リフレッシュレート完全ガイド:基礎知識からVRR・fps・実践設定まで

リフレッシュレートとは何か — 基礎の理解

リフレッシュレート(refresh rate)とは、ディスプレイが1秒間に画面の表示を何回更新するかを示す指標で、単位はヘルツ(Hz)で表されます。たとえば「60Hz」は1秒間に60回、「144Hz」は1秒間に144回画面を描き変えることを意味します。リフレッシュレート自体はディスプレイ側の物理的な更新能力を示す値で、表示コンテンツ(ゲームや動画)側の「フレームレート(fps)」とは厳密には別の概念です。

リフレッシュレートの仕組み

ディスプレイは一定周期で内部の走査回路(ドライバ)を使い、パネル上の各画素に電圧を与えて色を表示します。この「周期的に更新する」という挙動がリフレッシュレートです。一般的な液晶(LCD)や有機EL(OLED)など、パネルの種類によって更新方法や見え方に差が出ます。

  • LCD(液晶): 多くは「サンプル・アンド・ホールド」方式。フレーム表示中は画面が常に点灯し続けるため、眼球が動くと残像に見える「モーションブラー」が生じやすい。
  • OLED(有機EL): 各画素が自己発光するため応答速度は速いが、やはり表示を継続する方式では動きに対して残像が発生し得る。短いパルス(スタブ表示)を用いることでモーションブラーを軽減する機種もある。

リフレッシュレートとフレームレート(fps)の関係

ユーザー体験(滑らかさ、遅延、ティアリングなど)はリフレッシュレートとコンテンツ側のフレームレートの組み合わせで決まります。基本的な関係性は次の通りです。

  • GPUの出力fpsがディスプレイのHzに近い(または等しい)と、表示がスムーズに見える。
  • fpsがHzを超えると、ディスプレイが更新を追えない場合は「ティアリング(画面の切断)」が発生する。これを防ぐために垂直同期(Vsync)やVRR(可変リフレッシュ)技術が用いられる。
  • fpsがHzを下回ると、同じフレームが複数回表示されるか、またはフレームドロップやジャダー(コマ落ち)が生じる。

たとえば、GPUが120fpsを出力し、ディスプレイが60Hzならば1秒間に120フレームあるものが60回しか表示されず、同じフレームが2回ずつ表示されるケースが多く、描画と表示のタイミングによってティアリングや遅延が発生します。一方、ディスプレイが120HzならGPUの出力により忠実に近い表示が可能です。

可変リフレッシュレート(VRR)と同期技術

VRR(Variable Refresh Rate)は、ディスプレイ側の更新頻度をGPUの出力fpsに合わせて動的に変化させる技術で、ティアリングを防ぎつつ低遅延を実現します。代表的な実装には以下があります。

  • NVIDIA G-SYNC: ハードウェアモジュールを含むプロプライエタリ技術(初期)。近年はモジュール非搭載の「G-SYNC Compatible」も増加。
  • AMD FreeSync: Adaptive-Sync(VESA)をベースにした技術で、DisplayPortやHDMIでの可変同期に対応。
  • HDMI VRR: HDMI 2.1で公式に追加されたVRR。家庭用ゲーム機(PlayStation 5、Xbox Series X/S)や最新GPUが対応。

VRRは低fps領域での「カクつき」や高fpsでのティアリングを同時に抑制するので、特にゲームにおいて有効です。一部のディスプレイは「LFC(Low Framerate Compensation)」を備え、fpsがディスプレイの可変下限を下回った場合に自動でフレームの複製を行い滑らかさを保ちます。

リフレッシュレートが体感に与える影響

リフレッシュレートを上げることで得られるメリットは主に次の点です。

  • 動きの滑らかさ: 高Hzは高速移動中のオブジェクト表示が細かく更新されるため視認性が向上する。
  • 入力遅延の低下: 同じフレームを待つ時間が短くなるため、入力→画面反映までの遅延が減る傾向にある。
  • 視認性の向上: エイミングや高速操作の精度向上など、特にFPSや対戦ゲームで有利。

ただし人間の知覚には限界があり、リフレッシュレートの向上は「逓減する効果」を持ちます。60Hzから120Hzにした際の変化は分かりやすいですが、240Hzから360Hzの差は一般ユーザーには判別が難しい場合もあります。加えて、体感の差は視覚だけでなく使用目的(ゲーム、動画、業務)や個人差、視力、慣れにも依存します。

パネル応答速度とリフレッシュレートの関係

リフレッシュレートだけでなく「応答速度(response time)」も重要です。応答速度は画素がある色(電圧)から別の色に変化するまでの時間で、主にms(ミリ秒)で表されます。リフレッシュサイクルが短くても応答速度が遅いと前フレームの色が残り、動きの輪郭が滲む(ゴースト、モーションブラー)ことがあります。

典型的には、144Hzのディスプレイは1フレームあたり約6.94ms(1/144秒)で更新されます。応答速度がこの時間に対して十分速くないと、次のフレームに移る際に前フレームの残像が見えてしまいます。したがって高リフレッシュレートで真価を発揮させるには、低い応答速度がセットで求められます。

