NCPとは?NetWare Core Protocol・PPPのNCP・ARPANET NCPを徹底解説

はじめに — NCPという略語の多義性

IT分野で「NCP」という略語は複数の異なる意味を持ちます。代表的なものは主に次の3つです。

  • ARPANET時代のNetwork Control Program(初期のホスト間プロトコル)
  • PPPにおけるNetwork Control Protocol(ネットワーク層プロトコルを設定・管理する仕組みの総称)
  • NetWare Core Protocol(Novell NetWare のファイル・プリント・ディレクトリサービスを提供するプロトコル)

以下では各意味を歴史的背景と技術的な特徴、実務での扱い方や移行・セキュリティの観点から詳しく解説します。

1. ARPANETのNCP(Network Control Program) — インターネット前史

Network Control Programは1970年代初頭のARPANETで利用された初期のホスト間通信プロトコル群を指します。当時は現在のTCP/IPがまだ成立しておらず、NCPがホスト間のコネクション管理やアプリケーション間のデータ転送を担っていました。

主な特徴は以下の通りです。

  • ARPANETの研究・運用段階で使われたプロトコル群で、現在のTCP/IPに置き換わる以前の実装であった。
  • 設計は比較的単純で、ホスト相互のプロセス間通信を実現する目的に特化していた。
  • このNCPは1983年の“Flag Day”(TCP/IPへの移行)により廃止され、TCP/IPが標準となった。

歴史的価値は大きく、現代のインターネットプロトコル群の基礎となる経験と設計課題を提供しました。

2. PPPにおけるNCP(Network Control Protocol) — ネットワーク層の設定フェーズ

PPP(Point-to-Point Protocol)の文脈でのNCPは、リンク(シリアル回線やダイヤルアップ、VPN等)上でネットワーク層プロトコルを有効化し、設定を行うための一連のコントロールプロトコルの総称です。PPPはまずLCP(Link Control Protocol)でリンク自体を確立・調整し、その後各種NCPを用いてIPやIPv6、その他のネットワークプロトコルをネゴシエートします。

ポイントは次の通りです。

  • NCPは「一つの仕組み」ではなく、各ネットワーク層プロトコルに対応する個別のコントロールプロトコルの集合です(例:IPCP = IPv4用、IPv6CP = IPv6用)。
  • 典型的なネゴシエーション手順は、Configure‑Request → Configure‑Ack/Nak/Reject のやり取りで構成され、IPアドレスの割当てやオプション(MTU、圧縮、認証方式など)の合意を行います。
  • PPPは広くダイヤルアップ、ISDN、DSL、VPNの一部実装などで用いられており、NCPはこれらの接続でネットワーク層の動作を確実にする重要な役割を担います。

実務的には、PPP接続でIPを用いる際にIPCPが正しく動作しないとIPアドレスが割り当てられず、上位レイヤの通信ができません。特に組み込み機器や古い機器のログ解析では、LCPでOKだがNCPで失敗しているケースがよく見られます。

3. NetWare Core Protocol(Novell)のNCP — ファイル/プリント/ディレクトリサービス

NetWare Core Protocolは、Novell社のNetWareオペレーティングシステムで使われるアプリケーションプロトコル群です。ファイルアクセス、プリントサービス、ディレクトリ操作、ロック管理などのサービスをNetWareサーバがクライアントに提供するための独自プロトコルです。

主要なポイント:

  • 歴史的にはNetWareは1980年代から1990年代にかけて多くの企業で採用され、NCPはその中心的な通信プロトコルであった。
  • NCPはもともとIPX/SPX上で動作しましたが、後にTCP/IP上で動かす(NCP over TCP)実装も普及し、標準のポートとしてTCP/UDP 524が利用されることが一般的でした。
  • NCPはファイルサービスにおけるリモートプロシージャコール(RPC)に相当する機能や、セッション管理、アクセスコントロールを提供します。NetWare Directory Services(NDS、後のeDirectory)と連携して認証や権限管理を行うことが多いです。

運用面では、WindowsのSMB/CIFSやNFSに比べると市場シェアは縮小しましたが、移行のためのツールや、OES(Open Enterprise Server)上での互換レイヤにより既存資産の継続利用が行われることがありました。

実務上の注意点とセキュリティ

NCPを扱う際の実務的注意点をまとめます。

  • 用語の混同に注意:文脈(歴史、PPP、Novell)によってNCPの意味が全く異なるため、設計書やログの解析時は先に文脈を確認すること。
  • ログ解析:PPP回線の接続問題はLCP→NCPのステップで切り分けると原因が特定しやすい。NCPネゴシエーションの拒否やオプション不一致が典型的な原因です。
  • セキュリティ:歴史的プロトコル(ARPA NCP、初期のNetWare)や古い実装は暗号化や強力な認証を持たない場合がある。現代の運用ではトラフィックの暗号化(VPNやTLS等)や最新の認証方式を併用することが推奨されます。
  • 移行:NetWare環境からWindows/SMBやNFSへ移行する際は、ファイル属性やACL、セッション管理の差異に注意する必要があります。移行ツールや専門サービスの利用を検討してください。

現代におけるNCPの位置づけ

ARPANETのNCPは歴史的に重要ですが現行プロトコルではありません。PPPのNCP群は依然としてPPPを使う場面(組み込み機器のシリアルリンクや一部VPN等)で有効です。NetWareのNCPは市場シェアを大きく減らしましたが、特定環境ではまだ動作しているケースがあるため理解しておく価値はあります。

まとめ

「NCP」は単一のプロトコル名ではなく、文脈に応じて意味が変わります。ARPANETの歴史的プロトコル、PPPにおけるネットワーク層の制御プロトコル群、そしてNovell NetWareのファイル/プリント用コアプロトコルという主要な3つの意味を押さえておけば、技術文書の読み取りやトラブルシューティングで混乱しにくくなります。実務では互換性、移行、セキュリティの観点を踏まえた上で適切な対策を検討してください。

参考文献