カバーアルバムの魅力と作り方:歴史・表現・権利・制作の深掘りガイド
カバーアルバムとは — 定義と特徴
カバーアルバムとは、他の作曲家やアーティストが発表した楽曲を、新たな演奏・編曲や解釈で録音し一枚にまとめた作品を指します。単曲のカバーとは異なり、アルバムという形で複数のカバー曲を収録することで、作り手のテーマ性や解釈の一貫性を浮かび上がらせることができます。単純な模倣(straight cover)から大胆な再構築(reimagining)、ジャンル変換やコンセプトを伴う作品まで、表現の幅は広いのが特徴です。
歴史と文化的背景
楽曲のカバーは、レコードや放送メディアが普及する以前から存在しました。近代では20世紀中盤のポピュラー音楽でカバー文化が活発になり、1950〜60年代には複数のアーティストが同一曲をそれぞれ録音・リリースすることが一般的でした。アルバム単位でのカバー作品も次第に増え、1970年代の例では、デヴィッド・ボウイの『Pin Ups』(1960年代の楽曲を取り上げたカバーアルバム)が知られています。以降、アーティストの視点や企画性を反映したカバーアルバムは、オマージュや再解釈、キャリアの再定義、商業戦略など多様な動機で制作されるようになりました。
カバーアルバムが生まれる主な動機
- 敬意・オマージュ:影響を受けた作曲家・アーティストへの敬意を表すため。
- 再解釈・表現の実験:原曲の文脈を変え、異なる感情や意味を引き出すため。
- 商業的理由:既知の楽曲を用いることで新規リスナーの獲得やセールスを狙う。
- カタログ拡充・録音企画:レーベルや事務所の企画として、特定テーマでまとめる場合。
- コラボレーションの場:ゲストミュージシャンやプロデューサーと新たな化学反応を試すため。
種類とアプローチの違い
カバーアルバムのアプローチは多岐にわたります。代表的なタイプを挙げると:
- ストレート・カバー:原曲の構成や雰囲気を大きく変えない忠実な演奏。
- 再構築(reimagining):テンポ、コード進行、アレンジを大幅に変えて新しい世界観を作る。
- ジャンル横断:ロック曲をジャズやクラシック、エレクトロに置き換えるなど。
- トリビュート/コンピレーション:複数のアーティストが特定のアーティストに捧げる作品。
- コンセプト・カバー:テーマ(年代、地域、作曲家など)を設けて曲を選ぶ。
制作プロセス:選曲からマスタリングまで
カバーアルバム制作は、オリジナル作品の制作と共通する部分が多い一方で、曲ごとの権利処理や解釈の調整といった特有の工程もあります。主な流れは次の通りです。
- 選曲:ヒット曲を中心にするか、深掘りしたインディーズ曲を選ぶかで方向性が変わる。アルバム全体のトーンや物語性を意識して曲順を設計する。
- アレンジ設計:編曲者やプロデューサーと相談して、楽器編成・テンポ・キーを決定。原曲の魅力をどう保ちつつ新しさを出すかがポイント。
- レコーディング:ゲスト奏者や合唱、オーケストラを入れる場合はスケジューリングと予算配分が重要。
- ミックスとマスタリング:カバーアルバムは曲ごとの音像がバラつきがちなので、アルバムとしての統一感を保つ調整が求められる。
- 表記とクレジット:作詞作曲者の表示、原曲への敬意表明、アレンジ権の明示などを正確に行う。
法的・権利関係のポイント(国ごとに異なる)
カバーを録音・配信・販売する際には著作権関係の処理が不可欠です。国によって手続きや許諾の体系は異なりますが、共通する留意点をまとめます。
- レコード化(音源化)について:多くの国では原曲が既に公開されている場合、所定の手続き(機械的録音に関する許諾=mechanical license)を取得し、原権利者に所定の使用料を払うことで音源化が可能です。ただし初出の作品を大幅に改変する場合(翻訳や歌詞改変、編曲が原著作者の意に反する場合など)は、著作者の許諾が別途必要になることがあります。
- 日本における管理:日本では一般に著作権管理団体(例:JASRAC、NexToneなど)が権利処理を代行するケースが多く、レコード会社やアーティストはこれらの団体を通じて手続きを行います。映像との結びつき(ミュージックビデオやテレビ使用)は「シンクロナイズ(同期)権」等の別途許諾が必要です。
