「ターン」とは何か:歴史・表記・演奏上の実践を徹底解説

はじめに:本コラムの対象範囲

ここでは「ターン(turn)」を、主に西洋古典音楽で用いられる装飾音(ornament)の一つとして取り上げます。ジャズのターンアラウンド(turnaround)など和声進行上の用語は扱わず、旋律上の装飾技法としてのターンに焦点を当てます。

ターンとは何か(基本定義)

ターンは、1つの主音(対象音)を飾るために用いられる短い連続音群で、通常は「上隣音→主音→下隣音→主音」の4音から成ります。記譜上は横倒しの“S”字状の記号(ターン記号)が用いられ、しばしば主音の上または下に置かれます。反転ターン(inverted turn)は上下関係が逆になり、主音の周辺音の順序が「下→主→上→主」となります。

表記のバリエーションとその意味

ターンにはいくつかの表記上の変化があり、それぞれ演奏上の解釈に影響します。代表的なものを挙げます。

  • 通常のターン記号:上隣→主→下隣→主の4音で演奏することを示唆します。
  • 反転ターン(記号が上下反転):下隣→主→上隣→主を示します。
  • 記号に斜線(縦線)が付く場合:古典派以降の写譜や楽譜校訂では、時に特定の隣音を半音上げる/下げる意図や、2音化(主音を含めて2つの音のみで処理する)を示すことがありますが、その意味は時代や作曲家、版によって異なります。したがって校訂報告や作曲家の注釈を確認する必要があります。

歴史的変遷:バロックからロマン派まで

ターンの解釈は時代と地域で大きく変わります。

  • バロック期(17–18世紀初期):装飾音は即興的な側面を強く持ち、各地域(フランス、イタリア、ドイツ)で慣習が異なりました。フランスの"agréments"は非常に細やかな規則を持ち、ターンもその体系内で扱われました。J.S.バッハの装飾表(Table of Ornaments)やフランスの写本に基づく慣習が演奏の基準となります。
  • 古典派(モーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン初期):装飾はより明確に記譜されるようになり、ターンも楽譜上の位置(拍頭か拍前か)と演奏法が意識されるようになりました。モーツァルトやハイドンの楽譜ではターンが短く切れの良い形で用いられます。
  • ロマン派以降:作曲家によっては装飾の解釈を明確に指定することが増え、ピアノ音楽などではターンがより作曲的・表現的に用いられるようになりました(ショパンなど)。

音楽実践:拍とタイミング(いつ演奏するか)

ターンをいつ演奏するか(拍の直前に短く入れるか、拍の上で始めるか)は演奏における大きな判断です。明確な規則はなく、以下の指針が一般的です。

  • バロック的慣習では、短い装飾(ターンを含む)はしばしば拍の直前に行われる場合があり、拍の重さを崩さずに準備的に働きます(特に歌や器楽のレチタティーヴォ的フレーズで)。
  • 古典派の楽曲では、ターンが拍上で始まることも多く、その場合はターンの4音が主音の音価を細分して埋めます(例:4分音符を4つの16分音符に分けるなど)。
  • テンポや拍子、楽曲の語法に応じて解釈が変わるため、原典版や作曲家の自筆譜、同時代の奏法書(Quantz、C.P.E.バッハ等)を参照して決定します。

楽器別の留意点

  • 鍵盤楽器:和音や伴奏の持続があるため、ターンは旋律線を明確にすることが重要です。ペダル使用(ピアノ)や音の重なりを考慮し、音の長さと明瞭さを調整します。
  • 弦楽器:弓の分割(スピッカートやレガート)でターンの各音の連続性とアクセントを設計します。特にヴィブラートやポルタメントと衝突しないよう注意します。
  • 管楽器・声楽:呼吸やフレージングを考慮して、ターンを自然な呼吸区間内に収める必要があります。フルートなど古楽器ではマウスピースや穴の使い方でニュアンスが変わります。

演奏上の実践的アドバイス(練習法)

ターンを自然に表現するための練習法をいくつか挙げます。

  • メトロノームを使い、主音の音価を等分して4音で均等に刻む練習から始める(ゆっくり→中庸→楽曲テンポ)。
  • 上始め/下始めの両方で弾いて感触を確かめ、楽曲の流れに合う方を選ぶ。特にバロックと古典で好まれる開始音が異なることを意識する。
  • スラー/アクセントの有無を変えて試し、旋律ラインの自然さやテクスチャー(和声との関係)が損なわれないようにする。
  • 原典(自筆譜/初版)に目を通し、校訂者の注釈や異稿を確認する。近代版だけに頼ると誤解が生じることがある。

楽曲事例と具体的解釈

代表的な作曲家ごとの扱い方の傾向を挙げます(個別作品による差異あり)。

  • J.S.バッハ:装飾表に基づいて厳密に処理されることがしばしば。短いフレーズでは拍前に挿入されることもある。
  • モーツァルト:ターンは拍の上で明確に処理されることが多く、等速に近い分割で演奏される。
  • ベートーヴェン以降:作曲家の指示が増えるため、楽譜上の指示や演奏史的背景を重視する。
  • ショパン、リストなどロマン派:装飾がより情緒的・個人的な意味を帯びる。自由なルバートや音色変化を伴いやすい。

編集上・校訂上の注意点

楽譜に現れるターン記号は、写譜ミスや版の差異で意味が変わる場合があります。編集者は以下を確認するべきです。

  • 自筆譜や初版の写しが存在するかどうか。複数版で表記が異なれば文脈から最良解を選ぶ。
  • 作曲家の他の作品での装飾の扱い方と照合する。作曲家固有の慣習が見られる場合がある。
  • 解釈注記を付すこと。現代の演奏家に向け、拍取り・開始音・半音化などの推奨解釈を明示すると親切である。

よくある誤解と落とし穴

ターンに関して演奏家や編集者が陥りやすい誤解をまとめます。

  • 「ターンは常に同じように演奏する」:実際には時代・作曲家・楽器によって解釈が異なります。
  • 「記号の縦線は常に同じ意味」:版ごとの解釈差が大きく、無条件に半音変更などを適用すると誤りになる場合があります。
  • 「速度が速ければ何でも許される」:テンポに合わせた比率や拍感の維持が不可欠で、ただ速くするだけでは音楽性が失われます。

まとめ:ターンは文脈で変わる表現手段

ターンは短く単純に見える装飾ですが、実務的には文脈依存性が高く、正しい解釈には史料・作曲家習慣・楽器特性・テンポ感などを総合的に判断する必要があります。原典に当たり、複数の演奏例や同時代の奏法書を参照しながら、自分の音楽観に合った説得力ある解釈を作ることが大切です。

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参考文献