ベニー・グッドマンのスウィング史を深掘りする必聴名盤ガイド—初心者からコレクターまで対応
はじめに — 「キング・オブ・スウィング」ベニー・グッドマンとは
ベニー・グッドマン(Benny Goodman, 1909–1986)は、クラリネット奏者としてジャズとスウィングをメインストリームに押し上げた存在です。1930年代半ばから後半にかけてのビッグバンド/スモール・グループ両面での活動は、ジャズをコンサート・ホールへ導き、白人中心だった商業ジャズ界において黒人奏者を積極的に起用するなど、音楽的・社会的に大きな意義を持ちます。本稿では、初心者からコレクターまで満足できる「必携の1枚/必聴の音源」を歴史的背景や演奏上のポイントとともに深掘りして紹介します。
聴きどころの視点 — グッドマンを聴く前に押さえておきたい要素
クラリネットのリーダーシップ:グッドマンの音色、フレージング、即興の語法に注目してください。ビッグバンドでもソロが明瞭で、スモール・グループでは会話的なやり取りが聴けます。
アレンジの役割:フレッチャー・ヘンダーソンらが関わったアレンジは、ダンス・ホールのための構造とジャズ的即興を橋渡ししました。アレンジと即興のバランスを意識して聴くと理解が深まります。
歴史的文脈:1930年代の録音技術やライヴ慣習(例:デューラーションや編集)を踏まえると、同じ曲の別テイクの違いがよく分かります。
メンバーやゲストの存在:ライオネル・ハンプトン(ヴィブラフォン)、テディ・ウィルソン(ピアノ)、チャーリー・クリスチャン(ギター)らは、グッドマンのサウンドを大きく特徴づけます。
おすすめレコード(厳選)
以下はジャンル理解と演奏の醍醐味を同時に味わえる代表作・録音です。LPやCD、デジタル配信それぞれで入手可能な再発盤がありますので、入手のしやすさや音質を見て選んでください。
1) The Famous 1938 Carnegie Hall Jazz Concert(1938年ライヴ)
なぜ重要か:ジャズ史における象徴的なコンサート。ジャズを「コンサート・ホール」に持ち込み、ジャズの芸術性を広く認めさせた瞬間です。グッドマンのビッグバンドとスモール・グループ、さらには脇を固める豪華メンバーの演奏が収められています。
注目トラック・場面:
「Sing, Sing, Sing (With a Swing)」— ドラム(ジーン・クルーパ)の長尺ソロとバンドの熱狂的な掛け合い。
小編成のインタールード— テディ・ウィルソンやライオネル・ハンプトンとの繊細なやり取り。
聴き方のポイント:会場の一体感、ソロの応酬、アンサンブルのスリリングな瞬間に注目。ライブ特有のテンポの揺れやアドリブの自由度も楽しみましょう。
2) Benny Goodman Small Group / The Small Groups 1935–1940(コンピレーション)
なぜ重要か:グッドマンの小編成録音は、モダン・ジャズの先駆を示すものが多く、テディ・ウィルソン(ピアノ)、ライオネル・ハンプトン(ヴィブラフォン)、チャーリー・クリスチャン(ギター)らとの共演で新しいインタープレイが生まれました。
注目トラック:
「Dinah」「King Porter Stomp(小編成版)」「A Smooth One」など、アンサンブルの緊密さと個々の即興が際立つ演奏。
チャーリー・クリスチャン参加曲(1940年前後)— 初期エレクトリック・ギターの革命的ソロが聴けます。
聴き方のポイント:各楽器の会話(call-and-response)や、ヴィブラフォンやギターの登場によるテクスチャの変化を追ってください。小編成ならではの透明感が魅力です。
3) King Porter Stomp / 1935—ヒット・シングル/ビッグバンド録音集
なぜ重要か:フレッチャー・ヘンダーソンのアレンジを用いたグッドマンの「King Porter Stomp」は1935年にヒットし、スウィング時代到来の旗印ともなったナンバーです。ダンサブルなビッグバンド・グルーヴが明瞭に伝わります。
注目トラック:タイトル曲の複数テイク、そして同時期の「Stompin' at the Savoy」「Roll 'Em」など。
聴き方のポイント:リズム・セクションの推進力とブラス/リードのアンサンブルを比較して、スウィング感がどう作られているかを確かめてください。
4) Benny Goodman & His Orchestra — 名曲コンピレーション("Don't Be That Way", "Moonglow" など)