- 米国の制度例:米国では一部の条件下で〈強制実行の機械的許諾〉(compulsory mechanical license)があり、既に公表された楽曲であれば一定の手続きを経てカバー録音が可能です。ただし登録・支払いの方式やレートは法制度や仲介機関により定められています。
- サンプリングや補助的要素:原曲の一部をそのまま流用するサンプリングや、原曲のメロディを引用する場合は別の権利処理(原盤権・マスター使用許諾等)が必要になることが多いです。
- 著作者人格権:特に日本では著作者人格権が強く保護されており、原作の名誉や意図を損なう改変は問題になる可能性があります。改変の程度によっては事前に著作者の許諾を得るのが安全です。
カバーアルバムの商業面・マーケティング
カバーアルバムは既知の楽曲が持つ認知度を活かしてマーケティングが行える反面、制作コスト(権利処理・アレンジ・ゲスト招聘など)や権利料がかかる点を想定しておく必要があります。ストリーミング時代にはプレイリストへの収録が売上や再生数に直結するため、曲選びや先行シングルでのプロモーション、ミュージックビデオとの連携が重要です。また、トリビュート要素を打ち出すことでメディアやファン層の注目を集めやすくなります。
聴き手としての楽しみ方
カバーアルバムを聴く際の醍醐味は、原曲と比較して新たに見えてくる解釈や表情です。アレンジの違い、歌唱表現、プロダクションの選択が楽曲の印象をどう変えるかを意識して聴くと、作り手の狙いや時代背景、文化的文脈が浮かび上がります。また、原曲の背景を調べてから聴くと、オマージュ性や皮肉、翻案の深さがより楽しめます。
ケーススタディ(表現の幅を示す例)
カバーアルバムはアーティストごとの解釈が明確に表れるため、いくつかの事例を見ると理解が深まります。例えばデヴィッド・ボウイの『Pin Ups』は60年代の楽曲群をボウイならではの音楽性でまとめたアルバムとして知られ、またトーリ・エイモスの『Strange Little Girls』は男性アーティストの楽曲を女性の視点で再解釈したコンセプチュアルな作品でした。映画『I Am Sam』のサウンドトラックは複数のアーティストによるビートルズのカバーを集め、映画の世界観と楽曲解釈を結びつける例です(いずれもカバーの多様な可能性を示す好例と言えます)。
アーティスト向け:カバーアルバム制作の実務的チェックリスト
- 権利処理の計画:収録曲ごとに必要な許諾(機械的許諾、翻訳許可、シンクロ許可等)を洗い出し、予算化する。
- アレンジとコンセプトの明確化:アルバム全体のトーンを定め、曲ごとの役割を設計する。
- 原作者へのリスペクト:クレジット表記、ライナーノーツでの出典明示など基本マナーは厳守する。
- プロモーション設計:シングル選定、動画・SNSでの発信、プレイリスト戦略。
- 収益分配の整理:配信・印税の取り扱い、作曲者への支払い方法を確認する。
まとめ
カバーアルバムは、原曲への敬意を示しつつ新たな表現を生み出す強力な手段です。表現の自由度が高い一方で、法的手続きや著作権者への配慮、アルバムとしての一貫性づくりなど実務的な配慮も欠かせません。リスナーにとっては原曲と比較しながら多層的に楽しめるメディアであり、アーティストにとっては自身の音楽性を再定義する場ともなり得ます。
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参考文献
- Cover version — Wikipedia
- Pin Ups — David Bowie(Wikipedia)
- Strange Little Girls — Tori Amos(Wikipedia)
- I Am Sam (soundtrack) — Wikipedia
- JASRAC(日本音楽著作権協会)公式サイト(英語)
- NexTone(日本の別管理団体)公式サイト(英語)
- U.S. Copyright Office — Circular 73(著作権に関する案内)
- The Harry Fox Agency(米国の機械的権利管理事業者)