スタブ(短時間点灯)とサンプル・アンド・ホールド

「サンプル・アンド・ホールド」方式のパネルはフレームごとに画素を一定時間点灯し続けるため、眼球が追従する際の動的ぼけ(目の追従ブラー)が生じやすいです。これを軽減する手法として「バックライトのスタブ(短時間点灯)」や「黒フレーム挿入(BFI)」があります。短時間だけ光らせることで動きがよりクッキリ見え、同じHzでも体感の滑らかさが改善されますが、輝度低下やフリッカー(ちらつき)増加を招くことがあります。

映像制作・映画とリフレッシュレート

映画やドラマは伝統的に24fps(映画フィルム)や30fpsが多く、テレビ放送やネット動画では30fps/60fpsが一般的です。リフレッシュレートがこれらと一致しない場合(例:24fpsコンテンツを60Hzで表示)には、フレームの繰り返しやプルダウン(3:2プルダウンなど)を用いて再生します。この過程で「ジャダー」や「フレーム結合」といった違和感が生じる場合があります。映画の「フィルム感」を残したいか、滑らかさ重視にするかで設定を変えることがあります(例:TVのモーション補間機能など)。

インターフェースと帯域幅(主に実務上の注意)

高解像度+高リフレッシュレートを同時に使うには、ディスプレイ出力の帯域幅が重要です。代表的なインターフェース仕様は以下の通りです(概要)。

  • HDMI 2.1: 最大48Gbpsの帯域で、4K120Hzや8K60Hzをサポート(可変リフレッシュやVRRもサポート)。
  • DisplayPort 1.4: HBR3等の規格で高帯域を確保し、圧縮(DSC)を使用して4K120Hzや8K60Hzなども実現。
  • DisplayPort 2.0: 大幅に帯域が拡張され、未圧縮での高解像度・高リフレッシュ対応が強化(最大約80Gbps級の原理)。

(注)実機での対応はケーブル品質、GPU、モニタの仕様に依存します。例えば4K120Hzを実現するには、HDMI 2.1対応のGPUとモニタ、対応ケーブルが必要です。

ゲーム、業務、映像視聴における実践的アドバイス

  • ゲーミング用途:対戦系やFPSなら144Hz以上を推奨。プロや競技志向なら240Hzや360Hzを検討。ただしGPU性能が追いつかないと意味が薄れる。
  • 一般作業(ブラウジング、オフィス業務):60Hzでも十分。高Hzはスクロールやウィンドウ移動で快適だが、コスト/消費電力とのトレードオフを考慮。
  • 映像視聴:映画は24/30fpsが多いため、高Hzは必須ではない。むしろモーション補間(テレビの120Hz化技術)で「不自然な滑らかさ」が出ることがあるので好みに応じてオフにする。

リフレッシュレートを選ぶ際のチェックポイント

  • 用途(ゲームか映像か業務か)を明確にする。
  • GPUの性能がターゲットのリフレッシュレートに追いつくか確認する(例:144Hzで快適に動かすにはGPUがゲームで安定した144fpsを出せるか)。
  • モニタの応答速度、入力遅延、可変リフレッシュ技術の対応有無を確認する。
  • 用途によってはスタブやBFIなどの低残像機能を好むかどうかを確認する(輝度やフリッカーの影響も考慮)。
  • 接続インターフェース(HDMI/DisplayPort)のバージョンやケーブル品質をチェックする。

よくある誤解と注意点

  • 「Hzが高ければ無条件に良い」は誤り。応答速度や映像ソース、GPU性能とのバランスが重要。
  • モニタの表記(例:“240Hz”)は理論上の最大値であり、設定や接続によってはその性能を発揮できない場合がある。
  • 高Hzは消費電力や発熱の増加につながることがある。特にノートPCではバッテリー持ちに影響する。
  • 動画コンテンツのfpsが低い(例:24fps)の場合、いくらディスプレイ側を高Hzにしても「元の映像のフレーム数」は変わらないので滑らかさの向上には限界がある。

計測・検証方法(簡易)

リフレッシュレートやフレーム表示の挙動を検証する方法はいくつかあります。

  • モニタのオンスクリーンディスプレイ(OSD)でHz表示が可能な機種もある。OSやドライバの設定と合わせて確認する。
  • フレームカウンター(ゲーム内FPS表示や各種ベンチマークツール)でGPU出力fpsを計測する。
  • 高速度カメラやフォトダイオード+オシロスコープで物理的なフリッカーやスタブのタイミングを測る(専門的)。
  • ティアリングやスタッタ(カクつき)は実際にゲームやスクロール動画を見て体感確認するのが早い。VRRのオン/オフで比較するのが有効。

まとめ

リフレッシュレートは「ディスプレイが1秒間に画面を何回更新するか」を示す基本的な指標で、滑らかさ、入力遅延、ティアリングなど表示体験に直接影響します。一方で、最終的な表示品質はリフレッシュレートだけで決まらず、フレームレート、応答速度、パネル方式、同期技術、接続帯域など複数要素の組み合わせで決まります。用途に応じた適切なHzの選択と、周辺ハードウェアとのバランスが重要です。

参考文献