和声(ハーモニー)の理論と実践:基礎から応用まで深堀り解説

和声とは何か

和声(ハーモニー)は、複数の音が同時に響くときに生じる音の関係性を扱う音楽理論の分野です。旋律(メロディ)やリズムと並んで音楽の三大要素の一つとされ、和音の構成、和音同士の進行、そして各声部の動き(声部指導=ボイスリーディング)を通じて楽曲の調性感・運動感・感情表現を作り出します。特に西洋音楽においては、18世紀~19世紀の「和声法(Tonal Harmony)」が基盤となり、多くの作・編曲や分析手法の基礎を提供しています。

基礎理論:音程と和音の種類

和声を理解するにはまず音程と基本的な和音の種類を押さえる必要があります。

  • 音程:長2度・短2度、長3度・短3度などの度数と長短(完全・長・短・増・減)によって和音の性格が定まります。
  • 三和音(トライアド):最も基本的な和音で、長三和音(長3度+短3度)、短三和音(短3度+長3度)、減三和音(短3度+短3度)、増三和音(長3度+長3度)があります。例:Cメジャー(C–E–G)は長三和音、Aマイナー(A–C–E)は短三和音。
  • 七和音:三和音に第7音を加えたもので、属7(ドミナント7; 例 G7: G–B–D–F)、大7(メジャー7)、小7(マイナー7)、半減7(ø7)、全減7(°7)などがあり、機能と解決感に大きく寄与します。
  • 転回形とベースの役割:和音は根音(ルート)でなくても他の音が低音に来ることで機能が変化(例:I6 は第1転回、I64 は第2転回)。カデンツ(終止)での64の用法(カデンシャル6-4)は特別な機能を持ちます。

機能和声の基本

古典派・ロマン派音楽で中心となるのが機能和声です。和音は大きく三つの機能に分類されます。

  • T(トニック):安定・始点。I や vi など。
  • S(サブドミナント):動きを準備する役割。IV や ii など。
  • D(ドミナント):緊張を作りトニックへ解決する役割。V、vii°(導音和音)など。

代表的な進行例としては ii–V–I(多くの西洋音楽やジャズで基本)、IV–V–I(プラガル/完全進行)、V–vi(欺瞞終止=デセプティブ)などが挙げられます。ローマ数字解析(Roman numeral analysis)は調性を前提に和音の機能を表記する標準的手法です。例:ハ長調(C)では I = C、ii = Dm、V = G、vi = Am となります。

和声進行と声部指導(ボイスリーディング)

和声は単に和音を並べるだけでなく、各声部の動きが音楽的に自然であることが重要です。基本的な声部指導の原則は以下の通りです。

  • 共通音を保持して他声は最小移動で動かす。これにより滑らかな連結が得られます。
  • 完全5度と完全8度(オクターブ)の平行移動は避ける(並行五度・八度の禁止)— 特に古典的な声部法では重要。
  • 導音(第7音)は上方へ半音で解決する傾向が強い(例:B→C)。
  • 最上声(メロディ)と低音(ベース)の関係に特に注意し、対向進行(反対方向の動き)を多用すると独立性が保たれる。

またカデンス(終止)は音楽の節目を作る要素です。典型的なものは完全終止(V→I、かついずれも根音が低音にあり上声が主音に到達)や半終止(終止感が弱いVで終わる)、プラガル終止(IV→I)などがあります。

半音階的・クロマティックな和声の技法

古典派以降、作曲家は機能和声に対して様々なクロマティック技法を導入しました。

  • 副次的和音(副属和音、secondary dominants):ある和音を一時的にその調のドミナントとして扱う手法。例:V/V(II7 を置くなど)で解決先の和音を一時的に強調する。
  • 導音和音の副次形(vii°/V など):適用先の和音に対する導音的機能を持つ和音を用いる。
  • 借用和音(モーダル・インターチェンジ):同主調の平行調から和音を借りる手法。例:Cメジャー中での借用和音 bIII(E♭)、bVI(A♭)など。
  • ネアポリタン和音(♭II):第2音を半音下げて伴奏で使う和音で、特有の半音進行と強い表情を持ちます。
  • 増6和音(オーギュメンテッド・シックスス):イタリア式・フランス式・ドイツ式があり、V へ向かう強い導音的効果を持つクロマティック和音群です。

