John McCormack テノールの魅力と録音史—アイルランド出身の名歌手を今聴く理由と代表曲ガイド
プロフィール — John McCormackとは
John McCormack(ジョン・マコーマック、1884年–1945年)は、アイルランド出身のテノール歌手で、20世紀前半に国際的な人気を博した歌手の一人です。アイルランドの伝統歌曲からオペラのアリア、パブリックコンサート向けの大衆歌まで幅広いレパートリーを持ち、当時の最新録音技術を積極的に活用して多くのレコードを残しました。声の美しさと表現の繊細さで、クラシックと大衆の橋渡しをした存在として今も聴き継がれています。
生い立ちとキャリアの概観
- 出自と音楽教育:アイルランドで育ち、幼少期から教会や合唱で歌う機会を得ながら音楽的基礎を築きました。やがてプロの歌手としての道を歩み、オペラ歌手やコンサート歌手として活動の幅を広げていきます。
- 国際的成功:イギリス、アメリカを含む英語圏やヨーロッパ各地でのリサイタル、オペラ出演を通して名声を高めました。舞台芸術だけでなくレコード録音でも高い評価を受け、当時の主要レコード会社に多数の録音を残しました。
- 録音史に残る存在:78回転盤の時代に多くの名演を残し、その録音は後年にリマスターされて再発され続けています。商業的な成功と芸術的評価を両立させた稀有な歌手です。
声質と表現の特徴
- きめ細やかなレガート:息の流れを重視した滑らかな接続(レガート)で、フレーズ全体を一息で歌い上げるような安定感があります。これがメロディの流れの美しさを際立たせます。
- 明晰な発音と語りかける表現:英語詞・アイルランド語やイタリア語の発音においても言葉が鮮明で、歌詞の意味が聴き手に直接届くような「語りかける」歌唱を得意としました。
- 温度感のある響き:鋭さよりも温かみを感じさせる音色で、劇的な大声量というよりは「響きの美しさ」と「感情の細やかさ」で聴かせます。
- 表現の均衡感:感情表現に過剰なデコレーションを加えず、抑制の効いた表現で楽曲の情緒を丁寧に提示するタイプの歌手です。
レパートリーの広がりと代表曲
McCormackは特定ジャンルに偏ることなく、次のような領域で活躍しました。
- アイルランド民謡・愛唱歌:「Danny Boy(Londonderry Air)」や「I'll Take You Home Again, Kathleen」など、アイルランド系・英語圏の愛唱歌で深い共感を呼びました。彼の歌は移民社会やアイルランド愛好家に特に支持されました。
- アートソング/セレナード:ドイツ語やフランス語のリートほどではないものの、英語のアートソングやイタリア語のカンツォーネなどを丁寧に解釈しました。
- オペラのアリア:フルオペラ歌手として主要役を山場に立つタイプではないものの、オペラアリアも安定して歌い、舞台芸術の文脈でも評価されました。
代表的に挙げられる曲(録音で特に知られるもの)は、Danny Boy、I Hear You Calling Me、Because、The Last Rose of Summer、I'll Take You Home Again Kathleen などです。これらは彼の温かな表現と卓越したフレージングが良く伝わる名演として繰り返し紹介されています。
録音と技術的業績
- 録音の先駆者:マイクロフォン録音初期の時代に数多くの録音を残し、その音楽的価値と技術的な完成度で記録史に名を残しました。
- 商業的影響:彼のレコードは当時の大衆音楽市場で広く売れ、クラシックの聴取層を拡大する役割も果たしました。
- 現代での再評価:初期録音を現代の技術でリマスターしたアルバムが複数出版され、当時の歌唱の魅力が再び注目されています。多くのレーベルが選集や全集を発売しているため、入門者から研究者までアクセスしやすい状況です。
John McCormackの魅力 — なぜ今も聴かれるのか
- 感情のダイレクトさ:技巧的に派手ではなくとも、聴き手の心情を掴む直接的な表現力があります。歌詞の一語一語が丁寧に届けられるため、時代を超えて共感を呼びます。
- 幅広いレパートリーでの一貫性:民謡からアートソング、オペラ断片まで、ジャンルを超えて一貫した美意識で歌い上げる点は現代のリスナーにも魅力的です。
- 録音史的な価値:録音媒体の黎明期に高い芸術性を残した点で、音楽史の重要な人物としても注目されます。音の古さを超えて内容が評価される稀有な例です。
- 文化的連続性:アイルランド文化や英語圏の歌唱伝統と強く結びついており、特にアイルランド系コミュニティにとっては郷愁やアイデンティティの象徴の一人です。
聴きどころのガイド(初めて聴く人へ)
- まずは代表的な愛唱歌(Danny Boy、I'll Take You Home Again Kathleen、I Hear You Calling Me)を原曲の雰囲気で聞いて、声の温かさや語り口を確かめてください。
- フレーズの終わり方、息継ぎの位置、母音の伸ばし方に注目すると、彼の呼吸法やフレージングの巧みさがよく分かります。
- 当時の録音では音響が現代音源と違うため、リマスター版で聞くと聴感が向上します。全集や選集のライナーノーツを読むと当時の背景や録音事情も理解しやすくなります。
代表的なCD/リイシュー(入手の目安)
- 「John McCormack — The Complete Recordings」タイプの全集(主要レーベルが過去録音を集成しているもの)
- 「The Essential John McCormack」「Great Recordings」などのコンピレーション盤(入門向け)
- 歴史的音源を収めたNaxos Historical、EMI、Marston、Pearlなどのリリース(レーベルによって選曲や音質の傾向が異なります)
影響と評価
McCormackは同時代の他の大テノール(例:Enrico CarusoやBeniamino Gigliなど)とは異なる方向性で人気を博しました。劇的な声で劇場を支配するタイプではなく、繊細な表現によって聴き手の心情を揺さぶる歌い手として位置づけられます。後年のシンガーやリスナーにとっては「歌の伝統」を現在に結びつける架け橋的存在であり、その録音は声楽研究や歴史的解釈を考える上でも重要な資料となっています。
まとめ — 聴く価値
John McCormackの魅力は、単に美しい声を持っていたことだけにとどまりません。言葉を大切にする姿勢、息づかいを活かしたフレージング、ジャンルを横断する柔軟性、そして録音という媒体に真摯に向き合った点が、今日でも彼の演奏を特別なものにしています。初期録音ならではの音色に慣れる必要はありますが、表現の純度や情緒の伝わりやすさは現代の聴取にも深い満足を与えます。
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参考文献
- John McCormack (tenor) — Wikipedia
- John McCormack — AllMusic
- John McCormack — Discogs
- Naxos(歴史的録音・解説の検索に便利)


