アート・テイタム徹底解説:聴きどころとおすすめレコードで紐解く天才ジャズピアノの魅力
Art Tatum — 概要と聴きどころ
アート・テイタム(Art Tatum, 1909–1956)は、ジャズ・ピアノの歴史において「天才」と呼ばれる存在です。卓越したテクニックに裏打ちされた高度な即興、複雑な和声処理、そして驚異的なリズム感が特徴で、彼の演奏はソロからグループ演奏まで常に他の演奏者の想像力を刺激してきました。本コラムでは、テイタムの音楽性がよくわかるおすすめレコードを紹介し、それぞれの聴きどころや音楽的特性を深掘りします。
おすすめレコード(厳選)
The Complete Solo Masterpieces(ソロ名演集)
何と言ってもまず聴くべきはテイタムのソロ演奏集です。ソロは彼の和声観・即興構築・タッチの多様性が最もストレートに現れる場面で、1音1音に膨大な情報が含まれています。
- 代表曲・収録曲の例:Tea for Two、Willow Weep for Me、Tiger Rag、Over the Rainbow など
- 聴きどころ:左手のベースライン(ストライドの遺産)と右手の華やかなパッセージの同時運動、和声の次々とした置換・拡張、内声の動き。各テーマ→展開→再解釈の流れを追うと、テイタムの即興構造が見えてきます。
The Tatum Group Masterpieces(グループ演奏集)
ソロとは対照的に、他奏者とのインタープレイでのテイタムの魅力を伝える名盤群です。伴奏かと思えば瞬時にリードを取るなど、絶妙なバランス感が聴けます。
- 代表的共演者:ベースやドラム、時にホーン奏者とのトリオ・クアルテット演奏
- 聴きどころ:伴奏者との呼吸、ソロと伴奏のロール交換、コード・プログレッションに対する即興的“解説”。グループでのアンサンブル感、会話性に注目してください。
初期録音(1930年代〜1940年代のシングル/コンピレーション)
テイタムのキャリア初期に残されたスタジオ録音やシングル群は、彼のスタイルの原型や発展過程を知るうえで重要です。ラグタイムやスウィングの影響、ピアノ奏法の基礎が見えます。
- 聴きどころ:初期のフレージングやテンポ感、後年の超絶技巧に至るまでの進化。テーマ提示の仕方、短いソロ内に込められたアイディアの密度を観察すると興味深いです。
ライブ/放送録音集(ラジオ放送やコンサートのアーカイブ)
スタジオ録音とは違う自由さ、観客とのやり取り、即時の選曲判断など、生の臨場感が魅力です。テイタムは即興でリスクを取る場面が多く、そこから彼の本質が見えます。
- 聴きどころ:テンポの微妙な揺れ、突発的な転調やモチーフの拡張、会場の空気に反応する即興性。ライブならではの驚き(即興の大胆な展開)を楽しんでください。
入門向けベスト盤(単一ディスクの入門コレクション)
まず「テイタムとはどんなピアニストか」を短時間でつかみたい人におすすめのコンパクトな編集盤です。代表的な名演を厳選して収録しているため入門には最適。
- 聴きどころ:代表曲の“型”を掴む。短時間で幅広い表情(バラード〜アップテンポ)を味わえるため、その後にソロ全集やグループ集へと深掘りする指針になります。
各レコードの深掘りポイント(聴き方・分析の視点)
メロディの“装飾”を読む
テイタムは標準的なメロディを出発点に、様々な装飾(装飾音、トリル、パッセージ)で展開します。元のテーマと対比して、どの瞬間に新しい和声やリズムを導入しているかを追ってみてください。
和声の置換・拡張
一見シンプルな進行でも、テイタムはテンポの中でテンションや代理和音を滑らかに挿入します。コードのどの音(根音・第3音・第7音・テンション)を強調しているかを耳で追うと、彼の和声観が明確になります。
リズムの層構造
左手のストライド的な役割と右手の細かなフレーズの同時運動、さらに内声の対位的動きが重なることがあります。各声部の役割分担を意識して聞き分けると、演奏の“編成”が見えてきます。
対話としての即興
グループ演奏では、テイタムは伴奏者と会話するように演奏します。相手のフレーズに応じた反応、時には伴奏をリードする瞬間を探し、どのように会話が構築されるかに注目すると面白いです。
入門者向けの聴き進めプラン
ステップ1 — ベスト盤で“顔”を掴む
代表曲を数曲聴き、テイタムの音色・テンポ感・即興の傾向を把握します。
ステップ2 — ソロ全集へ
ソロ演奏集を通読(通聴)して、フレーズの繋がりやハーモニーの発展をじっくり味わいます。短いパッセージを繰り返し聴いて、解析するのがおすすめです。
ステップ3 — グループ演奏・ライブで幅を知る
共演者との相互作用や臨場感を体験し、演奏スタイルの応用面・社会的文脈を理解します。
コレクション上の注意点(購入時の視点)
テイタムの録音は多くの編集や再発が行われているため、収録時期やセッション情報を示すライナーノートが充実した盤を選ぶと良いです。オリジナル音源を忠実に復刻した信頼できる編集盤を基準に選ぶと、演奏の意図に近い聴取ができます。
“全集”“名盤”と銘打たれたものでも収録内容は編集者により異なるため、聴きたい曲やセッション(ソロ/グループ/ライブ)を明確にしてから購入判断するのがおすすめです。
最後に
アート・テイタムの音楽は、一度聴いただけでその全貌がわかるタイプのものではありません。短いフレーズの中に無数の発想が詰まっており、繰り返し聴くことで新たな発見が生まれます。ソロの緻密さ、グループで見せる柔軟な会話力、初期録音に残る原型的な魅力──いずれもジャズ史における宝物です。まずは代表的なソロ演奏集とグループ演奏集を手に取り、気になった瞬間を何度も反復してみてください。
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参考文献
- Britannica — Art Tatum(英語)
- AllMusic — Art Tatum(英語)
- Jazzdisco.org — Art Tatum Discography(英語)
- Discogs — Art Tatum(ディスコグラフィ)


