヤー、ゲーム機など)やPCのTV出力端子として広く普及しました。S端子はコンポジット(RCAの黄色端子)のように輝度と色差を1本の信号で合成して送らず、信号分離によってコンポジット特有の混色ノイズ(クロスカラーやドットクラウルなど)を低減できるのが特徴です。
技術的な仕組み(Y/C 分離)
S端子の基本は映像信号を2つに分けることです。
- Y(輝度):画面の明るさ情報(白〜黒、輪郭や解像感の大部分を担う)と水平・垂直の同期パルスを含みます。Y信号は解像感に直結するため帯域幅を広く取られます。
- C(色差):色に関する情報(色相・彩度)を担います。従来のカラーテレビ方式(NTSC/PAL)では色信号はサブキャリア上で変調され、C信号として伝送されます。
コンポジット信号ではこれらが一体になって伝送されるため、色信号の成分が輝度成分に干渉してしまい「クロスカラー」や「ドットクラウル」と呼ばれるアーティファクトが発生します。S端子はYとCを別配線にすることでこれらの干渉を物理的に防ぎ、同一帯域のコンポジットよりもクリーンな画像を実現します。
コネクタとピン配置
最も一般的な形状は4ピンのミニDINコネクタです。4ピン型は以下のようにY/Cそれぞれの信号線と接地(グラウンド)のペアで構成されます(機器やメーカーによって記載方法が若干異なる場合があります)。
- Y(輝度)信号線
- Yのグラウンド
- C(色差)信号線
- Cのグラウンド
一般的な割り当て例としては「Yの信号線とグラウンド」「Cの信号線とグラウンド」が対になって配置される形です(4ピンのうち2つが信号、2つがそれぞれのグラウンド)。また、一部のノートPCやメーカー独自の外部端子では7ピンや9ピンのミニDINや専用マルチコネクタを用い、S端子に加えて音声やコンポジット、RGBなどを一本のコネクタで切り替えられるようにしたものも存在します。
画質の特徴と限界
S端子はコンポジットに比べて色に関するアーティファクトが少なく、輪郭の鮮明さ(輝度情報)を活かした見た目の改善が期待できます。ただし以下の点に留意が必要です。
- 標準定義(SD)向けのアナログ信号:S端子は元来SD(例:NTSCの480i、PALの576i)用で、HD(720p/1080p)をネイティブに伝送するための仕様ではありません。一部の機器はプログレッシブ出力をS端子で行える場合もありますが、基本的には標準画質の範囲です。
- 色解像度の制約:C成分はサブキャリア上で変調される方式のため、色の周波数帯域は輝度に比べて狭く、結果として色の細やかさ(色解像度)は高くありません。コンポーネント(YPbPr)やRGBに比べると色鮮鋭度は劣ります。
- 帯域と長距離伝送:良質なケーブルであれば数メートル〜十数メートルは使えますが、長距離になると両方の信号の減衰やノイズの影響を受けます。シールドの良いケーブルを使うことが推奨されます。
コンポジット/コンポーネント/RGB/HDMIとの比較
主要な映像接続との比較を簡潔にまとめます。
- コンポジット(RCA黄色):映像信号を1本に合成して送るため安価だがノイズや混色アーティファクトが出やすい。S端子はこれより優れる。
- コンポーネント(YPbPr):輝度と2つの色差(Pb/Pr)に分けるため、色解像度・帯域ともに高くHD時代のアナログ高画質伝送に対応。S端子より上位。
- RGB / SCART:可能ならRGBは各色成分を別に扱うため画質は高い(SCARTは欧州で普及)。ただし機器依存の互換性がある。
- HDMI(デジタル):デジタル・暗号化・高解像度対応などの利点があり、現代の主流。S端子はアナログSD時代の規格であり、HDMIに比べると画質・機能面で劣る。
実用上の注意点・トラブルシューティング
- 端子の接触不良:ミニDINの金属ピンは曲がりやすく、差込が緩むと輝度のみ出る・色が消えるといった症状が出ます。抜き差しは注意し、接触が悪い場合は清掃やケーブル交換を検討してください。
- 安価な変換アダプタの誤解:S端子とコンポジットの違いを理解せず、単純な物理変換(ジャックを変えるだけ)のアダプタを使っても、信号分離が行われない限り画質は改善しません。逆にYとCを誤って短絡させると映像が破綻します。
- 変換器の品質:S端子をHDMI等に変換する際はアナログ→デジタル変換(スケーラー)を行う機器が必要です。変換器の性能により色合いや解像感、遅延が異なるためレビューや仕様を確認してください。
- 録画・キャプチャ:ビデオキャプチャカードや外付けキャプチャデバイスでS端子入力(Y/C入力)を持つものがあります。キャプチャ品質は入力機器とキャプチャデバイス双方のアナログ回路の品質に依存します。
歴史と用途の変遷
S端子は家庭用機器の画質向上を目的に登場し、S-VHSなどの高画質VCRや当時の高級ビデオカメラ、ゲーム機(例:セガや任天堂、初代PlayStation世代の一部機種)やDVDプレーヤーなどに搭載されました。2000年代以降、デジタル接続(DVI/HDMI)や高品質なコンポーネント接続が普及するとともに、テレビやPC側のS端子搭載は徐々に減少しました。現在でもレトロ機器との接続や、SDアナログ機器を扱う場面で使われていますが、新品の汎用テレビに搭載されることは稀です。
実務的な使い方のヒント
- 古いDVDプレーヤーやビデオ機器を使う場合、S端子を使えばコンポジットより確実に見栄えが良くなります。特に文字や細い輪郭が見やすくなります。
- 現代のテレビにS端子入力が無い場合は、S端子→HDMI変換アダプタを使ってデジタル化・アップスケーリングする方法が一般的です。ただし変換品質には差があるため安価なものは色ズレやノイズが増えることがあります。
- ゲーム機のレトロ映像を記録・配信する場合、S端子出力を備えたオリジナル機器と高品質なキャプチャ機器を組み合わせるとノイズが少ないソースを得られます。
まとめ
S端子は「輝度と色差を分けて送る」シンプルかつ効果的なアナログ映像伝送方式で、コンポジットよりも高い画質を低コストで提供しました。ただし色解像度や帯域幅は限られており、コンポーネントやデジタル(HDMI)に比べると性能面で劣ります。今日ではHD化・デジタル化の波で搭載機器は減りましたが、レトロ機器の扱いやSDソースをできる限り良く残したい場面では今なお有用なインターフェースです。
参考文献
- S端子 - Wikipedia(日本語)
- S-Video - Wikipedia(English)
- S-Video pinout — pinouts.ru
- Component vs S-Video — RTINGS (比較解説)
- ITU-R Recommendations — (色信号・標準の技術文書)


