キャシー・バーベリアンの世界を聴く:現代音楽の声を拓く入門から深掘りまで必聴レコード完全ガイド
はじめに — キャシー・バーベリアンとは
キャシー・バーベリアン(Cathy Berberian, 1925–1983)は、アヴァンギャルド/現代音楽の歌手として最も個性的かつ影響力のある存在のひとりです。古典的な声楽技術をベースにしながら、民謡、即興的な声の効果、コミック的発声や口語的表現までを自在に操り、ルチアーノ・ベリオをはじめとする作曲家たちと近い協働関係を築きました。本コラムでは、彼女の代表的録音(レコード)を厳選して紹介し、各作品の聴きどころや背景、入門→深堀の順に聴くおすすめ順などを解説します。
おすすめレコード(入門〜必聴)
1. Folk Songs(ルチアーノ・ベリオ作曲、キャシー・バーベリアン歌唱)
概要:民族歌謡(英米やバスク、アルメニアなど)の短い歌をベリオが編曲した作品集。バーベリアンのために書かれ、彼女の表現の幅と“語りかけるような歌”の魅力が端的に示されています。
聴きどころ:伝統的なメロディを現代的なアレンジで包みながらも、声のニュアンスや言語感が直接心に届きます。歌唱の自然さ(語りと歌の混在)、色彩的なアンサンブルとの絶妙なバランスは、バーベリアンの資質が最もわかりやすく表れた一枚です。
2. Stripsody(キャシー・バーベリアン作/演奏)
概要:バーベリアン自身が作曲した声楽作品の代表。コミック・ストリップの擬音語やマンガ的効果を素材にした、ユーモアと技巧が同居する実験的トラックです。
聴きどころ:音楽語法というより“声のパフォーマンス芸術”として捉えると良いでしょう。音そのもののリズム感、口の動きや発声の多様さを楽しめます。初めて聴く人は驚き、そして笑い、やがてその完成度に感嘆するはずです。
3. Sequenza III(ルチアーノ・ベリオ作、バーベリアンに捧げられた作品)
概要:ベリオの「Sequenza」シリーズの一作で、女性声のために書かれた高度に技巧的な独唱曲。バーベリアンのために書かれ、彼女によって初演・録音された重要レパートリーです。
聴きどころ:声の持つさまざまな音色、発声法、瞬間的な表現の変化が求められる作品。現代音楽の“声”表現の可能性を提示する傑作で、バーベリアンの表現力と解釈が作品に密接に結びついています。
4. カタログ/アンソロジー(ベスト盤・コンピレーション)
概要:スタジオ録音やライブ、ベリオ作品以外の歌曲・アヴァン作品を集めた編集盤。バーベリアンの多彩な側面を一枚で俯瞰するのに便利です。
聴きどころ:(1)民謡的な素朴さ、(2)現代曲における実験性、(3)歌唱的な演歌・カンツォーネ等の親密な表現、という3つの側面が同居していることが感じられます。入手しやすいベスト盤で全体像を掴むのがおすすめです。
聴き方の提案:入門から深堀までの順番
- まずは「Folk Songs」:メロディに親しみやすく、バーベリアンの声の魅力がストレートに伝わります。
- 次に「Stripsody」:実験的だがエンタメ性があるので抵抗が少ないです。
- 続いて「Sequenza III」:技術的・概念的に挑戦的な作品へ。バーベリアンの演奏が歴史的資料として貴重です。
- 最後にコンピレーションやライブ録音を漁る:彼女の多面性(ポップ寄り、民謡、現代音楽のクロスオーバー)をより深く味わえます。
聴きどころ・背景知識(鑑賞を深めるポイント)
- 「声=楽器」ではなく「声=表現装置」:バーベリアンは声を純粋なピッチや美音だけでなく、テクスチャーや言語的微妙さ、コミカルな効果まで広げました。
- ベリオとのコラボレーション:ベリオは妻であり共同研究者でもあり、二人の協働は現代音楽における“声の可能性”を大きく押し広げました。ベリオ作品はバーベリアンのために細部が設計されています。
- 言語と発音の扱い:母語(英語、イタリア語)の違いや方言的表現を巧みに利用します。歌と言葉の境界が曖昧になる瞬間を楽しんでください。
- 録音年代を意識する:60年代〜70年代の録音が多く、録音技術や編集方針が現代とは異なります。演奏の“生々しさ”や時代性も聴きどころです。
どの盤を買う/聴くべきか(入手のヒント)
- まずはストリーミングで「Folk Songs」「Stripsody」「Sequenza III」それぞれのバーベリアン版を探すと、彼女の“声の辞書”が把握できます。
- コレクションとしては、信頼できるレーベルから出ているアンソロジー盤や、ベリオ作品集に収録されているバーベリアン演奏を選ぶと良いでしょう。初出LPのオリジナルプレスは音色のニュアンスが魅力ですが、まずは良質なCD/配信のリマスター盤で十分に楽しめます。
- ライナーノーツ(解説)を読むと、曲の背景や発音上の指示、作曲者と歌手の関係性がよく分かり、鑑賞が深まります。
聴き手にとっての価値
キャシー・バーベリアンの録音は、単なる“珍しい演奏”ではなく、20世紀の声の表現を再考させる重要な資料です。民謡的な親しみやすさから、アヴァンギャルドな実験まで幅広く網羅しており、「声」で何が表現できるのかを学ぶうえで非常に示唆に富んでいます。現代音楽ファンはもちろん、歌ものや演劇的表現に興味があるリスナーにも強くおすすめします。
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