水平同期(H-sync)とは何か?仕組み・パルス幅・現代規格までを徹底解説
水平同期とは — 概要
水平同期(すいへいどうき、英: horizontal synchronization、略してH-sync)は、主に映像信号におけるタイミング制御の一要素で、画面の各走査線(ライン)の開始タイミングを示す同期信号です。古典的なブラウン管(CRT)ディスプレイの走査を起点に発展した概念で、モニタやプロジェクタ、カメラ、放送機器などで正しいライン単位の描画やサンプリングを行うために不可欠です。
技術的な背景と基本動作
映像は多くの場合、横方向の走査(水平走査)と縦方向の走査(垂直走査)という二重のタイミングで構成されます。水平同期は「1ライン(1横線)」の始まりを示すパルスで、これを受けて表示装置は次のラインのピクセル描画を開始します。垂直同期(V-sync)はフレーム(あるいはフィールド)の先頭を示す信号です。
- 水平周波数(Hf):1秒あたりのライン数(Hz、kHz単位)。例:NTSCアナログでは約15.734 kHz。
- 垂直周波数(Vf):1秒あたりのフレーム(あるいはフィールド)数(Hz)。例:標準的な60 Hz前後。
- ピクセルクロック:1秒あたりの画素(ピクセル)数。水平総ピクセル数(可視+同期パルス+前後ポーチ)と関連している。
信号構成:パルス幅とポーチ(porch)
水平同期周りのタイムパラメータには「同期パルス幅(HSYNC pulse width)」「前ポーチ(front porch)」「後ポーチ(back porch)」「有効表示ピクセル数」が含まれます。例えばVGA規格の代表例 640×480@60Hz(VESA)のタイミングは、ピクセルクロック25.175 MHz、水平総ピクセル800、可視640、HSYNC幅96、前ポーチ16、後ポーチ48といった値が規定されています。これにより水平周波数は約31.469 kHz、垂直周波数は約59.94 Hzになります。
アナログとデジタルの違い
アナログ時代(NTSC/PAL)では、水平同期は黒レベルよりも低いパルスとして映像ライン間に挿入され、映像信号の復調器がこれを検出して走査を合わせました。SD(標準画質)放送では「ブラックバースト(Blackburst)」が基準信号として使われます。
デジタル映像インターフェース(VGAの同期信号、HDMIやDVIの平行RGB時代)は依然としてH/V同期をサポートしますが、HDMI/DVIのようなパケット化・TMDS方式ではピクセルデータと制御信号(DE:Data Enable、もしくは同期情報)が組み合わされ、従来のアナログ同期パルスと同等の役割を果たします。HD/SDの放送やスタジオ機器では、より高精度な「トライレベル同期(tri-level sync)」が用いられます。これはHD信号向けに設計された、高周波で双方向の同期パルスです。
同期の目的と問題点(ジッタ、スキュー、ティアリング)
水平同期はラインごとの位置ズレを防ぎ、安定した画像を得るために不可欠です。しかし、同期が不安定だと以下のような問題が発生します。
- ジッタ:同期パルスの時間的揺らぎ。ラインの波形が縦にぶれる原因になる。
- スキュー(位相ズレ):複数の信号ライン(例:RGB各色や複数カメラ)間の同期ずれ。色ずれや線の歪みを引き起こす。
- ティアリング:垂直同期がGPUとディスプレイで合わないと、フレーム境界で画面が割れて見える問題(主に垂直同期の問題だが、水平同期タイミングと絡むこともある)。
放送・プロフェッショナル用途での同期(Genlock、Blackburst、Tri-level)
複数のカメラやビデオ機器を厳密に同期させる必要がある場面(ライブ制作、マルチカメラ収録)では、外部同期源に機材を合わせる「Genlock(generator locking)」が用いられます。SDではBlackburst(ブラックバースト、水平同期を含む)を、HDではTri-level sync(トライレベル同期)を外部基準として配布します。これにより、フレームのずれやフレーム切替時の映像破綻を防げます。
水平同期とモニタ設計(垂直・水平リフレッシュ、対応周波数)
モニタは一定の水平周波数・垂直周波数の範囲に対応します。特に古いCRTや一部プロジェクタは水平周波数の上限・下限に敏感で、非対応のタイミング信号での表示を拒否することがあります。フラットパネルやLCD/LEDモニタは多くの場合スキャンコンバータやスケーラを内蔵し、受けた信号を内部で再タイミングするため互換性が高くなっていますが、入力信号のタイミング情報(例えばDE vs H/V syncの有無)は重要です。
現代の関連技術:VSync、Adaptive Sync、DE(Data Enable)
GPU・ゲーム用途では、垂直同期(VSync)やG-Sync/FreeSyncといった技術が画面のティアリングやスタッタ(カクつき)対策として知られています。これらは垂直方向の表示タイミングをGPUのレンダリングタイミングに合わせる仕組みですが、内部的にはH/Vのタイミング整合(水平同期の安定)も重要です。
一方、カメラセンサや一部のデジタル映像伝送(例えばMIPIや一部のFPGAインターフェース)では、HSYNC/VSYNCの代わりにDE(Data Enable)信号を使って「有効な画素データ領域」を示す設計が主流となり、同期の扱いが簡素化されています。
ITシステムにおける「水平同期」の別の意味
IT分野では「水平同期」を映像以外の文脈で使うこともあります。たとえば分散システムやデータベースの「水平スケーリング」環境で複数ノード間の整合性を保つための同期(レプリケーションタイミングやキャッシュ整合性)を指して比喩的に「水平同期」と呼ぶ場合があります。この場合は、ライン単位の同期ではなく「横方向(複数インスタンス間)の同期・調整」を意味します。実務上は「レプリケーション」「コンシステンシーモデル」「分散トランザクション」といった明確な用語で説明する方が誤解が少ないです。
実務上のポイントとチェックリスト
- 信号規格確認:入力(解像度、リフレッシュ)と出力機器の対応範囲を確認する。
- 同期源の選定:スタジオ用途ならBlackburst/Tri-level、一般的な外部同期ならGenlockの使用を検討する。
- 配線・インピーダンス整合:同期信号は高周波のタイミング情報なので、ケーブルや終端の不適合がジッタや反射を招く。
- テスト波形の確認:オシロスコープや波形モニタでHSYNC/VSYNCの幅・ジッタを計測する。
まとめ
水平同期は映像信号のライン始点を規定する重要なタイミング要素で、正しい同期が取れていないと画面の乱れや色ズレ、タイミング不整合が発生します。アナログ時代の同期パルスからデジタル時代のDEやトライレベルまで、用途に応じた同期方式を理解し、適切に扱うことが品質の良い映像伝送・制作には欠かせません。また、IT分野の別文脈で使われる場合は意味が異なるため、用語の使い分けに注意してください。
参考文献
- 水平同期 - Wikipedia(日本語)
- Video timing - Wikipedia (English)
- VGA timing - Wikipedia (English)
- Genlock - Wikipedia (English)
- Tri-level sync - Wikipedia (English)


