4Gとは何か:LTE・LTE‑Advancedの仕組み、歴史、技術、運用と今後の役割を徹底解説
はじめに:4Gの定義と位置付け
「4G」は第四世代移動通信システムを指す総称で、ITU(国際電気通信連合)のIMT(International Mobile Telecommunications)系列に対応する高速パケット通信網を意味します。厳密にはIMT‑Advancedの要件を満たすものが4Gですが、商用上はLTE(Long Term Evolution)やWiMAXが「4G」として普及しました。ここでは技術的背景、アーキテクチャ、主要機能、運用上の注意点、セキュリティ、実性能、5Gへの移行との関係まで深掘りします。
歴史と進化:2G/3Gから4Gへ
移動通信は世代ごとに音声中心からパケット中心へ、回線交換からパケット交換へと変化してきました。2G(GSM/EDGE)は音声と低速データ、3G(WCDMA/HSPA、CDMA2000)はモバイルブロードバンドを導入しました。2000年代後半にデータトラフィックが爆発的に増大したことを受け、より高容量・低遅延・IPベースのアーキテクチャを実現するために4Gが策定されました。
3GPPは2008年にLTE(Release 8)を標準化し、これが広く商用4Gの主流となりました。LTEは設計段階で将来の拡張(LTE‑Advanced)を見据えており、リリース10以降でキャリアアグリゲーション、マルチアンテナ技術の拡張、さらにスループット向上を実現しました。
主要な4G規格:LTEとWiMAX
- LTE(Long Term Evolution):3GPPによる標準。OFDMA(下り)、SC‑FDMA(上り)を採用し、IP中心のコア(EPC:Evolved Packet Core)で構成される。高いスペクトル効率と低遅延を実現。
- LTE‑Advanced(LTE‑A):IMT‑Advancedの要件を満たすための拡張。キャリアアグリゲーション(CA)、高度なMIMO、協調型マルチポイント(CoMP)などを導入し、理論ピーク速度をGbps級に引き上げる。
- WiMAX(IEEE 802.16e / 802.16m):一部地域でモバイルWiMAXが導入されたが、世界的にはLTEが主流となった。802.16mはWiMAX2としてLTEに対抗する規格だった。
物理層と無線技術の中核
LTEの物理層は以下の技術で成り立っています。
- OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access):周波数資源を細かなサブキャリアに分割し、マルチパス耐性と高いスペクトル効率を実現(下り)。
- SC‑FDMA:上り伝送でのピーク電力抑制のために採用。端末側の送信効率が向上する。
- MIMO(Multiple Input Multiple Output):複数アンテナを用いることで空間多重やビームフォーミングを実現し、スループットとリンク信頼性を向上。
- キャリアアグリゲーション(CA):複数の周波数ブロックを束ねて有効帯域を拡張。LTE‑Aの中心技術。
コアネットワークとアーキテクチャ
LTEはエンドツーエンドでIPベースとなり、EPC(Evolved Packet Core)がコアを担います。主要な要素は:
- eNodeB:無線基地局(eNB)。無線資源管理やスケジューリングを担当。
- MME(Mobility Management Entity):制御平面を担い、認証、移動管理、セッション管理の一部を行う。
- SGW(Serving Gateway):ユーザプレーンのルーティングと一時的なバッファを提供。
- PGW(PDN Gateway):外部IPネットワーク(インターネット等)への接続点。IPアドレス割当や課金ルール適用(PCEF機能)を担う。
- HSS(Home Subscriber Server):加入者情報を保持するデータベース。
- PCRF(Policy and Charging Rules Function):QoSや課金ポリシーを決定する。
音声サービスとVoLTE
4Gは基本的にパケット(IP)ネットワーク上で動作するため、従来の回線交換音声(2G/3GのCS呼)はそのまま利用できません。これに対して以下の方式が用いられます:
