徹底解説:MIDIとは何か — 歴史・仕組み・実践テクニックとMIDI2.0の未来
はじめに
MIDIは音楽制作の基盤技術として、楽器やソフトウェア、ハードウェア機器の間で音楽情報をやり取りするための規格です。見た目は単純なコマンド列に見えますが、その設計思想、拡張性、実運用でのノウハウを理解すれば、制作やライブ、サウンドデザインの可能性は大きく広がります。本稿ではMIDIの歴史、技術的な仕組み、ファイル形式、MPEやMIDI2.0といった近年の拡張、実践的な使い方・注意点までを詳述します。
MIDIの歴史と背景
MIDI(Musical Instrument Digital Interface)は1983年に標準化が始まり、電子楽器メーカー間の互換性を目的に策定されました。初期のDIN5ピン端子によるシリアル伝送が広く普及し、コンピュータ音楽とシンセサイザを結ぶ“共通言語”としての地位を確立しました。長年の普及によりMIDIはライブ演奏、スタジオ制作、照明制御、舞台芸術、インタラクティブインスタレーションなど音楽以外の領域にも流用されています。
MIDIの基本的な仕組み
MIDIは音そのものを送るのではなく、「どの音をいつ、どの強さで、どの音色で鳴らすか」といった演奏情報(イベント)をデジタルメッセージとして送信します。基本的なメッセージには以下があります。
- Note On / Note Off:鍵盤の押下/離上を示す。ベロシティ(強さ)を伴う。
- Control Change(CC):モジュレーション、エクスプレッション、サスティンなど様々なコントローラ情報。
- Program Change:音色の切替。
- Pitch Bend:ピッチの連続的な変化。
- System Exclusive(SysEx):機種固有の拡張データ(パッチの送受信など)。
- リアルタイムメッセージ:クロック、スタート/ストップなど同期用の指示。
メッセージは“チャンネル”という概念で整理され、16チャンネル(MIDI1.0時)を通じて複数の楽器/音色を同一線で扱えます。物理的にはDINケーブルやUSB、ネットワーク経由で伝送されます。
MIDIメッセージの構造と解像度
古典的なMIDI1.0のメッセージは8ビット単位でパケット化され、一部のパラメータ(例えばベロシティ、コントローラ値)は0〜127の7ビット解像度です。これにより微細な表現が必要な場面では限界を感じることがあります。MIDIファイル(SMF: Standard MIDI File)はPPQN(Pulses Per Quarter Note)という時間分解能でタイミングを管理します。一般的なPPQNは96、480、960などが使われます。同期にはMIDIクロック(24ppq)やMTC(MIDI Time Code)が使われます。
MIDIファイルとタイプ
Standard MIDI File(SMF)は主にType 0とType 1があります。Type 0は全イベントを単一トラックに格納する方式、Type 1は複数トラックを保持しトラック毎に楽器やパートを分けられます。DAWや譜面ソフトではType 1が一般的に扱いやすいです。また、SMFにはテンポ、メトリック、プログラムチェンジ、SysExなども含められます。
MPE(MIDI Polyphonic Expression)と表現力の向上
MPEは各音符に対して独立したMIDIチャンネルを割り当て、ピッチベンドや圧力などのコントロールを各音符単位で行える規格です。これにより、指ごとのベンドや圧力の表現が可能になり、より自然で有機的な表現ができます。MPEは特にモジュラーシンセ、ソフトウェアシンセ、表現型コントローラ(Roli Seaboardなど)で採用されており、現代の演奏表現を大きく拡張しています。
MIDI 2.0:何が変わったのか
MIDI 2.0は互換性を保ちつつ新たな表現と精度を導入する大規模なアップデートです。主な特徴は以下の通りです。
- 高解像度:パラメータの分解能が大幅に向上し、コントローラやピッチの精細な変化を扱える。
- MIDI Capability Inquiry(MIDI‑CI):機器間で対応機能や設定を自動交渉する仕組み。
