MGMの栄光と変遷:映画史に刻まれた名作・経営史・現代戦略

概要:MGMとは何か

Metro-Goldwyn-Mayer(通称MGM)は、1924年に設立されたアメリカの映画スタジオで、ハリウッド黄金期を代表する存在です。大規模な制作部門とスター制度、華やかなミュージカルやスペクタクル映画で知られ、ロゴに描かれた獅子とラテン語のモットー『Ars Gratia Artis(芸術のための芸術)』は映画史上もっとも象徴的なシンボルの一つになりました。

創立の経緯と黄金時代

MGMは、Metro Pictures、Goldwyn Pictures、Louis B. Mayer Productionsの合併によって1924年に誕生しました。合併を主導したのは興行チェーンのロウ・シアターズ(Loew's Inc.)の創業者マーカス・ロウ(Marcus Loew)で、経営の実務はルイス・B・メイヤー(Louis B. Mayer)と当時のプロデューサーたちによって担われました。設立から1930年代〜1950年代にかけて、MGMは『もっとも多くのスターを抱える』スタジオとして、グレタ・ガルボ、クララ・ボー、クラーク・ゲーブル、ジュディ・ガーランド、フレッド・アステアなど多数の大物俳優を擁し、映画産業を牽引しました。

ロゴとライオンの由来

MGMの有名な円形ロゴと中央のライオンは、元となったGoldwyn Picturesが使用していたものを継承したものです。金字のリボンに囲まれたライオンとラテン語のモットーは、視覚的にも強烈なブランド力を持ち、サイレント期からトーキーへの移行期を通じて映画の冒頭で観客を引き込む役割を果たしました。初期のライオンとしては『Slats(スラッツ)』、トーキー期に用いられた『Jackie(ジャッキー)』などが知られています。

代表作とジャンル的強み

MGMは特に大作ミュージカルや歴史スペクタクル、スターメイクに強みを発揮しました。代表的なタイトルには『オズの魔法使(The Wizard of Oz)』(1939)や『雨に唄えば(Singin\' in the Rain)』(1952)、『ベン・ハー(Ben-Hur)』(1959)などがあり、これらは技術的・芸術的な挑戦と同時に商業的成功を収めた作品です。スタジオはまた脚本・演出・俳優を体系的に管理する『スタジオ・システム』を通じてスターを育成・運用し、映画を一種の総合作品として大量生産する体制を築きました。

経営と所有の変遷

MGMは長年にわたり大小多様な買収・売却を経験してきました。1970年代以降、映画産業の構造変化やテレビの台頭によりスタジオシステムは揺らぎ、MGMも複数回の所有者変更を経ました。1986年にはテッド・ターナー(Ted Turner)がMGMを買収し、同年に大部分の施設や権利が戻される一方で、ターナーはMGMの過去作ライブラリー(1986年5月以前の作品群)を保持しました。このライブラリーの移動は後のケーブルテレビ(TBS、TNTなど)やテレビ再放送・配信の基盤となりました。

近年の苦境と再編、そしてAmazonによる買収

20世紀末から21世紀にかけて、MGMは経営難と債務問題に直面しました。特に2010年には米国のチャプター11(連邦倒産法)を申請するなどの局面があり、経営再建を進めてきました。その後はライブラリーの活用、テレビ事業の強化、ライセンスや共同制作を通じた収益多角化に取り組んでいます。最も大きな転機の一つは、2021年5月にAmazonがMGM買収を発表し、2022年3月に正式に買収を完了したことです。この買収により、MGMの豊富なライブラリーとIPはストリーミング時代のコンテンツ戦略に組み込まれることになりました。

MGMの資産と配信戦略

MGMが保有する映画・テレビのライブラリーは、配信時代において非常に価値の高い資産です。伝統的な映画配給やホームビデオに加え、テレビシリーズやミニシリーズの権利管理、ライセンス提供、リメイク・続編の企画開発など多彩なマネタイズ手段があります。買収後、Amazonはこの資産をPrime Videoの強化、また旧Epixブランドを『MGM+』にリブランディングするなどして活用しています。

文化的影響と批評的評価

MGMは単に興行的成功を収めただけでなく、映画美学やスター文化、ミュージカルの様式に深い影響を与えました。一方で、スタジオ・システムに伴う俳優・制作陣の拘束や製作体制の硬直、商業主義への批判もあります。現代の映画研究では、MGMのフィルモグラフィーはハリウッド産業史を理解するための重要な資料であり、フェミニズムや表象研究の観点から再検討されることも多くあります。

なぜ今MGMが注目されるのか

ストリーミング時代におけるコンテンツ供給競争は、既存のIPとライブラリーをいかに活用するかが鍵です。MGMは長年蓄積した名作群とブランド価値を持ち、これらを再編集・再配信・リメイクすることで新たな観客を獲得できます。Amazonによる買収は、グローバルな配信基盤と資本を背景にMGM資産の再活用を加速させる可能性を高めています。

結論:歴史遺産と未来への挑戦

MGMはハリウッドの黄金期を象徴する一方で、産業の変化に適応するための幾度もの再編を経験してきました。豊かなライブラリーと象徴的なブランドは、映画史的な価値と現代的な商業価値の両面を併せ持っています。今後はストリーミングとグローバル配信を通したIPの再活用、既存作品の保存・修復、そして新作制作のバランスをどう取るかがMGMの次の課題です。

参考文献