フレッチャー・ヘンダーソン入門:なぜ聴くべきかと時代別おすすめレコードで学ぶスウィングの源流
フレッチャー・ヘンダーソン入門 — なぜ聴くべきか
フレッチャー・ヘンダーソン(Fletcher Henderson, 1897–1952)は、1920〜30年代のジャズ/スウィングの発展に決定的影響を与えたバンドリーダー/編曲家です。彼のオーケストラは、その編曲様式(対位法的リフの重ね、管楽器セクション同士の掛け合い、ソロを生かす構成)を通じて、後の大編成ジャズ——ベニー・グッドマンやカウント・ベイシーらのスウィング・サウンドの土台を築きました。
本稿では「おすすめレコード」を軸に、時期ごとの聴きどころ、代表曲や注目演奏者、そしてレコード選びのポイントを深掘りします。ヘンダーソンの作品は多くが初期録音のため、どの編集(コンピレーション)を聴くかで音質や注釈の充実度が異なります。購入や鑑賞の際に役立つ視点も併せて紹介します。
おすすめレコード(期間別コンピレーション中心)
- 1923–1929:初期ホット・ジャズ期(小編成〜初期ビッグバンド)を聴く
おすすめ収録群:1923〜1929年録音をまとめたクロニカル/コンプリート・シリーズ。1924年にルイ・アームストロングが参加したセッションなど、単発の重要な録音が含まれる盤を選ぶとよいです。
聴きどころ:この時期はまだ「ホット・ジャズ」と呼ばれるダイナミックな小編成的アプローチと、徐々に拡張されてゆく編成感覚が混在。代表的なトラック(例:Sugar Foot Stomp、The Stampede 等)は、リズムの躍動感と個性的なソロが魅力です。
- 1930–1936:編曲家ドン・レッドマン(Don Redman)との協働期/ビッグバンド成立期
おすすめ収録群:1930年代初頭のコロンビア/ブルーバード等への録音を集めた編集。Don Redmanの洗練されたアレンジが際立つ時期で、後のスウィングの原型が明確になります。
聴きどころ:Riff(リフ)の重ね、セクション対比、ソロとアンサンブルの交代が巧み。Coleman Hawkins(テナー)のようなソリストの名演が散見され、ソロ表現の進化も楽しめます。代表曲の"Wrappin' It Up"(編曲技法の好例)など。
- Mosaicや豪華ボックス(全集系) — 深く掘るなら
Mosaic Records等の限定ボックスや、Chronological Classicsの全集は、音質・注釈(ライナーノーツ、年代順)ともに優れ、研究的に聴くには最適です。高価ですが、収録の網羅性・リマスタリングの質で一歩上の鑑賞体験が得られます。
- セレクト盤/ベスト盤 — 初めての一枚に
「The Essential Fletcher Henderson」や「Fletcher Henderson: Best of」タイプの編集盤は、入門に向く代表曲をコンパクトにまとめています。歴史的背景や代表的な演奏(アームストロング、ホーキンスら参加セッション)に素早く触れたい場合に便利です。
代表曲と聴きどころ(音楽的ポイント)
- Sugar Foot Stomp
ヘンダーソン楽団の初期ヒットで、ホット・ジャズ期の標準レパートリー。リフを前面に出したアンサンブルと、切れ味の良い個人ソロの対比がはっきりしており、“バンドとしての一体感”と“ソロの個性”を同時に味わえます。
- The Stampede
より大編成に向かう過程が感じられる曲。セクション・ワークのダイナミクス、打楽器やベースの推進力、管楽器の色づけに注目してください。
- Wrappin' It Up(および1930年代のスウィング曲)
Don Redman らと完成させたアレンジ技法の典型。リズムの刻み方、対旋律的なリフ、ソロのための余白づくり——スウィングに至る様子がよくわかります。
主要メンバー/ゲストに注目する聴き方
ヘンダーソン楽団は「一人のスターによるショー」ではなく、ソリストを育てる場としても機能しました。特に注目すべき人物:
- Don Redman(編曲・アレンジャー) — ヘンダーソン・サウンド成立に重要な役割を果たした人物。
- Louis Armstrong(トランペット:一部セッション参加) — 記念碑的なソロが残っている録音があり、ジャズ表現の転換点を示します。
- Coleman Hawkins(テナー) — モダンなテナー・ソロの先駆けで、ヘンダーソン時代の重要なソリスト。
購入・選盤のポイント(音質と注釈)
ヘンダーソンの録音は1920〜30年代のものが中心で、マスタリングや復刻の質が音楽体験を大きく変えます。選ぶ際のチェックポイント:
- 収録期間の網羅性:初期(1923–29)と1930年代を別々に集めたコンピレーションが多い。聴きたい時期を明確に。
- リマスタリングの方針:自然な残響感と楽器の輪郭を保つリマスターを選ぶと、アンサンブルの構造が見えやすい。
- ライナーノーツの充実度:録音年・メンバー表記・歴史的背景が詳しいものは学習・鑑賞に役立つ。
- 限定盤(Mosaic 等):音質・注釈で優れるが、入手性と価格に注意。
聴き方のアドバイス(深掘りポイント)
- セクションの「対話」を聴く:トランペット群 vs. トロンボーン群、サックス群の応答を意識すると編曲の妙がわかります。
- ソロとアンサンブルの「切替え」を追う:ソロを支えるリフやリズムがどう変化するかを聞き分けると構成力が理解しやすいです。
- 時代比較:1920年代録音と1930年代録音を並べて聴くと、スウィングへの移行が音像で実感できます。
聴くことで得られるもの — 影響と系譜
ヘンダーソンの音楽を追うと、単に「古き良きジャズ」を聴くだけでなく、現代のビッグバンドや編曲技術がどのように形成されたかを実感できます。彼の手法はリフの構築、セクションのレイヤリング、ソロと合奏のバランスといった要素で、ジャズ編成の基本を示しました。ベニー・グッドマンなど、後のスウィング期のバンドリーダーがヘンダーソンの編曲や楽譜を基にヒットを生んだことは有名です。
まとめ:まず何を買うべきか
- 入門:代表曲を集めた「ベスト/エッセンシャル」系コンピレーション。
- 深掘り:1923–1929、1930–1936 といった年代別のクロニカル/コンプリート盤。
- 研究・鑑賞の決定版:Mosaicや信頼できる全集シリーズ(ライナーノーツ重視)。
上記を踏まえ、まずは1枚のコンピレーションで代表曲を掴み、その後に年代別の網羅集や全集に手を伸ばすのが合理的です。
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参考文献
- Britannica: Fletcher Henderson
- AllMusic: Fletcher Henderson — Biography & Discography
- Red Hot Jazz / Syncopated Times: Fletcher Henderson (略年譜とディスコグラフィ)
- Discogs: Fletcher Henderson — Discography(各種復刻盤の参照に便利)
- Mosaic Records(高品質ボックスや全集の出版社)