なぜ重要か:ヒット曲群を集めた編集盤は、グッドマンのポピュラー性とアレンジのバラエティを一度に体験できるため入門に最適です。商業的にも成功した側面が見えてきます。
注目トラック:「Don't Be That Way」「Moonglow」「Avalon」など。
聴き方のポイント:同じ楽曲でも編成や演奏時期で表情が変わるので、複数テイクを比較してグッドマンの解釈の幅に注目してください。
5) Benny Goodman featuring Charlie Christian — チャーリー・クリスチャンの録音集
なぜ重要か:チャーリー・クリスチャンはエレクトリック・ギターをリード楽器として確立したパイオニア。グッドマンの小編成での共演はギターのソロ表現を一気に前面へ出しました。ジャズ・ギター史を押さえるうえで必聴です。
注目トラック:「Seven Come Eleven」「Rose Room」など、クリスチャンのリリカルかつ攻撃的なソロが光ります。
聴き方のポイント:ギターの音色・フレーズの語彙がそれ以前のバンジョー/アコースティックギター中心の時代とどう違うかを聴き分けてみてください。
6) Carnegie Hall以前のラジオ・スタジオ録音集(1934–1937 セッション集)
なぜ重要か:コンサート前の準備段階、ラジオ・スタジオやダンスホールでの録音には、より即興的で小回りの利くアンサンブルが残っています。アレンジの原型やライブでの発展を見ることができます。
注目点:フレッチャー・ヘンダーソン編曲の変遷、若手メンバーの台頭。
聴き方のポイント:録音の生々しさ(テイク感)に耳を傾け、ステージでの最終形との比較をすると面白いです。
7) 後期/再録音盤(1940s–1950s) — 熟練の表現力を味わう
なぜ重要か:ベニー・グッドマンは長年にわたって録音を続け、晩年の録音では技術だけでなく音楽的成熟が感じられます。ビッグバンド黄金期とは違う「落ち着いた表現」「リラクシングなスウィング感」を楽しめます。
注目トラック:晩年のスタジオ録音や再録音集。原曲と比べてフレージングやテンポの変化に注目。
聴き方のポイント:同じ曲の異なる年代録音を聴き比べ、グッドマンのアプローチがどう変化したかを味わってください。
各盤をより深く楽しむための聴取ポイント(演奏分析寄り)
イントロ〜テーマ提示:グッドマンのクラリネットがテーマをどのように提示するか(装飾、ビブラートの使い方、音域の選択)を細かく追いましょう。
ソロの構成:ソロがどのように「動機→展開→クライマックス→着地」しているか。特にジーン・クルーパやチャーリー・クリスチャンとの対比が興味深いです。
リズム・セクションの役割:バスとドラムがどのようにスウィング感を生んでいるか、四分音符の位置取りやバックビート感の作り方をチェック。
アンサンブルの掛け合い:小編成では即興的会話(呼応)、大編成ではアンサンブルとソロの設計(アレンジ)を対比して楽しんでください。
入手のコツと盤の選び方(音質・編集の視点)
オリジナル78回転盤は歴史的価値が高いですが、音質やノイズの面で現代リマスターCDやハイレゾの方が聴きやすい場合が多いです。
ライヴ録音(例:カーネギー)の場合、編集やテイク切替がある再発も存在します。できれば信頼できるレーベル(Columbia/Legacy、RCA、Deccaの権利所持再発など)によるリマスターを選ぶと良いでしょう。
曲ごとの複数テイクを比較できる『Complete Sessions』系のコンピレーションは、演奏の変遷を追いたい人におすすめです。
最後に — グッドマンを聴き続ける価値
ベニー・グッドマンの録音群は「スウィングの核」を示す教材であると同時に、個々のソロやアンサンブルの美しさを楽しむ芸術作品でもあります。歴史的意義だけに留まらず、音楽として今なお新鮮に響く瞬間が多いのが魅力です。まずは「1938年カーネギー・ホール」と小編成の名演集を聴き比べ、時代ごとの表情の違いを感じ取ってください。
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参考文献
- Benny Goodman — Britannica
- Benny Goodman — AllMusic(バイオグラフィー/ディスコグラフィー)
- Carnegie Hall — 公式サイト(1938年の歴史的コンサートに関する資料や解説)
- Benny Goodman — Discogs(録音一覧・リリース情報)