- VoLTE(Voice over LTE):IMS(IP Multimedia Subsystem)上で音声をIPで提供。音質(HD Voice)や接続速度、通話中のデータ併用が改善される。
- CS Fallback:VoLTE非対応端末向けに通話時に2G/3Gにフォールバックする方式。
- SRVCC(Single Radio Voice Call Continuity):VoLTEで通話中にセル境界で2G/3Gにシームレスに継続するための仕組み。
性能指標:スループット、遅延、カバレッジ
理論値と実運用は異なりますが、目安として:
- ピークスループット:LTE(Release 8)で下り最大300 Mbps(20 MHz帯域、MIMO 2x2)、LTE‑Advancedではキャリアアグリゲーションと高次MIMOにより1 Gbps級を達成可能。
- 遅延:典型的なラウンドトリップで10〜50 ms程度。これによりウェブ閲覧やストリーミングは快適だが、超低遅延が必要な用途は5Gが有利。
- カバレッジと周波数:700/800/900/1800/2100/2600 MHzなど多様な帯域で展開。低周波数はカバレッジ、深い屋内浸透に有利。
品質管理(QoS)と課金
LTEではQCI(QoS Class Identifier)により異なるサービスに優先度/遅延特性を割り当てる仕組みがある。PCRFがポリシーを決定し、PGWやeNodeBで実行される。これによりVoLTEや緊急サービスなどに優先的なリソースを割り当てることが可能です。
セキュリティ
LTEのセキュリティは3Gの進化形で、主に以下の要素を含みます:
- 加入者認証(EPS‑AKA):SIMに記録された秘密鍵を用いた相互認証。
- 暗号化/整合性保護:ユーザプレーンや制御プレーンに対して暗号化(128‑EEA1/2/3等)と整合性保護(128‑EIA1/2/3等)を適用可能。代表的アルゴリズムにはSNOW 3G、AES、ZUCなどがある。
- セキュリティ運用上のリスク:無線インターフェースのスニッフィング、偽eNodeB(IMSI catcher)、コアネットワークの誤設定、暗号化がオプション化されている箇所の存在などに注意が必要。
運用面の実務ポイント
- 周波数資源の有効活用:CAやダイナミックスペクトラム管理で容量を最適化。
- セル設計と容量設計:トラフィック需要に応じた密度配置(マクロ、マイクロ、ピコ、フェムトセルの組合せ)。
- バックアップと冗長性:MMEやPGW等の冗長化、S1/S5等のインターフェース設計。
- QoSの整合性:IMSと一般データトラフィックの混在における優先制御。
実際の導入と規模展開の歴史
最初の商用LTEサービスは2009年末の北欧(TeliaSoneraなど)で開始され、その後2010年代前半に世界中で急速に展開されました。WiMAXは一部地域で先行したが、端末供給力やエコシステムの面でLTEが優勢となりました。多くの事業者はLTEをベースに4G網を整備し、現在は5Gへの移行期に入っています。
4Gの限界と5Gへの移行
4Gは高帯域幅と低遅延を実現しましたが、以下の点で限界があります:
- 超低遅延(1 ms級)、超多数同時接続(mMTC)、超高信頼性(URLLC)など5Gがターゲットとする要件。
- 周波数再利用や小セル密度の向上に伴う運用複雑性。
- IoT大量接続や産業用途で要求される新たなサービス品質。
多くの通信事業者はネットワークの仮想化(NFV)、ソフトウェア化(SDN)、クラウド化を進めつつ、LTEと5Gを共存させながら段階的に移行しています。
まとめ:4Gの社会的意義と現状の役割
4Gはモバイルインターネットを普及させ、動画ストリーミング、モバイルアプリ、クラウドサービスの発展を支えてきました。現在でも4G網は多くの国で主要な通信基盤であり、5Gへの移行が進む中でもしばらくは低遅延が不要な多くの用途や広域カバレッジの確保に重要な役割を持ち続けます。
参考文献
- ITU-R M.2083 (IMT‑2020/5G Vision)
- 3GPP Specifications (LTE / EPC / IMS)
- GSMA - Mobile industry resources
- Wikipedia - LTE (telecommunication)
- Ericsson Mobility Report


