アルヴィン・ルシアーの実験音楽入門:録音が作曲になる空間音響の代表作と聴き方ガイド

序文:Alvin Lucier とは何者か

Alvin Lucier(アルヴィン・ルシア、1931–2021)は、音響の物理現象を素材にした実験音楽/サウンドアートの先駆者です。楽器や演奏技術の巧みさよりも「空間」「共鳴」「反復」「音と環境の相互作用」といったプロセスそのものを作曲の中心に据えることで知られます。代表作の多くは「録音そのものが作曲の一部」になっており、レコード(LP/CD)で聴く際も、その制作過程や演奏環境の差が音像に大きく影響します。本コラムでは、録音を軸におすすめ作品と聴きどころ、入手や選盤のポイントを深掘りします。

おすすめ作品(聴くべき代表作とレコードでの選び方)

  • I Am Sitting in a Room(代表作)

    1969年作。話し言葉のテキストを自室で録音し、その録音を何度も再生→再録音することで、部屋の共鳴特性が残響成分を強調し、元の言葉は最終的に消え、固有振動数による「音の風景」だけが残るという、作曲/記録の過程を可聴化した作品です。

    おすすめレコードの探し方:多数のコンピレーションやリイシューに収録されています。初期の録音やLucier自身が監修した版を優先すると、作為と偶然のバランスが明瞭に聴き取れます。演奏回数(何回重ねたか)、録音された「部屋」の性質(サイズ、素材)が違う別テイク群を聴き比べると、作品の思想がより深まります。

    聴きどころ:最初は言葉を追い、繰り返すごとにフォルマントやピークがどう変化するかを観察してみてください。中盤以降は「語意の消失」と「音色変容」が主題になります。

  • Music for Solo Performer(初期の実験的インスタレーション)

    心電図や脳波などの生体信号を増幅・変換して音響イベントを引き起こす作品群に属します。演奏者の身体的状態が直接音響に影響するため、録音ごとに非常に異なる結果が得られます。

    おすすめレコードの探し方:この種の作品は「ライブ記録」または「研究記録」として収められることが多いです。演奏者や録音環境の情報が明記された版(解説のあるCDブックレット)を選ぶと良いでしょう。

    聴きどころ:音の発生メカニズム(トリガー)に注目すると面白いです。人間の生体信号がそのまま楽器化される瞬間を聴き取ってください。

  • Music on a Long Thin Wire(持続音と物理系の音楽化)

    長い金属線を電気的に励振し、増幅やフィードバックによって微細な変化を育てるインスタレーション作品です。非常に低周波から高調波まで広がる、時間のかかる音の変容が特徴です。

    おすすめレコードの探し方:インスタレーションの録音はサイズやマイク配置で印象が変わります。原理がわかる解説や写真が付いたリリースを選ぶと理解が深まります。LPで長時間のワイドレンジを楽しめる版が出ていることもあるので、音の物理的な質感を重視するならアナログ盤も検討してください。

    聴きどころ:細かなスペクトル変化を追うため、時間をかけて聴くこと。音の「動き」や体内振動としての低域も重要です(再生環境により印象が大きく変わります)。

  • Still and Moving Lines of Silence in Families of Hyperbolas(後期の空間作品)

    Lucier の後期を代表する構造主義的で空間依存の強い作。弦楽器群や拡張音色と空間の相互作用を細部にわたって扱います。録音によっては非常にクリアで構造が把握しやすい版もあれば、会場響が強調される版もあります。

    おすすめレコードの探し方:演奏団体や録音会場の情報が鍵。室内楽的な演奏とインスタレーション寄りの録音で聴こえ方が変わるため、複数テイクを比較することをおすすめします。

    聴きどころ:音と沈黙(無音)を区別して聴く。ルシアーは「無音の存在」を作曲語法に組み込むので、間(ま)の取り方に注目すると作品の構造が見えてきます。

  • その他の短編・ライブ録音(コンピレーション盤)

    Lucier の短い実験的作品はコンピレーションやレーベルのシリーズに散在しています。1枚で複数の時期・手法を比較できる盤は入門者にも最適です。

    おすすめレーベル:Lovely Music、New World Records、Mode Records、HatHut ほか。各レーベルは解説や資料が充実している場合が多く、版による差異の注記があると選びやすいです。

選盤と購入時のチェックポイント

  • 収録テイクと録音情報:同じ作品でもテイクや録音場所が違うと内容が大きく変わります。解説書(ブックレット)に録音年月・場所・演奏条件が明記されているか確認しましょう。

  • 監修の有無:Lucier 自身が監修した再発/編集盤は意図を尊重している可能性が高く、解説も的確なことが多いです。

  • ライヴ録音 vs スタジオ録音:インスタレーション的作品は会場音や装置の物理性が核心なので、ライブ録音が面白い一方、スタジオ録音は意図を整理した「作曲の骨子」を聴き取りやすい場合があります。どちらが好みかを意識して選ぶと良いでしょう。

  • フォーマット(LP / CD / デジタル):低域や持続音の質感はフォーマットで感じ方が変わります。長時間の微細変化を味わうなら高品質なオーディオ環境で聴くことをおすすめします。

聴き方と鑑賞のコツ

  • プロセスを追体験する:Lucier の多くの作品は“過程”そのものが音楽です。最初から結果だけを期待するのではなく、変化の一歩一歩を追っていく聴き方が合います。

  • 比較試聴:異なる録音を並べて聴くと、部屋や機材、演奏の違いが明瞭になります。例えば「I Am Sitting in a Room」の複数テイクを比較すると、共鳴の強調のされ方が面白く見えます。

  • 再生環境に注意:Lucier の作品は低域や残響の再現性に依存するため、ヘッドフォンとスピーカーで印象が大きく異なります。可能なら両方で聴き分けてください。

  • 解説を読んでから聴く/読まずに聴く:事前に概念を知ると理解は深まりますが、先入観なく聴くことで“音そのもの”の発見があるため、両方の聴き方を試すことを勧めます。

コレクター向けの実践的アドバイス

  • 初期プレス(オリジナル)を狙う価値:初期のLPや初出CDは、音楽史的価値が高い場合があります。ただし音質面では必ずしも最新リマスターが上とは限らないため、試聴可能ならサンプル音を比較しましょう。

  • ブックレット/スコア/写真の有無:装置図面や会場写真、作曲者の短文が添えられている版は、聴取体験を補完してくれます。それらが保存されているリリースを優先すると良いです。

  • ライブ版の入手:Lucier の作品はライブ音源に独特の魅力があるため、コンサート録音やフェス音源もチェックしましょう(ただし非公式録音は音質差が激しいです)。

まとめ

Alvin Lucier の魅力は「音がどう生成・変化するか」を可聴化した点にあります。レコードで聴く際は「どのテイクか」「どのような環境で録られたか」を選ぶことが鑑賞体験を決定づけます。まずは「I Am Sitting in a Room」「Music for Solo Performer」「Music on a Long Thin Wire」あたりを軸に、複数の録音を比較しながら聴くことをおすすめします。

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参考文献