- Universal MIDI Packet(UMP):USBやネットワーク向けにパケット化された新しい伝送方式。
- プロファイルとプロパティ交換:楽器やソフトウェアが機能プロファイルを交換し、互換性と自動設定を容易にする。
MIDI2.0は既存のMIDI1.0機器との下位互換性を重視しており、トランスレーションレイヤを介して両者を混在させることができます。ただし普及には時間がかかり、MIDI2.0対応機器とソフトウェアは段階的に増えています。
物理層と伝送手段
伝統的には5ピンDINコネクタのMIDI DINが使われてきましたが、現代ではUSB‑MIDIが主流です。さらにネットワークMIDI(RTP‑MIDIやAppleのNetwork MIDI)やBluetooth MIDIも一般化しています。それぞれの伝送方式で注意すべき点は遅延(レイテンシ)とジッタです。ライブ演奏では低レイテンシが求められ、USBや専用MIDIインターフェースが推奨されます。
実践的な使い方とベストプラクティス
以下は実務で役立つポイントです。
- チャンネル管理:複数音源を扱う場合はチャンネル割り当てを明確にし、Program Changeの整合性を保つ。
- MPE設定:MPE機器を使う際はMPEモード(チャンネルレンジ)と応答するシンセの設定を確認する。
- SysExの扱い:機種固有のパッチ送受信ではSysExを利用するが、誤ったSysEx送信は機器を不安定にする恐れがあるので注意する。
- タイミングとクオンタイズ:MIDIの微妙なニュアンスを残すために過度のクオンタイズは避け、必要なら後処理で補正する。
- バックアップ:大型ライブや複雑なパッチ構成ではパッチのバックアップとレビューを複数箇所に保管する。
トラブルシューティングとセキュリティ
よくある問題点と対処法:
- ノートの消失やステック:Note Onが送信されてもNote Offが届かないとサウンドが鳴り続ける。全ノートオフメッセージやAll Sound Offを送る。
- クロック同期のズレ:ホスト間のマスター選定やMIDIクロックの安定性確認。RTP‑MIDIなどネットワークの場合はパケット遅延を監視。
- SysExの悪用:SysExは機器に深くアクセスできるため、信頼しないソースからのSysExは受けないようにする。
MIDIの応用分野と未来展望
MIDIはDAWによる作曲・編曲、ハードウェアシンセの操作、映画音楽の打ち込み、舞台演出の同期など多岐に渡ります。MIDI2.0とMPEの発展により演奏表現がより直感的かつ高精度になり、新世代のコントローラやAI音楽生成とも結びついていくでしょう。加えてネットワーク経由のコラボレーションやクラウド連携、教育用途での標準化が進むと予想されます。
導入・運用時のチェックリスト
- 使用機器のMIDIチャンネルとポートを整理する。
- USBドライバやファームウェアを最新版にする。
- SysEx送受信の範囲を理解し、必要に応じてフィルタリングする。
- MIDI2.0対応機器を導入する際はMIDI‑CIの動作確認を行う。
- ライブ用にはハードウェアインターフェースと冗長性を考えた配線を用意する。
まとめ
MIDIは単なる古い伝送プロトコルではなく、進化を続ける強力な音楽情報の橋渡しです。基本を抑え、MPEやMIDI2.0といった新規格の理解を深めることで、制作・演奏・サウンドデザインの表現力は飛躍的に向上します。実務ではチャンネル管理、タイミング、SysExの取り扱いに注意し、導入時には機器間の互換性と設定を事前に検証してください。
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参考文献
- MIDI Association - What is MIDI?
- MIDI Messages - MIDI Association
- MIDI 2.0 Overview - MIDI Association
- MIDI Polyphonic Expression (MPE) - MIDI Association
- RFC 6295 - RTP MIDI
- MIDI - Wikipedia (日本語)
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