これらの技法は調性感を一時的に曖昧にしながらも、戻るべき機能へ向けての強い推進力を生むため、表情豊かな和声進行を作れます。

転調と異名同音、エンハーモニック手法

転調(モジュレーション)は和声のもっともドラマチックな応用の一つです。エンハーモニック(異名同音)な解釈により、ある和音を別の調へ滑らかに結びつけることが可能です。たとえば増七の完全減少七和音(全減7)は異名同音で別の機能に解釈でき、転調の橋渡しとして使われます。ワーグナーの作品やロマン派の音楽ではこのようなエンハーモニックな転換が頻出します。

ジャズ・現代音楽における和声の展開

20世紀以降、和声の語法はさらに拡張されました。

  • ジャズ:9th/11th/13th といったテンション音の付加、Alteration(♭9、♯9、♯11、♭13)によるドミナントの色彩化、トライトーン・サブスティテューション(V の代わりに♭II7 を用いる)など、機能を維持しつつ豊かな響きを生み出します。ii–V–I はジャズ即興の基本進行です。
  • モーダル和声:モード(ドリア、フリジアなど)を和声の基礎に置く手法で、テンションやスケールの選択が和声感を支配します(例:マイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』など)。
  • 現代音楽・無調:調性を放棄したポストトーナルな技法(セリエルや集合体理論=セット理論)では、ピッチクラス集合や間隔クラスの操作が和声的効果を形成します。

実践的な作編曲アドバイス

和声を実践で使う際のポイントを挙げます。

  • まずは基本の三和音と七和音、ローマ数字分析を習得する。キーごとのダイアトニック和音(I–VII)をすぐに書けるようにする。
  • ii–V–I、IV–V–I、V–vi(欺瞞)、I–vi–IV–V(ポピュラー進行)などの典型進行を多数暗記し、逆行や変形でバリエーションを作る。
  • 声部指導を常に意識する。特に低音の動きは和声の運ぶ方向性を決めるため、ベースライン作りに時間をかける。
  • クロマティシズムや副属和音、借用和音は“点景”として用いると効果的。使いすぎると調性感が弱くなるので目的を明確に。
  • ジャズ的なテンションや代替和音を導入する場合は、テンションがどのスケールに由来するか(例:ドミナントに対してリディアン・ドミナントかミクソリディアンか)を意識する。
  • 耳を鍛える。理論を学ぶだけでなく、実際に楽器で和音を鳴らし、進行の心理的効果(緊張→解決など)を体感することが何より有効です。

和声分析のツールと学習法

和声を学ぶ際の代表的なテキストや分析手法としては、ローマ数字分析、機能和声分析、和声的強弱(ハーモニック・リズム)の検討、そしてフーガや対位法の声部分析があります。実作曲では譜例を多く分析し、時代やジャンルごとの和声的慣習を比較すると理解が深まります。

まとめ:和声の本質と創造性

和声は音楽における“関係性”の学問です。単にルールを学ぶだけでなく、それを破る理由と方法を知ることが重要です。古典的な機能和声は多くの表現を支える頑強な骨格を与えますが、クロマティック和声、ジャズ和声、現代和声などはその枠組みを拡張し、新しい色彩や進行、感情表現を可能にします。作曲・編曲の現場では、目的(感情表現、ジャンル、編成)に合わせて和声語法を選び、声部指導と調性感のコントロールを常に意識することが成功の鍵です。

エバープレイの中古レコード通販ショップ

エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

エバープレイオンラインショップのバナー

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery

参考文献