Fernando De Lucia の録音史と歌唱技法:ベルカントとヴェリズモを結ぶ19世紀末テノールの聴きどころ
Fernando De Lucia — 概要と時代的背景
Fernando De Lucia(一般に伝えられる生没年:1860–1925)は、19世紀末から20世紀初頭に活躍したイタリアのテノール歌手です。ベルカントの伝統を受け継ぎつつ、当時勃興した「ヴェリズモ(現実主義)オペラ」のレパートリーにも取り組んだ稀有な存在で、初期レコード(78回転盤)に残された膨大な録音によって、現在でも研究・鑑賞の対象となっています。
De Lucia の魅力 — 聴きどころ
- フレージングと表現:ポルタメント、ルバート、細やかな音色変化を多用した表現が特徴。旋律を歌いこなす「語りかける」ようなスタイルに注目してください。
- ベルカント的装飾:19世紀の歌唱法の延長としての装飾やフェイク(装飾的即興)が多く、当時の歌唱習慣を知る“生きた資料”です。
- レトリック的な演技力:小さなフレーズの間合い、語尾の落とし方など、台詞的な作りが効果的に用いられています。録音技術の限界を乗り越えて感情を伝えようとする力が感じられます。
- ヴォイスの色合い:現代の「点での美声」ではなく、やや地声寄りの温かみと独特の震えを持つ声質。録音での音色変化は当時の歌唱習慣そのものといえます。
おすすめレコード(再発盤を中心に)
以下は、Fernando De Lucia の歌唱を体系的に聴ける入門/研究向けのリストです。いずれも当時の78回転盤を集成・復刻したCD/デジタル盤が中心で、解説や音質補正が施された版を選ぶと聴きやすくなります。
- 「The Complete Fonotipia Recordings(あるいは“Complete Recordings”集)」
理由:De Lucia は Fonotipia(等)のスタジオで多くの録音を残しています。これらを全集的にまとめた復刻は、オペラ・カンツォーネ・ネアポリタン歌曲など彼の多面的な魅力を一望できます。音源ごとに録音年代順に並べられている盤を選ぶと、声の変化やレパートリーの移り変わりを追跡できます。
- 「代表的アリア集(例:パリアッチ/ロッシーニ/ドニゼッティなどのアリアを集めた選集)」
理由:個別の有名アリア(例えばヴェリズモ系のドラマティックな場面やベルカントの名旋律)を通じて、De Lucia のフレージングや装飾の使い方を集中して聴けます。短時間で彼の芸風を把握するのに便利です。
- 「ネアポリタン歌曲/カンツォーネ集」
理由:オペラ以外に多数録音した民謡・カンツォーネ類は、De Lucia のローカルな表現や発音、親密な歌い方がよく分かるジャンルです。歌唱の“素顔”に近い面を味わえます。
- 音源復刻を手がけるレーベルの選択(Marston、Symposium、Pearl、Naxos Historicalなど)
理由:復刻時のノイズ除去やEQ、出典情報の注記がしっかりしているレーベルを選ぶと、当時の音のニュアンスを損なわずに聴けます。解説ブックレットで録音年やスタジオ情報、曲目の来歴を確認できる点も重要です。
推薦トラック(聴く順の提案)
初めて聴く場合は、次のような順番で聴くとDe Lucia の全体像が掴みやすいです。
- 短めのネアポリタン歌曲(親しみやすい表現と発音を確認)
- ベルカント系アリア(装飾やフレージングの特徴に注目)
- ヴェリズモ系の劇的なアリア(ドラマ性の持たせ方と発声の変化を比較)
- 全集や年代順編集盤(時代を追って声質・表現の変遷を聴き比べ)
聴き方のポイント(細部を楽しむために)
- ポルタメントの使い方:音から音への滑らかな移行をどう使っているか。現代的な“等速移行”と違い、感情的な引っ張りを表現に用いることが多いです。
- 言葉の掛け方(語尾・語頭の処理):語尾の落とし方や語頭のアタックの違いに注目すると、De Lucia の台詞的表現が見えてきます。
- 装飾(フェイク)と即興:同じアリアを別録音で比較し、装飾の違いを楽しんでください。装飾は固定ではなく、その場の表現として変化します。
- 録音年代の違いを読む:初期録音に比べると、晩年の録音では声の厚みや発音に変化が出ます。録音技術の差も踏まえて聴き分けると面白いです。
De Lucia を聴く意義 — 現代のリスナーへ
Fernando De Lucia の録音は「当時の声楽実践」を伝える一次資料として非常に価値があります。現代の美声中心の評価基準とは異なる歌唱慣習(装飾、言葉の処理、感情表現の組立て)を学ぶことで、19世紀から20世紀初頭の歌唱文化の豊かさと多様性を実感できます。特に声楽研究者、演出家、指導者、古楽・歴史的実践に関心のある歌手には重要な参照点となるでしょう。
まとめ — まずは全集か良質な選集を
初めてならば「全集的復刻盤」か、信頼できるレーベルによる選集を入手するのが手っ取り早い方法です。そこから気に入った録音を個別に深堀りすると、De Lucia の芸風や当時の歌唱慣習をより豊かに理解できます。
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参考文献
- Fernando De Lucia — Wikipedia
- Fernando De Lucia — AllMusic
- Fernando De Lucia — Naxos Classical
- Marston Records — historical reissue label(復刻盤を探す参考)
- Grove Music Online(Oxford) — 歴史的歌手の概説(要契約)


